《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
27-3.盗み聞き
ふんっ、とバトリは鼻息を荒げた。
「チャンスをやったと言うのに、人間どもめ、やはりそういう結論に至るというわけか」
地下の牢獄に閉じ込められていながらも、会議の内容をバトリはシッカリと聞きとったようだ。
「聞こえたっスか?」
と、シャルリスが尋ねた。
「こんな鉄格子なんかで、ワシを閉じ込められるわけなかろうに。ワシは自在にカラダを伸び縮みさせることが出来るんじゃぞ」
牢獄は石造りの個室になっている。天井からはドワーフたちの里から採掘された、光鉱石が吊るされている。それが照明になっている。
シャルリスはベッドに腰かけていた。
バトリはシャリリスの右手の甲から細長い肉を伸ばしていた。その肉の先端には耳がついており、会議の内容を盗み聞きしていたというわけだ。
その肉がスルスルと蛇のように、シャルリスのもとへ戻ってきた。
「これじゃあわざわざ、自分から牢獄に入った意味ないっスよ」
「自分から牢獄に入るって、意味わからんぞ」
と、バトリが呆れたように言う。
「あんたが、いつ誰かを襲うかわからないから、こうやって自分から閉じ込もったんじゃないっスか!」
怒鳴った。
声が響く。
「なんじゃ、ワシのせいか」
と、バトリはクチ先をとがらせて、不服そうに言い返してきた。
「そう言ってるっスよ。だいたいボクに寄生したりするから、ボクの人生はメチャクチャなんじゃないっスか」
いまではもう制御もきかないのだ。幸いにも今のところバトリは妙なことをしようとはしていない。
が。
人を襲うようなことがあっても、もうシャルリスには止められない。
「よぉ言うわ。ワシがいなけりゃ、オヌシはロンと出会うこともなかったし、竜騎士になんてなれてなかったわ」
「うっ……」
たしかにその通りなので、言い返せない。
「オヌシもワシと同じく始祖ならば、人間なんて見限れば良かろう」
「そうはいかないっスよ。今まで一緒に生活してきた仲間が、ボクにはいるんっスから」
それで、とシャルリスは尋ねた。
「会議の内容は、どういう案配だったスか?」
「胸糞の悪くなる内容じゃったぞ」
シャルリスとバトリを分離させる。そしてシャルリスにゾンビ化を治癒してもらい、バトリにはドラゴンの餌になってもらう――ということだった。
それを聞いたシャルリスは、胸を刺されたような悲懐を覚えた。
ドラゴンに食われているバトリのことを、シャルリスは知っている。
夢――というか、バトリの記憶で見ている。また、ああやって、バトリのことを餌にするのかと思うと、やるせない気持ちになった。
「ロン隊長も、それに賛成なんっスかね?」
「いや。あやつだけは異論を唱えておったがな。しかし、あやつに権力はない。このままではワシはまた餌になるしかない」
「どうにかならないっスかね」
「なぁ、シャルリス。ババ抜きというゲームを知っておるか?」
「なんっスか、急に。トランプでしょ。ジョーカーを押し付け合うゲームっスよ」
「あれは、よく出来たゲームじゃと思うておってな」
「そうっスかね? 単純なゲームなんで、ボクはあんまり面白いと思わないっスけど」
最後まで聞け――と、バトリがつづけた。
「この世界は、ババ抜きじゃ。ジョーカーという不幸を、誰かに押し付けるゲームというわけじゃな。オヌシも今まで見てきたじゃろう。不幸を他人に押し付けてやろうとする、人間の浅ましさを」
【都市竜クルスニク脱出作戦】では、感染した人たちを切り捨てた。いまでもあの悲劇は、鮮明におぼえている。
帝都竜ヘルシングでは、クルスニク人を追い出そうとする人たちがいた。
たしかにバトリの言うような惨状を、シャルリスは見てきている。
「でも、それだけじゃないっスよ。助け合おうとする人たちだっているっスから」
「何にせよ、イケニエは必要というわけじゃ。ドラゴンを制御するための、餌、となる存在がな」
「……」
「なぁ、シャルリス……」
と、バトリはシャルリスの頬に手をかけてきた。
