《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

26-4.密談

 夜。
 シャルリスは、天蓋つきのベッドで眠りについていた。


 かつては帝国の姫さまの寝室として使われていた部屋だ。虫が巣食っていたが、使えるようにディヌが整えてくれたそうだ。


 たしかにベッドは場違いに清潔だったし、シャルリスの全身をふかふかと抱いてくれた。


 眠っているシャルリスから、バトリはカラダを生やしていた。


「呆れた娘じゃな。誘拐されているというのに、グッスリ眠っておるわ。豪胆と言うべきなのか」 と、バトリは言った。


「頼もしいではありませんか」
 と、ディヌが応じた。


 眠っていると勘違いしているようだが、シャルリスはまだ起きていた。寝たふりだ。2人がどういうヤリトリをするのか聞いておきたかった。


 薄く目を開ける。


 バトリはシャルリスの腰のあたりから上半身を生やしていた。
 ディヌは四脚イスに腰掛けて、窓から差しいる月明かりを受けていた。


「オヌシ、シャルリスに話していたことは真か?」


「ウソではありません。バトリだってわかるでしょう。人の真の敵はドラゴンです。人間はドラゴンとの戦いを避けるために、食用人間を作ったんですから」


「そうではない」
 と、バトリはかぶりを振った。


「じゃあ、何です?」


「本気でドラゴンを相手にするつもりなにかと訊いておる」


「バトリ王女は、憎くないのですか。ドラゴンが」 
 と、ディヌがバトリに尋ねていた。


 ディヌはバトリのことを呼び捨てにすることもあるようだし、「王女」とつけることもあるようだ。そのときの気分によって使い分けているのかもしれない。


「そりゃ憎い。ワシのカラダを食い散らかしやがった恨みはある」


「なら、望みは同じでしょう」


「しかしワシは、人類も憎い。ワシから親を奪い、国を奪い、そして婚約者であるオヌシも奪われた。人間として生きる権利すら奪われた」
 と、バトリは歯ぎしりしながらそう言った。
 歯ぎしりする音が、シャルリスの耳にも伝わってきた。


「バトリ王女。人類を憎んでも仕方ありませんよ。すべてはドラゴンのせいです」


「それはそうじゃが……」


 ぴたりとバトリから、怒気が途切れるのがわかった。


「オレはもう許しましたよ。ふたたびあなたとこうして、出会うことが出来た。それだけで満足です」


「ようそんな照れ臭いことを、堂々と言えるもんじゃな」


「照れ臭いと感じるほど、もう若くもないですからね」


「お互い2000歳を超えたババァとジジィじゃしな」


「カラダを若く保てるのは、《不死の魔力》に感謝ですね」


 ふたりは、クスクス、と笑い合っていた。


 2000年の時を経て、ふたりは巡り合ったのだ。そう思うと、ロマンチックなような気がしないでもない。
 ただ、バトリもディヌも始祖なのだ。ゾンビなのだ。バトリにいたっては、シャルリスのカラダから生えているのだ。


 そう思うと、素直に感動できない。


「しかし、信用できんな。オヌシはシャルリスに告白プロポーズしておったではないか」


「かつてのあなたにソックリでしたから、つい」 と、ディヌが照れ臭そうに言っていた。


 あの告白プロポーズが、シャルリス本人に向けられたものではなくて、バトリを投影していたものだと思うと、すこし残念な気持ちになった。


「たしかにこの娘は、ワシに似ておる。子供を生んだ覚えはないが、同じブレイブ王国の同胞じゃからな」


 バトリがシャルリスのほうを振り向いた。薄く目を開けていることがバレたかと思って、ドキッとした。バレなかったようだ。


 バトリは上半身をさらに伸ばすと、イスに座っているディヌにもたれかかるようにしていた。


 ディヌという男にからみつく、バトリの姿は、まるで一本の大樹に絡みつく蔓を見ているかのようだった。


「幸いにも都市竜と言われる者たちは、老衰しかかっている。残っているのは仔竜ばかりです。ドラゴンを全滅させるならば、この時代において他にありません」


「まぁ、人類への復讐はさておき、ドラゴンどもを殲滅させることは、ワシにも異論はない。ワシの肉を貪りやがった仕返しをしてやらねばならん」


「ドラゴンが敵だという考えを、人類側に伝える必要があります。人類はいまだに竜神教の影響を受けて、ドラゴンを崇めている者もすくなくない」


「ムリじゃろう。ワシら始祖が話しても、聞く耳を持ってくれるとは思えん」


「そのためにシャルリスが必要なのです。使者として、シャルリスに話してもらいましょう。シャルリスはノスフィルト家の御令嬢や、エレノア竜騎士長の妹ともつながりを持っていますから、決して無視はされないはずです」


「なるほど。シャルリスのことを、よく調べておるな」


「そりゃ、シャルリスを誘拐する今回の計画は、よく練りましたから」


 ふたりはまだ何か話をしていたようだ。眠っているフリをしているうちに、シャルリスは本気で眠りに落ちてしまった。


 いまのヤリトリが、ホントウにあった会話なのか、それとも夢の中で聞いたことだったのかは曖昧だった。

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