《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
23-1.ドワーフの住処へ
ルエドを小隊長として、シャルリスたちはドワーフの住処へ向かうことになった。
むろん、ドラゴンで飛んで行くことになった。
ひとたび地上都市から出ると、大量のゾンビが蠢いているのが見て取れた。瘴気も満ちており、マスクは必須だ。
ドワーフ運搬のためには、人手が必要だ。32騎の竜騎士と、案内役の2人で、都合34名が向かっていた。
ドラゴンはおのおの、フタのない木箱のようなものを運んでいる。縄でひっかけてドラゴンにぶら下げているのだ。1箱につきおおよそ10人。ドワーフなら15人は乗れるだろうということだ。
これが今回の作戦で使われる、運搬技術である。
正直、乗り心地はお世辞にも良いとは言えないだろう。
先頭には、案内役のミツマタとディヌという青年が飛んでいた。
「ミツマタが、ドワーフの案内役ってのはわかるんっスけど。あのディヌって人は、人間っスよね?」
と、シャルリスは赤いドラゴンに乗って飛びながら、前方にいるルエドにたずねた。
ルエドのは青いウロコのドラゴンだった。それほどの速度は出ていないので、こうして会話することもできる。
「あの男は、しばらくドワーフの住処で保護されていた人間だそうだ」
「どういうことっスか?」
「もともと、この地上都市クルスニクに住んでいたそうだが、物資回収のさいにはぐれてしまって、帰り道がわからなくなった。それでドワーフたちに保護されることになったらしい。ドワーフたちがこっちに移住したがっていると、ドワーフの使者と一緒にやって来たのだ」
「ってことは、もともとはクルスニク人っスかね」
「だろうな」
「はぐれたのは、どれぐらい前なんっスかね」
「数ヶ月前だとのことだが、あまりハッキリとせんらしい。まぁ、物資回収班からはぐれて迷子になっていたのなら、ムリもない」
「まぁ、そうっスね」
地上都市への帰路がわからなくなって、この瘴気の世界に取り残されていたのなら、よほど心細かったことだろう。
「ヤケにセンサクするが、何か気になることでもあるのか?」
と、ルエドが振り向いて尋ねてきた。
「いや。そんなことないっスけど」
と、シャルリスはあわてて言い返した。
自分に告白をしてきた人間なのだから、そりゃ気になってトウゼンだろう。
もともと、この地上都市に住んでいたということなら、前々からシャルリスの顔は知っていたのかもしれない。
まさか使者としてやってきた瞬間に、一目惚れということもあるまい。
だけど、ボクにはロン隊長がいるしなぁ……なんて思っていたら、
「ところでロン隊長はどうだ?」
と、ルエドが尋ねてきたので、ギョッとした。
「どうって、何がっスか?」
「隊長としての器だよ。今までの戦果はどうなのかと思ってな」
自分とロンの関係を訊いているのかと思って身構えたのだが、どうやらそういうことではないらしい。
ロンへの恋慕はシャルリスだけでなくて、チェイテやアリエルも抱いているものだ。いつの間にか、抜け駆けは出来ない雰囲気になっている。
「なんで、そんなこと気になるんっスか」
「そりゃ、卵黄時代には迷惑をかけてしまったからな。弱いくせにどうして教師なんかやってるのかと疑問だったんだ」
「弱かったのは、卵黄学園に潜入するためっスよ。ボクのことを監視するためだったそうっスよ」
ほら、ボクの中には【腐肉の暴食】がいるっスから――と付け加えた。
「聞いてるさ」
と、ルエドは恬淡と応じた。
シャルリスと【腐肉の暴食】のことは、知っているのだろう。ドンビキされるんじゃないかと思ったが、気を使っているのかルエドはたいした反応を示さなかった。
この男が気を使っているなんて、チョット意外だった。
