《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
22-1.最後の夢
曇天。
石造りのストリートがまっすぐ伸びている。左右には、黒々とした建造物が建てられていた。
建物の窓から覗き見る子供がいた。親に叱られて、引っ込められていた。汚らわしいものを見るような目を向けてくる男がいた。シャルリスと目が合う。叩きつけるように雨戸を閉めていた。
シャルリスは、ストリートを歩いている。
どこの道だろう?
わからない。ウネウネとした背の高い建物ばかりだ。
手枷をつながれていた。鉄の枷だ。縄で前後の人たちと数珠つなぎにされていた。
前の人が歩くから、自分も進まなくてはならない。
裸足だ。足の裏が痛い。石の冷たさが伝わってくる。
どこに向かって歩いているのだろうか……。
正面には巨大な城が屹立している。
いくつもの歯車のついた城で、歯車はせっせと働いていた。
自分はどうやら、あの場所へと連れて行かれているようだ。
(ああ、またこれか……)
と、シャルリスは胸裏でため息を吐いた。
夢。
どうせバトリの記憶が、入り込んで来ているのだ。
もう慣れた。慣れたというのはこの記憶の流入という現象についてだ。
この映像は、はじめて見る夢だった。
セッカクなら、バトリの記憶から、何か読み取ってやろうと思った。
弱点のひとつでもつかめるかもしれない。
数珠つなぎにされている者たちは、みんな赤毛だった。
振り向く。
後ろには少年がいた。少年の目は赤かった。どうやら赤毛に赤い目をした者ばかりが、捕まっているらしい。
前方のほうで倒れた者がいた。少女だ。少女が止まるから、列が進まなくなった。棒をもった男がやってきて、少女を叩きのめしていた。少女は強引に立ち上がらされて、また進行がはじまった。
これは、いったい、どういう列なんだろうか……。
『おい、待てッ』
『少年が逃げたぞ!』
『逃がすな!』
荒れた声がした。声のした前方を見ると、これまた赤毛の少年が走ってくるところだった。
どうかこちらには来ないで欲しい。今回の悪夢は穏やかに終わってもらいたい。そう思っていたのに、少年はまっすぐシャルリスのほうへと駆けてきた。
「バトリ。逃げるぞ!」
「へ?」
「大丈夫だ。オレが助けてやるから」
少年はそう言うと、バトリをつないでいた縄をナイフで切った。手枷はつながっていたけれど、縄が切れたことによって列から外れることが出来た。
「さあ、こっちだ」
少年は鬼気迫った表情で、シャルリスの腕をつかんだ。
路地へと引っ張りこまれた。
木箱が置かれていた。そのなかに隠れることにした。小さな箱だったけれど、子供のカラダをしたバトリと少年はどうにか入りこむことが出来た。
少年の塩っけのある汗の匂いがした。夢とは思えない現実味があった。
「どうして私を助けたの?」
箱の中。シャルリスはそう尋ねていた。
自分の意思で尋ねたのか、それともバトリ自身がそう尋ねたのか曖昧だった。
これはバトリの記憶なのだから、シャルリスの意思ではないはずだ。するとこの声を発したのは、過去のバトリということになる。
「どうしてって、婚約者なんだから、当たり前だろ。ゼッタイ助けてやるからな」
「婚約者……」
そんなのがいたのか。
まぁ、バトリだってもともとは人間なのだ。両親がいただろうし、恋人がいたって不思議ではない。
しかし婚約者とは、どういうことだろうか。
もしかしてバトリは貴族のお嬢さまだったりしたのだろうか。
「しーっ。しゃべるなよ」
「うん」
凶暴な足音が迫ってくる。それに合わせて、シャルリスの心臓も高鳴っていた。
見つかったらどうなるのだろうか? 殺されるのだろうか? いや。バトリは後世まで生きているのだから、殺されることはないはずだ。
じゃあ何をされようとしているのか。
そうか。
これは食用人間にされる前の――まだバトリが人間だったころの記憶に違いない。このあと、バトリには食用人間として拷問まがいの実験を施されるのだ。
すると、こうして捕まっている者たちは、みんな実験体なのだろう。
でも、どうして赤毛に赤目の者たちばかりなのだろうか……。
「行ったみたいだ。オレたちも逃げよう」
