《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

23-1.ドワーフの住処へ

 ルエドを小隊長として、シャルリスたちはドワーフの住処へ向かうことになった。
 むろん、ドラゴンで飛んで行くことになった。


 ひとたび地上都市から出ると、大量のゾンビが蠢いているのが見て取れた。瘴気も満ちており、マスクは必須だ。


 ドワーフ運搬のためには、人手が必要だ。32騎の竜騎士と、案内役の2人で、都合34名が向かっていた。


 ドラゴンはおのおの、フタのない木箱のようなものを運んでいる。縄でひっかけてドラゴンにぶら下げているのだ。1箱につきおおよそ10人。ドワーフなら15人は乗れるだろうということだ。


 これが今回の作戦で使われる、運搬技術である。
 正直、乗り心地はお世辞にも良いとは言えないだろう。


 先頭には、案内役のミツマタとディヌという青年が飛んでいた。


「ミツマタが、ドワーフの案内役ってのはわかるんっスけど。あのディヌって人は、人間っスよね?」
 と、シャルリスは赤いドラゴンに乗って飛びながら、前方にいるルエドにたずねた。


 ルエドのは青いウロコのドラゴンだった。それほどの速度は出ていないので、こうして会話することもできる。


「あの男は、しばらくドワーフの住処で保護されていた人間だそうだ」


「どういうことっスか?」


「もともと、この地上都市クルスニクに住んでいたそうだが、物資回収のさいにはぐれてしまって、帰り道がわからなくなった。それでドワーフたちに保護されることになったらしい。ドワーフたちがこっちに移住したがっていると、ドワーフの使者と一緒にやって来たのだ」


「ってことは、もともとはクルスニク人っスかね」


「だろうな」


「はぐれたのは、どれぐらい前なんっスかね」


「数ヶ月前だとのことだが、あまりハッキリとせんらしい。まぁ、物資回収班からはぐれて迷子になっていたのなら、ムリもない」


「まぁ、そうっスね」


 地上都市への帰路がわからなくなって、この瘴気の世界に取り残されていたのなら、よほど心細かったことだろう。


「ヤケにセンサクするが、何か気になることでもあるのか?」
 と、ルエドが振り向いて尋ねてきた。


「いや。そんなことないっスけど」
 と、シャルリスはあわてて言い返した。


 自分に告白プロポーズをしてきた人間なのだから、そりゃ気になってトウゼンだろう。


 もともと、この地上都市に住んでいたということなら、前々からシャルリスの顔は知っていたのかもしれない。


 まさか使者としてやってきた瞬間に、一目惚れということもあるまい。


 だけど、ボクにはロン隊長がいるしなぁ……なんて思っていたら、
「ところでロン隊長はどうだ?」
 と、ルエドが尋ねてきたので、ギョッとした。


「どうって、何がっスか?」


「隊長としての器だよ。今までの戦果はどうなのかと思ってな」


 自分とロンの関係を訊いているのかと思って身構えたのだが、どうやらそういうことではないらしい。


 ロンへの恋慕はシャルリスだけでなくて、チェイテやアリエルも抱いているものだ。いつの間にか、抜け駆けは出来ない雰囲気になっている。


「なんで、そんなこと気になるんっスか」


「そりゃ、卵黄時代には迷惑をかけてしまったからな。弱いくせにどうして教師なんかやってるのかと疑問だったんだ」


「弱かったのは、卵黄学園に潜入するためっスよ。ボクのことを監視するためだったそうっスよ」


 ほら、ボクの中には【腐肉の暴食】がいるっスから――と付け加えた。


「聞いてるさ」
 と、ルエドは恬淡と応じた。


 シャルリスと【腐肉の暴食】のことは、知っているのだろう。ドンビキされるんじゃないかと思ったが、気を使っているのかルエドはたいした反応を示さなかった。
 この男が気を使っているなんて、チョット意外だった。