「つーか、相手が弱くても、イジメたりするのはどうかと思うっスよ」
卵黄学園にやられたことを思い出して、そう言ってやった。
ルエドは年上だが、いまやシャルリスは12騎士のひとりなのだ。指揮能力や経験ではルエドのほうが上でも、個々としての強さなら負けはしない。
言い返せるだけの立場になったと思う。
「悪かったと思っている。当時はオレも視野が狭かった」
「何か改心の機会でもあったんっスか」
「【都市竜クルスニク脱出作戦】のさいに、多くの仲間たちが死んでいっただろ。親しかった者たちや、家族も死んでいった。それを見て、人間同士で争っている場合なんかじゃないな――と」
あの事件は、ヤッパリ多くの者たちに影響を与えているのだろう。シャルリスもいまでも、あの凄惨たる景色が脳みその裏っかわで明滅することがある。
で、どうなんだ、とルエドが尋ねてきた。
「え?」
「ロン隊長の戦果だよ」
「そりゃ申し分ないっスよ。あの人は隊長としてボクたちを、ここまで育て上げたわけっスからね。それに、個人としても非常に強力っスから。それだけじゃないっスよ。竜神教からは、神の末裔って言われてるっスからね」
ロンがいなければ、シャルリスはまだドラゴンに乗ることすら出来なかっただろう。
ロンのことをホめたたえていると、不思議と自分も心地が良くなってくる。そんなスゴイ人に育てられたのだという矜持がくすぐられる。
「そりゃそうか。覚者だもんな」
「でも、覚者って変な人多いんっスよ。そのなかでもロン隊長が来てくれて、ホントウに良かったと思うっス」
女たらしのアジサイ。無口なミツマタ。カンオケを背負っているヒペリカムなんかが来ても、ロンのように慕うことは出来なかっただろうと思う。
「オレも負けてられないな」
「あんたにはムリっスよ。一生かかっても、ロン隊長には勝てないっス。あの人はきっと世界にとって必要な人なんっスから」
自分だって、ロンに追いつくのはムリだと思う。覚者になりたいという夢は、今もある。
覚者になって地上に置き去りにされた両親を探したい。
けれどいい加減に気づいている。
シャルリスはふつうの人間なのだ。ただ、【腐肉の暴食】に寄生されている、というだけの人間なのだ。
覚者と呼ばれる変人たちには、及ばないところがある。
「そりゃそうだな。いくら卵黄学園を首席で卒業していても、覚者には勝てないか」
と、ルエドは肩をすくめていた。
「怒らないんっスね」
テッキリ何か言い返してくるもんだと思っていた。
「わかりきったことを言われても、怒る気にもなれん。それにお前になら、何を言われてもオレに怒る資格はないような気がする」
「なんか、ずいぶんと変わりましたね」
「そろそろ到着のようだ」
と、ルエドが言った。
ミツマタとディヌのふたりが、地上へと着地していた。
見渡すかぎりの荒野である。ゾンビの気配はない。これだけ見晴らしが良いと、ゾンビが近づいて来ればすぐにわかる。
風が吹くと砂が舞い上がるのと、瘴気が視界を濁らせるが、ゾンビの接近にはすぐに気づく。
シャルリスたちも着地する。
ミツマタが近くにあった大岩を持ち上げた。
地下へとつづく石段が伸びていた。
そこがドワーフの住処への入口なのだそうだ。
「まるで秘密基地っスね」
と、なかを覗きこんだ。
なかは暗闇かと思いきや、青白く発光していた。
「広さからみても、ドラゴンは入れなさそうだな」
と、ルエドが言う。
地下から発せられる青白い光を受けて、ルエドのメガネ光っていた。
「どうするっスか?」
ドラゴンをつなぐような場所もない。さりとて放っておくわけにもいかない。
「隊をわけるとしよう。中に入るのは、オレたちルエド小隊の4人と、案内役のミツマタとディヌの6人だ。他の者はここで待機だ。何かあればすぐに伝令を寄越せ」
