《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
23-3.大悪党ミツマタ
「お前はよく、初対面の相手にそんなにも物怖じすることなく話ができるもんだな」
と、ルエドが困惑気味な表情で言った。
「なんか、文句あるっスか?」
「いや。文句はないが、失礼のないようにな」
と、注意された。
以前のルエドならもうすこし強く注意してきたと思うのだが、それ以上はなにも言って来なかった。
卵黄学園でシャルリスをいじめていたヤマシさがあるのかもしれない。
「まあ、良いではありませんか。それがシャルリスさんの魅力的なところですよ」
と、クチをはさんだ者がいた。
ディヌだ。
シャルリスに告白を仕掛けてきた男である。
ディヌはシャルリスのはす向かいの席に座っていた。
小さく手を振ってきた。
どう返答すれば良いかわからず、曖昧に微笑んだ。
気まずかったので、べつの話題に転じることにした。
「上のみんなは、大丈夫っスかね」
と、シャルリスは会議室の天井を見上げてそう言った。
心配だ。
むろんここから見上げても地上が見えるわけではない。石造りの天井が見えるだけだ。
「案ずることはないだろ。何かあれば伝令を寄越すように言ってあるし、覚者ミツマタもついている」
「まぁ、そうかもしれないっスけど」
結果的に、上にミツマタを残してきたのは正解だったかもしれない。上に残っているほうが圧倒的に危険だ。ゾンビどもは、すぐに生者の匂いをかぎつけてくる。
「覚者ミツマタは、なんだか、ここの族長とはずいぶんと確執がある様子だったな」
「そうっスね」
話してみた感じでは、ゴゴラルも悪い人ではなさそうだ。ミツマタとのあいだに、いったい何があったのか気になる。
「気になるからって、あんまり尋ねるもんじゃないぞ。何か深い事情があるかもしれんのだからな」
と、ルエドがシャルリスの心情を察したかのように、そう言っていさめてきた。
「でも、気になるっスよ」
そんな話をしているあいだに、ゴゴラルがお茶を運んできてくれた。運び込むのに、ほかのドワーフたちも手伝ってくれた。
シャルリスの前にも、お茶が置かれた。土を焼いたのだろう。陶器でできたカップだった。なかには浅い緑をした液体が入っていた。ふつうのハーブティのようだ。ミントの香りが鼻をついた。
ゴゴラルがシャルリスの前にお茶を置いたときに、問いかけてみることにした。
「族長」
「なんじゃ?」
「覚者ミツマタとは、何かあったんっスか?」
その率直な質問に、ルエドがお茶を吹き出していた。ゴゴラルは困惑したような表情をしていたが、さして逡巡することもなくクチを開いた。
「ここに石像が並んであるじゃろう」
「ええ」
たしかに壁際に、ドワーフたちの石像が並べられていた。
ゴゴラルや他のドワーフたちよりも、その石像は頭身がすこし高くなっている。美化したのかもしれない。
「ここに置かれている石像は、ドワーフたちの英傑と呼ばれている者たちじゃ。はるか昔に人間と戦った者。ゾンビをなぎ倒した物。ドラゴンを戦った者。書物を読み解き、ドワーフたちに知識を授けた者。いろんな英傑がおる」
「なんかそう聞くと、勇ましく見えるっスね」
シャルリスがそう言うと、ゴゴラルはうれしそうに微笑んだ。が、すぐにその表情をひきしめた。
「あそこにイーヴァルディと言われるドワーフの英傑の像がある。かつてドラゴンと戦って、そして勝利した英傑じゃ」
と、ゴゴラルが石像のひとつを指差した。
ノルマンヘルムをかぶった、筋肉質な石像だった。
「え? でも、ドワーフって竜神教を信仰してるっスよね? 竜神教って、ドラゴンを神の使いとして、崇めてるはずっスけど」
そのドラゴンを倒した物が、崇められているというのは変な話である。
「むろん、イーヴァルディが活躍したのは、竜神教ができるより昔の話じゃ。食用人間ができるより以前の話じゃな。当時は竜人族もおらんかったし、ドラゴンを手懐けることは出来んかった。当時、里を襲ったドラゴンから、ドワーフたちを守った英傑じゃ。もう2000年以上も前の話じゃがな」
当時は当時。
今は、今。
そういうことだろう。
当時ドワーフたちを、ドラゴンから守ったのなら、英傑に違いない。
どことなく違和感もあったが、その正体はよくわからなかった。
「でも、なんかポーズが変っスね」
何かを抱えているようなポーズをしているが、べつに何も抱えていない。
「本来あのイーヴァルディの石像は、大槌を抱えているはずじゃった。伝説的な武器。あらゆるものを打ち砕き、ドワーフにふりかかる災厄を祓う、イーヴァルディの大槌と呼ばれた武器じゃ」
「まさか……」
察しがついた。
ミツマタの持っている得物が、そのイーヴァルディの大槌なのではないか?