「つーか、相手が弱くても、イジメたりするのはどうかと思うっスよ」


 卵黄学園にやられたことを思い出して、そう言ってやった。


 ルエドは年上だが、いまやシャルリスは12騎士のひとりなのだ。指揮能力や経験ではルエドのほうが上でも、個々としての強さなら負けはしない。
 言い返せるだけの立場になったと思う。


「悪かったと思っている。当時はオレも視野が狭かった」


「何か改心の機会でもあったんっスか」


「【都市竜クルスニク脱出作戦】のさいに、多くの仲間たちが死んでいっただろ。親しかった者たちや、家族も死んでいった。それを見て、人間同士で争っている場合なんかじゃないな――と」


 あの事件は、ヤッパリ多くの者たちに影響を与えているのだろう。シャルリスもいまでも、あの凄惨たる景色が脳みその裏っかわで明滅することがある。


 で、どうなんだ、とルエドが尋ねてきた。


「え?」


「ロン隊長の戦果だよ」


「そりゃ申し分ないっスよ。あの人は隊長としてボクたちを、ここまで育て上げたわけっスからね。それに、個人としても非常に強力っスから。それだけじゃないっスよ。竜神教からは、神の末裔って言われてるっスからね」


 ロンがいなければ、シャルリスはまだドラゴンに乗ることすら出来なかっただろう。


 ロンのことをホめたたえていると、不思議と自分も心地が良くなってくる。そんなスゴイ人に育てられたのだという矜持がくすぐられる。


「そりゃそうか。覚者だもんな」


「でも、覚者って変な人多いんっスよ。そのなかでもロン隊長が来てくれて、ホントウに良かったと思うっス」


 女たらしのアジサイ。無口なミツマタ。カンオケを背負っているヒペリカムなんかが来ても、ロンのように慕うことは出来なかっただろうと思う。


「オレも負けてられないな」


「あんたにはムリっスよ。一生かかっても、ロン隊長には勝てないっス。あの人はきっと世界にとって必要な人なんっスから」


 自分だって、ロンに追いつくのはムリだと思う。覚者になりたいという夢は、今もある。
 

 覚者になって地上に置き去りにされた両親を探したい。


 けれどいい加減に気づいている。


 シャルリスはふつうの人間なのだ。ただ、【腐肉の暴食】に寄生されている、というだけの人間なのだ。


 覚者と呼ばれる変人たちには、及ばないところがある。


「そりゃそうだな。いくら卵黄学園を首席で卒業していても、覚者には勝てないか」
 と、ルエドは肩をすくめていた。


「怒らないんっスね」


 テッキリ何か言い返してくるもんだと思っていた。


「わかりきったことを言われても、怒る気にもなれん。それにお前になら、何を言われてもオレに怒る資格はないような気がする」


「なんか、ずいぶんと変わりましたね」


「そろそろ到着のようだ」
 と、ルエドが言った。


 ミツマタとディヌのふたりが、地上へと着地していた。


 見渡すかぎりの荒野である。ゾンビの気配はない。これだけ見晴らしが良いと、ゾンビが近づいて来ればすぐにわかる。


 風が吹くと砂が舞い上がるのと、瘴気が視界を濁らせるが、ゾンビの接近にはすぐに気づく。


 シャルリスたちも着地する。


 ミツマタが近くにあった大岩を持ち上げた。
 地下へとつづく石段が伸びていた。


 そこがドワーフの住処への入口なのだそうだ。


「まるで秘密基地っスね」
 と、なかを覗きこんだ。


 なかは暗闇かと思いきや、青白く発光していた。


「広さからみても、ドラゴンは入れなさそうだな」
 と、ルエドが言う。


 地下から発せられる青白い光を受けて、ルエドのメガネ光っていた。


「どうするっスか?」
 ドラゴンをつなぐような場所もない。さりとて放っておくわけにもいかない。


「隊をわけるとしよう。中に入るのは、オレたちルエド小隊の4人と、案内役のミツマタとディヌの6人だ。他の者はここで待機だ。何かあればすぐに伝令を寄越せ」
 ルエドがそう命令を出した。

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