《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

22-3.告白

 詰所を出る。


 すぐとなりに竜舎があった。竜舎は石造りになっている。
 石造りの壁で、1匹1匹を仕切ってある。


 チェイテとアリエルはその竜舎の前に、ドラゴンを出していた。


 桶に水をくんで、タワシでウロコをコスっていた。
 ドラゴンたちは心地良さそうに、くつろいでいるようだった。


「おはようっス」
 と、シャルリスは手をあげた。


 チェイテとアリエルも、
「おはよう」
「おはようございます」
 と、返してきた。


 この3年で、チェイテとアリエルの風貌にも変化があった。


 チェイテは凄みをました。骨格がシッカリとしはじめたぶん、より凶悪そうな風貌になった。
 オマケに背も伸びた。
 当初は3人のなかでイチバン小さかったチェイテが、いまやイチバン大きくなっていた。


 ずっといっしょにいるシャルリスはなんとも思わないが、チェイテと目が合っただけでも、悲鳴をあげて逃げていく者がいるぐらいだ。


 アリエルは美人になった。肌は透き通り、胸も大きくふくらんでいる。アリエルはツインテールをやめて、髪をショートボブにしていた。似合っている。


 男たちが酒を飲めば、そのクチからは必ずと言っても良いほど、エレノアとアリエル姉妹の名前が出るほどだ。


 そして今も――。
「やあやあ。精が出ますなぁ」
 と、ニコニコというよりかは、ニタニタといった笑みを浮かべて、男どもが近づいてくる。


 アリエルは愛想の良い笑みを浮かべて、「どうも、おはようございます」などと返している。アリエルは、人を拒絶しない。でも早くどこかに行って欲しいという気配は伝わってくるから、「ほら、仕事の邪魔っスよ」と、シャルリスが追い返す。
「なんだよ。べつに良いだろ」と男が不服な顔をしようものなら、チェイテが睨む。それで終わりだ。「ひっ」と短い悲鳴をあげると男どもは、たいてい逃げ去って行く。


「どうも、すみません」
 と、アリエルが謝った。


「べつに、アリエルちゃんが謝ることないっスよ。それに男どもが言い寄ってくるのも、なんとなくわかりますし」
 と、シャルリスは、アリエルのおおきな胸を指で突いた。
 ぽよん、と押し返してくる弾力を感じた。


「あ、ちょっと」
 と、アリエルが手で胸を隠す。


「普段同じもの食ってるのに、なんでこんな違いが出るっスかねぇ。ボクやチェイテなんかは、ペッタンコっスよ。チェイテにいたっては、絶壁っスからね」


 私もすこしはある――と、チェイテが、ドラゴンのカラダを磨きながら、興味なさそうに応じてきた。


「あっても、あんまり良いことはないですよ。布の鎧クロス・アーマーや、竜具の胸当ても、特注で頼まなくてはなりませんし、戦いのときは邪魔になりますから」


「まぁ、それぞれの悩みがあるっスね」


 アリエルは、男たちから決して崩せない戦姫などと言われている。
 どんな男の誘いにも、乗らないからだ。どんな男にもなびかないからこそ、男たちは余計に熱をあげているようだった。


 そんなアリエルだが、常日頃から巨大な裁縫針を手放すことはない。
 その裁縫針の本来の持ち主である、女たらしのアジサイは3年前に戦死した。
 ずっとアリエルの傍に寄り添っていると考えると、アジサイの目論み通りなのかもしれない。


「ロン隊長は、まだ帰って来てないっスか?」


「うん。今日はダンピールのほうに行くって聞いた」
 と、チェイテが言う。


「なんか最近、あんまり会えないっスねぇ」


 本来は【腐肉の暴食】に寄生されたシャルリスの監視のために、付き添ってくれていた。
 シャルリスが問題を起こさないということで、監視もだいぶ緩くなっているようだ。


 都市竜たちの老衰に対処するために、ロンは空を飛びまわっている都市竜たちと、コミュニケーションをとっているようだ。


「私たちも、もう1人前の竜騎士。ロン隊長に頼ってばかりもいられない」
 と、チェイテが、布の鎧クロス・アーマーの袖で、額の汗をぬぐいながら言った。


「それはわかるっスけどね」


 単純に寂しい。
 寝食すら一緒にしていた見習い時代がなつかしくなってくる。


(ロン隊長も、おっぱいは大きい女性のほうが好きなのかな?)
 と、シャルリスはアリエルの胸元を見つめて、そう思った。


 だとするならば、自分ももうすこし気をつかう必要が出てくる。
 けれど、エレノアからの誘いをロンが蹴ったというウワサもある。
 胸が大きい人が好きならば、エレノアになびいているはずだ。


(考えてみれば……)
 ロン隊長のことを、何も知らないな、と思った。


「へくちっ」
 と、チェイテがくしゃみをしていた。鼻をすすっている。


「大丈夫っスか?」


「大丈夫。すこし風邪気味。鼻が詰まってる」
 とのことだ。


 チェイテは鼻がきく。その鼻が鈍っているのは戦力低下とも言える事態だった。


 失礼――と、声がかけられた。


 男の声。
 振り向く。


 思わず息を呑むほどキレイな顔立ちをした男だった。特に目元がうつくしい。キレイな二重まぶたに、濃厚なマツゲ。それでいてチカラのある目をしている。


 鼻は高くて唇は薄かった。顔全体のバランスが非常にととのっている。思わず見とれてしまったけれど、すぐに正気を取り戻した。


 どうせ、アリエルのナンパだろう。


 これぐらい顔の整った男なら、アリエルも多少は考えるところがあるかもしれない。


 無闇に追い返しては悪い。
 シャルリスが立ち去ろうとすると、手を男につかまれた。


「待ってください」


「え?」


「はじめまして。シャルリス・ネクティリア」


「どうしてボクの名前を知ってるんですか?」


「有名ですよ。クルスニク12騎士の1人。覚者に育てられた竜騎士。そして【腐肉の暴食】を宿す者」


 このもと廃都の名前は、かつての都市竜の名前を継承して、「地上都市クルスニク」と名付けられている。ゆいいつ、人の暮らしている地上の都市であるため、「地上都市」と略されることが多い。


 その地上都市の優れた12人の竜騎士のうちの1人として、シャルリスも数えられている。なかにはチェイテとアリエルも入っている。


「ええ。まぁ、そうっスけど」


「オレと結婚してください」


 男はそう言うと、シャルリスの前にかしずいた。シャルリスの手の甲に、キスが与えられた。ビックリするほどその唇は冷たかった。


 アリエルは呆気にとられたような顔をしていた。
 シャルリスは、ただ愕然としていた。
 チェイテが、へくち、とまたクシャミをしていた。

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