《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
26-4.密談
夜。
シャルリスは、天蓋つきのベッドで眠りについていた。
かつては帝国の姫さまの寝室として使われていた部屋だ。虫が巣食っていたが、使えるようにディヌが整えてくれたそうだ。
たしかにベッドは場違いに清潔だったし、シャルリスの全身をふかふかと抱いてくれた。
眠っているシャルリスから、バトリはカラダを生やしていた。
「呆れた娘じゃな。誘拐されているというのに、グッスリ眠っておるわ。豪胆と言うべきなのか」 と、バトリは言った。
「頼もしいではありませんか」
と、ディヌが応じた。
眠っていると勘違いしているようだが、シャルリスはまだ起きていた。寝たふりだ。2人がどういうヤリトリをするのか聞いておきたかった。
薄く目を開ける。
バトリはシャルリスの腰のあたりから上半身を生やしていた。
ディヌは四脚イスに腰掛けて、窓から差しいる月明かりを受けていた。
「オヌシ、シャルリスに話していたことは真か?」
「ウソではありません。バトリだってわかるでしょう。人の真の敵はドラゴンです。人間はドラゴンとの戦いを避けるために、食用人間を作ったんですから」
「そうではない」
と、バトリはかぶりを振った。
「じゃあ、何です?」
「本気でドラゴンを相手にするつもりなにかと訊いておる」
「バトリ王女は、憎くないのですか。ドラゴンが」
と、ディヌがバトリに尋ねていた。
ディヌはバトリのことを呼び捨てにすることもあるようだし、「王女」とつけることもあるようだ。そのときの気分によって使い分けているのかもしれない。
「そりゃ憎い。ワシのカラダを食い散らかしやがった恨みはある」
「なら、望みは同じでしょう」
「しかしワシは、人類も憎い。ワシから親を奪い、国を奪い、そして婚約者であるオヌシも奪われた。人間として生きる権利すら奪われた」
と、バトリは歯ぎしりしながらそう言った。
歯ぎしりする音が、シャルリスの耳にも伝わってきた。
「バトリ王女。人類を憎んでも仕方ありませんよ。すべてはドラゴンのせいです」
「それはそうじゃが……」
ぴたりとバトリから、怒気が途切れるのがわかった。
「オレはもう許しましたよ。ふたたびあなたとこうして、出会うことが出来た。それだけで満足です」
「ようそんな照れ臭いことを、堂々と言えるもんじゃな」
「照れ臭いと感じるほど、もう若くもないですからね」
「お互い2000歳を超えたババァとジジィじゃしな」
「カラダを若く保てるのは、《不死の魔力》に感謝ですね」
ふたりは、クスクス、と笑い合っていた。
2000年の時を経て、ふたりは巡り合ったのだ。そう思うと、ロマンチックなような気がしないでもない。
ただ、バトリもディヌも始祖なのだ。ゾンビなのだ。バトリにいたっては、シャルリスのカラダから生えているのだ。
そう思うと、素直に感動できない。
「しかし、信用できんな。オヌシはシャルリスに告白しておったではないか」
「かつてのあなたにソックリでしたから、つい」 と、ディヌが照れ臭そうに言っていた。
あの告白が、シャルリス本人に向けられたものではなくて、バトリを投影していたものだと思うと、すこし残念な気持ちになった。
「たしかにこの娘は、ワシに似ておる。子供を生んだ覚えはないが、同じブレイブ王国の同胞じゃからな」
バトリがシャルリスのほうを振り向いた。薄く目を開けていることがバレたかと思って、ドキッとした。バレなかったようだ。
バトリは上半身をさらに伸ばすと、イスに座っているディヌにもたれかかるようにしていた。
ディヌという男にからみつく、バトリの姿は、まるで一本の大樹に絡みつく蔓を見ているかのようだった。
「幸いにも都市竜と言われる者たちは、老衰しかかっている。残っているのは仔竜ばかりです。ドラゴンを全滅させるならば、この時代において他にありません」
「まぁ、人類への復讐はさておき、ドラゴンどもを殲滅させることは、ワシにも異論はない。ワシの肉を貪りやがった仕返しをしてやらねばならん」
「ドラゴンが敵だという考えを、人類側に伝える必要があります。人類はいまだに竜神教の影響を受けて、ドラゴンを崇めている者もすくなくない」
「ムリじゃろう。ワシら始祖が話しても、聞く耳を持ってくれるとは思えん」
「そのためにシャルリスが必要なのです。使者として、シャルリスに話してもらいましょう。シャルリスはノスフィルト家の御令嬢や、エレノア竜騎士長の妹ともつながりを持っていますから、決して無視はされないはずです」
「なるほど。シャルリスのことを、よく調べておるな」
「そりゃ、シャルリスを誘拐する今回の計画は、よく練りましたから」
ふたりはまだ何か話をしていたようだ。眠っているフリをしているうちに、シャルリスは本気で眠りに落ちてしまった。
いまのヤリトリが、ホントウにあった会話なのか、それとも夢の中で聞いたことだったのかは曖昧だった。