冷たい手をしている。氷みたいだ。
バトリは寂しげな表情で、シャルリスのことを覗きこんできた。
「なんっスか?」
「オヌシも同じか? ワシに餌になれと言うのか?」
「そんなことは、ないっスよ」
ブレイブ王国のお姫さま。幼いころに国を支配されて、奴隷として使役されていた。実験体にされて、ドラゴンの餌にされた。
そしていまこの時代でも、ふたたび餌にされそうになっている。
あまりに悲惨だ、と思う。
「ならばワシを助けておくれ? 良かろう?」
「助けるって言っても、ボクにはどうすることも出来ないっスよ」
「ここから逃げる」
「それなら別に、ボクに許可を取らなくても良いじゃないっスか」
「残念ながら、ワシではこの牢獄を破壊することは出来ん。さすがに人間たちも、そこまでバカではないようでな」
バトリは手を伸ばすと、鉄格子を前後にゆすった。
「バトリなら、これぐらいの鉄格子、簡単に壊せるはずっスよ」
「これは鉄格子ではない」
「なんっスか?」
あらためて格子を手でナでてみた。つるつるしてる。揺すってもビクともしないけれど、それはシャルリスの筋力だからだ。バトリなら出来るだろうに、と思う。
「これは、ドラゴンのウロコで作られたものじゃ。まさかこの短期間に用意したとは思えんが、ワシを閉じ込めておくにはピッタリじゃ」
「げッ。じゃあ逃げれないじゃないっスか」
ドラゴンのウロコは、加工品でも頑強だ。そう簡単には壊せない。
「じゃから、オヌシの協力が必要だと言うておろうが、どうにか抜け出しておくれ。ワシが媚びても、誰も出してはくれん。オヌシが媚びれば、誰か出してくれるじゃろう」
「媚びるって、どうやって?」
「色気とかで誘惑するとかじゃな……。まぁ、オヌシに期待しても、それはムリというものか」
「な、なに言ってンですか! ボクだって色気ぐらいあるっスよ!」
「あー。悪い悪い」
と、バトリは適当にあやまった。
「ッたく」
しかし、バトリをここから逃がしてやろうという方針で、シャルリスの意向は固まっていた。
また餌にするのは、あまりに不憫だ。
「チャンスをやったと言うのに、人間どもめ、やはりそういう結論に至るというわけか」
地下の牢獄に閉じ込められていながらも、会議の内容をバトリはシッカリと聞きとったようだ。
「聞こえたっスか?」
と、シャルリスが尋ねた。
「こんな鉄格子なんかで、ワシを閉じ込められるわけなかろうに。ワシは自在にカラダを伸び縮みさせることが出来るんじゃぞ」
牢獄は石造りの個室になっている。天井からはドワーフたちの里から採掘された、光鉱石が吊るされている。それが照明になっている。
シャルリスはベッドに腰かけていた。
バトリはシャリリスの右手の甲から細長い肉を伸ばしていた。その肉の先端には耳がついており、会議の内容を盗み聞きしていたというわけだ。
その肉がスルスルと蛇のように、シャルリスのもとへ戻ってきた。
「これじゃあわざわざ、自分から牢獄に入った意味ないっスよ」
「自分から牢獄に入るって、意味わからんぞ」
と、バトリが呆れたように言う。
「あんたが、いつ誰かを襲うかわからないから、こうやって自分から閉じ込もったんじゃないっスか!」
怒鳴った。
声が響く。
「なんじゃ、ワシのせいか」
と、バトリはクチ先をとがらせて、不服そうに言い返してきた。
「そう言ってるっスよ。だいたいボクに寄生したりするから、ボクの人生はメチャクチャなんじゃないっスか」
いまではもう制御もきかないのだ。幸いにも今のところバトリは妙なことをしようとはしていない。
が。
人を襲うようなことがあっても、もうシャルリスには止められない。
「よぉ言うわ。ワシがいなけりゃ、オヌシはロンと出会うこともなかったし、竜騎士になんてなれてなかったわ」
「うっ……」
たしかにその通りなので、言い返せない。
「オヌシもワシと同じく始祖ならば、人間なんて見限れば良かろう」
「そうはいかないっスよ。今まで一緒に生活してきた仲間が、ボクにはいるんっスから」
それで、とシャルリスは尋ねた。