ルエドがそう命令を出した。
むろん、ドラゴンで飛んで行くことになった。
ひとたび地上都市から出ると、大量のゾンビが蠢いているのが見て取れた。瘴気も満ちており、マスクは必須だ。
ドワーフ運搬のためには、人手が必要だ。32騎の竜騎士と、案内役の2人で、都合34名が向かっていた。
ドラゴンはおのおの、フタのない木箱のようなものを運んでいる。縄でひっかけてドラゴンにぶら下げているのだ。1箱につきおおよそ10人。ドワーフなら15人は乗れるだろうということだ。
これが今回の作戦で使われる、運搬技術である。
正直、乗り心地はお世辞にも良いとは言えないだろう。
先頭には、案内役のミツマタとディヌという青年が飛んでいた。
「ミツマタが、ドワーフの案内役ってのはわかるんっスけど。あのディヌって人は、人間っスよね?」
と、シャルリスは赤いドラゴンに乗って飛びながら、前方にいるルエドにたずねた。
ルエドのは青いウロコのドラゴンだった。それほどの速度は出ていないので、こうして会話することもできる。
「あの男は、しばらくドワーフの住処で保護されていた人間だそうだ」
「どういうことっスか?」
「もともと、この地上都市クルスニクに住んでいたそうだが、物資回収のさいにはぐれてしまって、帰り道がわからなくなった。それでドワーフたちに保護されることになったらしい。ドワーフたちがこっちに移住したがっていると、ドワーフの使者と一緒にやって来たのだ」
「ってことは、もともとはクルスニク人っスかね」
「だろうな」
「はぐれたのは、どれぐらい前なんっスかね」
「数ヶ月前だとのことだが、あまりハッキリとせんらしい。まぁ、物資回収班からはぐれて迷子になっていたのなら、ムリもない」
「まぁ、そうっスね」
地上都市への帰路がわからなくなって、この瘴気の世界に取り残されていたのなら、よほど心細かったことだろう。
「ヤケにセンサクするが、何か気になることでもあるのか?」
と、ルエドが振り向いて尋ねてきた。
「いや。そんなことないっスけど」
と、シャルリスはあわてて言い返した。
自分に告白をしてきた人間なのだから、そりゃ気になってトウゼンだろう。
もともと、この地上都市に住んでいたということなら、前々からシャルリスの顔は知っていたのかもしれない。
まさか使者としてやってきた瞬間に、一目惚れということもあるまい。
だけど、ボクにはロン隊長がいるしなぁ……なんて思っていたら、
「ところでロン隊長はどうだ?」
と、ルエドが尋ねてきたので、ギョッとした。
「どうって、何がっスか?」
「隊長としての器だよ。今までの戦果はどうなのかと思ってな」
自分とロンの関係を訊いているのかと思って身構えたのだが、どうやらそういうことではないらしい。
ロンへの恋慕はシャルリスだけでなくて、チェイテやアリエルも抱いているものだ。いつの間にか、抜け駆けは出来ない雰囲気になっている。
「なんで、そんなこと気になるんっスか」
「そりゃ、卵黄時代には迷惑をかけてしまったからな。弱いくせにどうして教師なんかやってるのかと疑問だったんだ」
「弱かったのは、卵黄学園に潜入するためっスよ。ボクのことを監視するためだったそうっスよ」
ほら、ボクの中には【腐肉の暴食】がいるっスから――と付け加えた。
「聞いてるさ」
と、ルエドは恬淡と応じた。
シャルリスと【腐肉の暴食】のことは、知っているのだろう。ドンビキされるんじゃないかと思ったが、気を使っているのかルエドはたいした反応を示さなかった。
この男が気を使っているなんて、チョット意外だった。
「つーか、相手が弱くても、イジメたりするのはどうかと思うっスよ」
卵黄学園にやられたことを思い出して、そう言ってやった。
