《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

27-3.盗み聞き

 ふんっ、とバトリは鼻息を荒げた。


「チャンスをやったと言うのに、人間どもめ、やはりそういう結論に至るというわけか」


 地下の牢獄に閉じ込められていながらも、会議の内容をバトリはシッカリと聞きとったようだ。


「聞こえたっスか?」
 と、シャルリスが尋ねた。


「こんな鉄格子なんかで、ワシを閉じ込められるわけなかろうに。ワシは自在にカラダを伸び縮みさせることが出来るんじゃぞ」


 牢獄は石造りの個室になっている。天井からはドワーフたちの里から採掘された、光鉱石が吊るされている。それが照明になっている。


 シャルリスはベッドに腰かけていた。


 バトリはシャリリスの右手の甲から細長い肉を伸ばしていた。その肉の先端には耳がついており、会議の内容を盗み聞きしていたというわけだ。
 その肉がスルスルと蛇のように、シャルリスのもとへ戻ってきた。


「これじゃあわざわざ、自分から牢獄に入った意味ないっスよ」


「自分から牢獄に入るって、意味わからんぞ」
 と、バトリが呆れたように言う。


「あんたが、いつ誰かを襲うかわからないから、こうやって自分から閉じ込もったんじゃないっスか!」


 怒鳴った。
 声が響く。


「なんじゃ、ワシのせいか」
 と、バトリはクチ先をとがらせて、不服そうに言い返してきた。


「そう言ってるっスよ。だいたいボクに寄生したりするから、ボクの人生はメチャクチャなんじゃないっスか」


 いまではもう制御もきかないのだ。幸いにも今のところバトリは妙なことをしようとはしていない。


 が。
 人を襲うようなことがあっても、もうシャルリスには止められない。


「よぉ言うわ。ワシがいなけりゃ、オヌシはロンと出会うこともなかったし、竜騎士になんてなれてなかったわ」


「うっ……」
 たしかにその通りなので、言い返せない。


「オヌシもワシと同じく始祖ならば、人間なんて見限れば良かろう」


「そうはいかないっスよ。今まで一緒に生活してきた仲間が、ボクにはいるんっスから」


 それで、とシャルリスは尋ねた。


「会議の内容は、どういう案配だったスか?」


「胸糞の悪くなる内容じゃったぞ」


 シャルリスとバトリを分離させる。そしてシャルリスにゾンビ化を治癒してもらい、バトリにはドラゴンの餌になってもらう――ということだった。


 それを聞いたシャルリスは、胸を刺されたような悲懐を覚えた。


 ドラゴンに食われているバトリのことを、シャルリスは知っている。


 夢――というか、バトリの記憶で見ている。また、ああやって、バトリのことを餌にするのかと思うと、やるせない気持ちになった。


「ロン隊長も、それに賛成なんっスかね?」


「いや。あやつだけは異論を唱えておったがな。しかし、あやつに権力はない。このままではワシはまた餌になるしかない」


「どうにかならないっスかね」


「なぁ、シャルリス。ババ抜きというゲームを知っておるか?」


「なんっスか、急に。トランプでしょ。ジョーカーを押し付け合うゲームっスよ」


「あれは、よく出来たゲームじゃと思うておってな」


「そうっスかね? 単純なゲームなんで、ボクはあんまり面白いと思わないっスけど」


 最後まで聞け――と、バトリがつづけた。


「この世界は、ババ抜きじゃ。ジョーカーという不幸を、誰かに押し付けるゲームというわけじゃな。オヌシも今まで見てきたじゃろう。不幸を他人に押し付けてやろうとする、人間の浅ましさを」


【都市竜クルスニク脱出作戦】では、感染した人たちを切り捨てた。いまでもあの悲劇は、鮮明におぼえている。


 帝都竜ヘルシングでは、クルスニク人を追い出そうとする人たちがいた。
 たしかにバトリの言うような惨状を、シャルリスは見てきている。


「でも、それだけじゃないっスよ。助け合おうとする人たちだっているっスから」


「何にせよ、イケニエは必要というわけじゃ。ドラゴンを制御するための、餌、となる存在がな」


「……」


「なぁ、シャルリス……」
 と、バトリはシャルリスの頬に手をかけてきた。
 冷たい手をしている。氷みたいだ。
 バトリは寂しげな表情で、シャルリスのことを覗きこんできた。


「なんっスか?」


「オヌシも同じか? ワシに餌になれと言うのか?」


「そんなことは、ないっスよ」


 ブレイブ王国のお姫さま。幼いころに国を支配されて、奴隷として使役されていた。実験体にされて、ドラゴンの餌にされた。
 そしていまこの時代でも、ふたたび餌にされそうになっている。
 あまりに悲惨だ、と思う。


「ならばワシを助けておくれ? 良かろう?」


「助けるって言っても、ボクにはどうすることも出来ないっスよ」


「ここから逃げる」


「それなら別に、ボクに許可を取らなくても良いじゃないっスか」


「残念ながら、ワシではこの牢獄を破壊することは出来ん。さすがに人間たちも、そこまでバカではないようでな」


 バトリは手を伸ばすと、鉄格子を前後にゆすった。


「バトリなら、これぐらいの鉄格子、簡単に壊せるはずっスよ」


「これは鉄格子ではない」


「なんっスか?」


 あらためて格子を手でナでてみた。つるつるしてる。揺すってもビクともしないけれど、それはシャルリスの筋力だからだ。バトリなら出来るだろうに、と思う。


「これは、ドラゴンのウロコで作られたものじゃ。まさかこの短期間に用意したとは思えんが、ワシを閉じ込めておくにはピッタリじゃ」 


「げッ。じゃあ逃げれないじゃないっスか」


 ドラゴンのウロコは、加工品でも頑強だ。そう簡単には壊せない。


「じゃから、オヌシの協力が必要だと言うておろうが、どうにか抜け出しておくれ。ワシが媚びても、誰も出してはくれん。オヌシが媚びれば、誰か出してくれるじゃろう」


「媚びるって、どうやって?」


「色気とかで誘惑するとかじゃな……。まぁ、オヌシに期待しても、それはムリというものか」


「な、なに言ってンですか! ボクだって色気ぐらいあるっスよ!」


「あー。悪い悪い」
 と、バトリは適当にあやまった。


「ッたく」
 しかし、バトリをここから逃がしてやろうという方針で、シャルリスの意向は固まっていた。


 また餌にするのは、あまりに不憫だ。

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