「会議の内容は、どういう案配だったスか?」
「胸糞の悪くなる内容じゃったぞ」
シャルリスとバトリを分離させる。そしてシャルリスにゾンビ化を治癒してもらい、バトリにはドラゴンの餌になってもらう――ということだった。
それを聞いたシャルリスは、胸を刺されたような悲懐を覚えた。
ドラゴンに食われているバトリのことを、シャルリスは知っている。
夢――というか、バトリの記憶で見ている。また、ああやって、バトリのことを餌にするのかと思うと、やるせない気持ちになった。
「ロン隊長も、それに賛成なんっスかね?」
「いや。あやつだけは異論を唱えておったがな。しかし、あやつに権力はない。このままではワシはまた餌になるしかない」
「どうにかならないっスかね」
「なぁ、シャルリス。ババ抜きというゲームを知っておるか?」
「なんっスか、急に。トランプでしょ。ジョーカーを押し付け合うゲームっスよ」
「あれは、よく出来たゲームじゃと思うておってな」
「そうっスかね? 単純なゲームなんで、ボクはあんまり面白いと思わないっスけど」
最後まで聞け――と、バトリがつづけた。
「この世界は、ババ抜きじゃ。ジョーカーという不幸を、誰かに押し付けるゲームというわけじゃな。オヌシも今まで見てきたじゃろう。不幸を他人に押し付けてやろうとする、人間の浅ましさを」
【都市竜クルスニク脱出作戦】では、感染した人たちを切り捨てた。いまでもあの悲劇は、鮮明におぼえている。
帝都竜ヘルシングでは、クルスニク人を追い出そうとする人たちがいた。
たしかにバトリの言うような惨状を、シャルリスは見てきている。
「でも、それだけじゃないっスよ。助け合おうとする人たちだっているっスから」
「何にせよ、イケニエは必要というわけじゃ。ドラゴンを制御するための、餌、となる存在がな」
「……」
「なぁ、シャルリス……」
と、バトリはシャルリスの頬に手をかけてきた。
冷たい手をしている。氷みたいだ。
バトリは寂しげな表情で、シャルリスのことを覗きこんできた。
「なんっスか?」
「オヌシも同じか? ワシに餌になれと言うのか?」
「そんなことは、ないっスよ」
ブレイブ王国のお姫さま。幼いころに国を支配されて、奴隷として使役されていた。実験体にされて、ドラゴンの餌にされた。
そしていまこの時代でも、ふたたび餌にされそうになっている。
あまりに悲惨だ、と思う。
「ならばワシを助けておくれ? 良かろう?」
「助けるって言っても、ボクにはどうすることも出来ないっスよ」
「ここから逃げる」
「それなら別に、ボクに許可を取らなくても良いじゃないっスか」
「残念ながら、ワシではこの牢獄を破壊することは出来ん。さすがに人間たちも、そこまでバカではないようでな」
バトリは手を伸ばすと、鉄格子を前後にゆすった。
「バトリなら、これぐらいの鉄格子、簡単に壊せるはずっスよ」
「これは鉄格子ではない」
「なんっスか?」
あらためて格子を手でナでてみた。つるつるしてる。揺すってもビクともしないけれど、それはシャルリスの筋力だからだ。バトリなら出来るだろうに、と思う。
「これは、ドラゴンのウロコで作られたものじゃ。まさかこの短期間に用意したとは思えんが、ワシを閉じ込めておくにはピッタリじゃ」
「げッ。じゃあ逃げれないじゃないっスか」
ドラゴンのウロコは、加工品でも頑強だ。そう簡単には壊せない。
「じゃから、オヌシの協力が必要だと言うておろうが、どうにか抜け出しておくれ。ワシが媚びても、誰も出してはくれん。オヌシが媚びれば、誰か出してくれるじゃろう」
「媚びるって、どうやって?」
「色気とかで誘惑するとかじゃな……。まぁ、オヌシに期待しても、それはムリというものか」
「な、なに言ってンですか! ボクだって色気ぐらいあるっスよ!」
「あー。悪い悪い」
と、バトリは適当にあやまった。
「ッたく」
しかし、バトリをここから逃がしてやろうという方針で、シャルリスの意向は固まっていた。
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