ルエドは年上だが、いまやシャルリスは12騎士のひとりなのだ。指揮能力や経験ではルエドのほうが上でも、個々としての強さなら負けはしない。
言い返せるだけの立場になったと思う。
「悪かったと思っている。当時はオレも視野が狭かった」
「何か改心の機会でもあったんっスか」
「【都市竜クルスニク脱出作戦】のさいに、多くの仲間たちが死んでいっただろ。親しかった者たちや、家族も死んでいった。それを見て、人間同士で争っている場合なんかじゃないな――と」
あの事件は、ヤッパリ多くの者たちに影響を与えているのだろう。シャルリスもいまでも、あの凄惨たる景色が脳みその裏っかわで明滅することがある。
で、どうなんだ、とルエドが尋ねてきた。
「え?」
「ロン隊長の戦果だよ」
「そりゃ申し分ないっスよ。あの人は隊長としてボクたちを、ここまで育て上げたわけっスからね。それに、個人としても非常に強力っスから。それだけじゃないっスよ。竜神教からは、神の末裔って言われてるっスからね」
ロンがいなければ、シャルリスはまだドラゴンに乗ることすら出来なかっただろう。
ロンのことをホめたたえていると、不思議と自分も心地が良くなってくる。そんなスゴイ人に育てられたのだという矜持がくすぐられる。
「そりゃそうか。覚者だもんな」
「でも、覚者って変な人多いんっスよ。そのなかでもロン隊長が来てくれて、ホントウに良かったと思うっス」
女たらしのアジサイ。無口なミツマタ。カンオケを背負っているヒペリカムなんかが来ても、ロンのように慕うことは出来なかっただろうと思う。
「オレも負けてられないな」
「あんたにはムリっスよ。一生かかっても、ロン隊長には勝てないっス。あの人はきっと世界にとって必要な人なんっスから」
自分だって、ロンに追いつくのはムリだと思う。覚者になりたいという夢は、今もある。
覚者になって地上に置き去りにされた両親を探したい。
けれどいい加減に気づいている。
シャルリスはふつうの人間なのだ。ただ、【腐肉の暴食】に寄生されている、というだけの人間なのだ。
覚者と呼ばれる変人たちには、及ばないところがある。
「そりゃそうだな。いくら卵黄学園を首席で卒業していても、覚者には勝てないか」
と、ルエドは肩をすくめていた。
「怒らないんっスね」
テッキリ何か言い返してくるもんだと思っていた。
「わかりきったことを言われても、怒る気にもなれん。それにお前になら、何を言われてもオレに怒る資格はないような気がする」
「なんか、ずいぶんと変わりましたね」
「そろそろ到着のようだ」
と、ルエドが言った。
ミツマタとディヌのふたりが、地上へと着地していた。
見渡すかぎりの荒野である。ゾンビの気配はない。これだけ見晴らしが良いと、ゾンビが近づいて来ればすぐにわかる。
風が吹くと砂が舞い上がるのと、瘴気が視界を濁らせるが、ゾンビの接近にはすぐに気づく。
シャルリスたちも着地する。
ミツマタが近くにあった大岩を持ち上げた。
地下へとつづく石段が伸びていた。
そこがドワーフの住処への入口なのだそうだ。
「まるで秘密基地っスね」
と、なかを覗きこんだ。
なかは暗闇かと思いきや、青白く発光していた。
「広さからみても、ドラゴンは入れなさそうだな」
と、ルエドが言う。
地下から発せられる青白い光を受けて、ルエドのメガネ光っていた。
「どうするっスか?」
ドラゴンをつなぐような場所もない。さりとて放っておくわけにもいかない。
「隊をわけるとしよう。中に入るのは、オレたちルエド小隊の4人と、案内役のミツマタとディヌの6人だ。他の者はここで待機だ。何かあればすぐに伝令を寄越せ」
ルエドがそう命令を出した。
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