「わかったか。そうじゃ。あの男は、ドワーフの英傑イーヴァルディの大槌を盗んだのだ」
「でも、そんなに大切なものを、簡単に盗み出せるものなんっスか?」
盗むのは悪いことだとは思うが、管理が甘いのもズサンだとは思う。
「かつてこの里にゾンビが押し寄せてきたときがあつてな。ドサクサにまぎれて持ち出しよったんじゃ」
「それは悪質っスねぇ」
弁護のしようもない。
それだけではないッ――とゴゴラルは、握りこぶしで机をたたいた。
持ってきてくれたハーブティが激しく波打っていた。
「あの男はな。ワシの娘を殺したのだ。そしてあの武器を手に里を出て、覚者となったのだ。あのミツマタと名乗っておる男は、里の秘宝を盗み、娘を殺して、英傑を汚した大悪党じゃ」
と、ゴゴラルは歯ぎしりしながらそう言ったのだ。
と、ルエドが困惑気味な表情で言った。
「なんか、文句あるっスか?」
「いや。文句はないが、失礼のないようにな」
と、注意された。
以前のルエドならもうすこし強く注意してきたと思うのだが、それ以上はなにも言って来なかった。
卵黄学園でシャルリスをいじめていたヤマシさがあるのかもしれない。
「まあ、良いではありませんか。それがシャルリスさんの魅力的なところですよ」
と、クチをはさんだ者がいた。
ディヌだ。
シャルリスに告白を仕掛けてきた男である。
ディヌはシャルリスのはす向かいの席に座っていた。
小さく手を振ってきた。
どう返答すれば良いかわからず、曖昧に微笑んだ。
気まずかったので、べつの話題に転じることにした。
「上のみんなは、大丈夫っスかね」
と、シャルリスは会議室の天井を見上げてそう言った。
心配だ。
むろんここから見上げても地上が見えるわけではない。石造りの天井が見えるだけだ。
「案ずることはないだろ。何かあれば伝令を寄越すように言ってあるし、覚者ミツマタもついている」
「まぁ、そうかもしれないっスけど」
結果的に、上にミツマタを残してきたのは正解だったかもしれない。上に残っているほうが圧倒的に危険だ。ゾンビどもは、すぐに生者の匂いをかぎつけてくる。
「覚者ミツマタは、なんだか、ここの族長とはずいぶんと確執がある様子だったな」
「そうっスね」
話してみた感じでは、ゴゴラルも悪い人ではなさそうだ。ミツマタとのあいだに、いったい何があったのか気になる。
「気になるからって、あんまり尋ねるもんじゃないぞ。何か深い事情があるかもしれんのだからな」
と、ルエドがシャルリスの心情を察したかのように、そう言っていさめてきた。
「でも、気になるっスよ」
そんな話をしているあいだに、ゴゴラルがお茶を運んできてくれた。運び込むのに、ほかのドワーフたちも手伝ってくれた。
シャルリスの前にも、お茶が置かれた。土を焼いたのだろう。陶器でできたカップだった。なかには浅い緑をした液体が入っていた。ふつうのハーブティのようだ。ミントの香りが鼻をついた。
ゴゴラルがシャルリスの前にお茶を置いたときに、問いかけてみることにした。
「族長」
「なんじゃ?」
「覚者ミツマタとは、何かあったんっスか?」