シャルリスは、天蓋つきのベッドで眠りについていた。
かつては帝国の姫さまの寝室として使われていた部屋だ。虫が巣食っていたが、使えるようにディヌが整えてくれたそうだ。
たしかにベッドは場違いに清潔だったし、シャルリスの全身をふかふかと抱いてくれた。
眠っているシャルリスから、バトリはカラダを生やしていた。
「呆れた娘じゃな。誘拐されているというのに、グッスリ眠っておるわ。豪胆と言うべきなのか」 と、バトリは言った。
「頼もしいではありませんか」
と、ディヌが応じた。
眠っていると勘違いしているようだが、シャルリスはまだ起きていた。寝たふりだ。2人がどういうヤリトリをするのか聞いておきたかった。
薄く目を開ける。
バトリはシャルリスの腰のあたりから上半身を生やしていた。
ディヌは四脚イスに腰掛けて、窓から差しいる月明かりを受けていた。
「オヌシ、シャルリスに話していたことは真か?」
「ウソではありません。バトリだってわかるでしょう。人の真の敵はドラゴンです。人間はドラゴンとの戦いを避けるために、食用人間を作ったんですから」
「そうではない」
と、バトリはかぶりを振った。
「じゃあ、何です?」
「本気でドラゴンを相手にするつもりなにかと訊いておる」
「バトリ王女は、憎くないのですか。ドラゴンが」
と、ディヌがバトリに尋ねていた。
ディヌはバトリのことを呼び捨てにすることもあるようだし、「王女」とつけることもあるようだ。そのときの気分によって使い分けているのかもしれない。
「そりゃ憎い。ワシのカラダを食い散らかしやがった恨みはある」
「なら、望みは同じでしょう」
「しかしワシは、人類も憎い。ワシから親を奪い、国を奪い、そして婚約者であるオヌシも奪われた。人間として生きる権利すら奪われた」
と、バトリは歯ぎしりしながらそう言った。
歯ぎしりする音が、シャルリスの耳にも伝わってきた。
「バトリ王女。人類を憎んでも仕方ありませんよ。すべてはドラゴンのせいです」
「それはそうじゃが……」
ぴたりとバトリから、怒気が途切れるのがわかった。
「オレはもう許しましたよ。ふたたびあなたとこうして、出会うことが出来た。それだけで満足です」
「ようそんな照れ臭いことを、堂々と言えるもんじゃな」
「照れ臭いと感じるほど、もう若くもないですからね」
「お互い2000歳を超えたババァとジジィじゃしな」
「カラダを若く保てるのは、《不死の魔力》に感謝ですね」
ふたりは、クスクス、と笑い合っていた。
2000年の時を経て、ふたりは巡り合ったのだ。そう思うと、ロマンチックなような気がしないでもない。
ただ、バトリもディヌも始祖なのだ。ゾンビなのだ。バトリにいたっては、シャルリスのカラダから生えているのだ。
そう思うと、素直に感動できない。
「しかし、信用できんな。オヌシはシャルリスに告白しておったではないか」
「かつてのあなたにソックリでしたから、つい」 と、ディヌが照れ臭そうに言っていた。
あの告白が、シャルリス本人に向けられたものではなくて、バトリを投影していたものだと思うと、すこし残念な気持ちになった。
「たしかにこの娘は、ワシに似ておる。子供を生んだ覚えはないが、同じブレイブ王国の同胞じゃからな」
バトリがシャルリスのほうを振り向いた。薄く目を開けていることがバレたかと思って、ドキッとした。バレなかったようだ。
バトリは上半身をさらに伸ばすと、イスに座っているディヌにもたれかかるようにしていた。
ディヌという男にからみつく、バトリの姿は、まるで一本の大樹に絡みつく蔓を見ているかのようだった。
「幸いにも都市竜と言われる者たちは、老衰しかかっている。残っているのは仔竜ばかりです。ドラゴンを全滅させるならば、この時代において他にありません」
「まぁ、人類への復讐はさておき、ドラゴンどもを殲滅させることは、ワシにも異論はない。ワシの肉を貪りやがった仕返しをしてやらねばならん」
「ドラゴンが敵だという考えを、人類側に伝える必要があります。人類はいまだに竜神教の影響を受けて、ドラゴンを崇めている者もすくなくない」
「ムリじゃろう。ワシら始祖が話しても、聞く耳を持ってくれるとは思えん」
「そのためにシャルリスが必要なのです。使者として、シャルリスに話してもらいましょう。シャルリスはノスフィルト家の御令嬢や、エレノア竜騎士長の妹ともつながりを持っていますから、決して無視はされないはずです」
「なるほど。シャルリスのことを、よく調べておるな」
「そりゃ、シャルリスを誘拐する今回の計画は、よく練りましたから」
ふたりはまだ何か話をしていたようだ。眠っているフリをしているうちに、シャルリスは本気で眠りに落ちてしまった。
いまのヤリトリが、ホントウにあった会話なのか、それとも夢の中で聞いたことだったのかは曖昧だった。
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