その率直な質問に、ルエドがお茶を吹き出していた。ゴゴラルは困惑したような表情をしていたが、さして逡巡することもなくクチを開いた。
「ここに石像が並んであるじゃろう」
「ええ」
たしかに壁際に、ドワーフたちの石像が並べられていた。
ゴゴラルや他のドワーフたちよりも、その石像は頭身がすこし高くなっている。美化したのかもしれない。
「ここに置かれている石像は、ドワーフたちの英傑と呼ばれている者たちじゃ。はるか昔に人間と戦った者。ゾンビをなぎ倒した物。ドラゴンを戦った者。書物を読み解き、ドワーフたちに知識を授けた者。いろんな英傑がおる」
「なんかそう聞くと、勇ましく見えるっスね」
シャルリスがそう言うと、ゴゴラルはうれしそうに微笑んだ。が、すぐにその表情をひきしめた。
「あそこにイーヴァルディと言われるドワーフの英傑の像がある。かつてドラゴンと戦って、そして勝利した英傑じゃ」
と、ゴゴラルが石像のひとつを指差した。
ノルマンヘルムをかぶった、筋肉質な石像だった。
「え? でも、ドワーフって竜神教を信仰してるっスよね? 竜神教って、ドラゴンを神の使いとして、崇めてるはずっスけど」
そのドラゴンを倒した物が、崇められているというのは変な話である。
「むろん、イーヴァルディが活躍したのは、竜神教ができるより昔の話じゃ。食用人間ができるより以前の話じゃな。当時は竜人族もおらんかったし、ドラゴンを手懐けることは出来んかった。当時、里を襲ったドラゴンから、ドワーフたちを守った英傑じゃ。もう2000年以上も前の話じゃがな」
当時は当時。
今は、今。
そういうことだろう。
当時ドワーフたちを、ドラゴンから守ったのなら、英傑に違いない。
どことなく違和感もあったが、その正体はよくわからなかった。
「でも、なんかポーズが変っスね」
何かを抱えているようなポーズをしているが、べつに何も抱えていない。
「本来あのイーヴァルディの石像は、大槌を抱えているはずじゃった。伝説的な武器。あらゆるものを打ち砕き、ドワーフにふりかかる災厄を祓う、イーヴァルディの大槌と呼ばれた武器じゃ」
「まさか……」
察しがついた。
ミツマタの持っている得物が、そのイーヴァルディの大槌なのではないか?
「わかったか。そうじゃ。あの男は、ドワーフの英傑イーヴァルディの大槌を盗んだのだ」
「でも、そんなに大切なものを、簡単に盗み出せるものなんっスか?」
盗むのは悪いことだとは思うが、管理が甘いのもズサンだとは思う。
「かつてこの里にゾンビが押し寄せてきたときがあつてな。ドサクサにまぎれて持ち出しよったんじゃ」
「それは悪質っスねぇ」
弁護のしようもない。
それだけではないッ――とゴゴラルは、握りこぶしで机をたたいた。
持ってきてくれたハーブティが激しく波打っていた。
「あの男はな。ワシの娘を殺したのだ。そしてあの武器を手に里を出て、覚者となったのだ。あのミツマタと名乗っておる男は、里の秘宝を盗み、娘を殺して、英傑を汚した大悪党じゃ」
と、ゴゴラルは歯ぎしりしながらそう言ったのだ。
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