少年はそう言って、木箱のフタを開けた。少年のチカラで、シャルリスも引っ張り出されることになった。
「行く当てはあるの?」
「ない」
「そんな断言されても……」
「それでも、このままだとオレたちは死ぬよりも酷い目に遭う。だから逃げる。せめてお前だけでも逃がしてみせる」
「どうして、私を助けるの?」
尋ねた。
すると少年は赤面して振り向いた。
「どうしてって……婚約者だからに決まってるだろ」
少年はそう言うと、ふたたびバトリの腕をつかんで、走りはじめた。
この暗い路地はどこまで続いているのだろうか。
そしてこの夢はいつまで続くのだろうか。
「婚約者だから、助けるの?」
「そ、そうだ。他に理由なんていらないだろ。オレはこの先、お前を守るって決めたんだから」
と、少年は照れ臭そうに言った。
背後から大人たちが追いかけてきた。バトリも走っていたけれど、限界だった。体力もないし、なにより足の裏が痛い。
「もうダメ。逃げれない」
バトリが弱音を吐いていた。
あの【腐肉の暴食】でも、こんなにか弱い時代があったのかと思うと意外だった。
「諦めるなよ。捕まったら何をされるかわかったもんじゃない。オレが時間を稼ぐから、バトリは走ってこの都市を出るんだ」
背後から迫りくる大人たちに、少年はナイフを構えて突進していった。
少年は大人たちにタコ殴りにされていた。助けたかったけれど、これは夢のなかだ。シャルリスは無力だった。
殴り倒された少年は、早く行け、と目で合図を送ってきた。
それを受けたバトリは、路地を駆けて行った。
走って行く先には、ようやく光が見えた。闇のなかから、光へと足を踏み入れた瞬間に、シャルリスは夢から覚めた。
石造りのストリートがまっすぐ伸びている。左右には、黒々とした建造物が建てられていた。
建物の窓から覗き見る子供がいた。親に叱られて、引っ込められていた。汚らわしいものを見るような目を向けてくる男がいた。シャルリスと目が合う。叩きつけるように雨戸を閉めていた。
シャルリスは、ストリートを歩いている。
どこの道だろう?
わからない。ウネウネとした背の高い建物ばかりだ。
手枷をつながれていた。鉄の枷だ。縄で前後の人たちと数珠つなぎにされていた。
前の人が歩くから、自分も進まなくてはならない。
裸足だ。足の裏が痛い。石の冷たさが伝わってくる。
どこに向かって歩いているのだろうか……。
正面には巨大な城が屹立している。
いくつもの歯車のついた城で、歯車はせっせと働いていた。
自分はどうやら、あの場所へと連れて行かれているようだ。
(ああ、またこれか……)
と、シャルリスは胸裏でため息を吐いた。
夢。
どうせバトリの記憶が、入り込んで来ているのだ。
もう慣れた。慣れたというのはこの記憶の流入という現象についてだ。
この映像は、はじめて見る夢だった。
セッカクなら、バトリの記憶から、何か読み取ってやろうと思った。
弱点のひとつでもつかめるかもしれない。
数珠つなぎにされている者たちは、みんな赤毛だった。
振り向く。
後ろには少年がいた。少年の目は赤かった。どうやら赤毛に赤い目をした者ばかりが、捕まっているらしい。
前方のほうで倒れた者がいた。少女だ。少女が止まるから、列が進まなくなった。棒をもった男がやってきて、少女を叩きのめしていた。少女は強引に立ち上がらされて、また進行がはじまった。
これは、いったい、どういう列なんだろうか……。
『おい、待てッ』
『少年が逃げたぞ!』
『逃がすな!』
荒れた声がした。声のした前方を見ると、これまた赤毛の少年が走ってくるところだった。
どうかこちらには来ないで欲しい。今回の悪夢は穏やかに終わってもらいたい。そう思っていたのに、少年はまっすぐシャルリスのほうへと駆けてきた。
「バトリ。逃げるぞ!」
「へ?」
「大丈夫だ。オレが助けてやるから」
少年はそう言うと、バトリをつないでいた縄をナイフで切った。手枷はつながっていたけれど、縄が切れたことによって列から外れることが出来た。
「さあ、こっちだ」
少年は鬼気迫った表情で、シャルリスの腕をつかんだ。
路地へと引っ張りこまれた。
木箱が置かれていた。そのなかに隠れることにした。小さな箱だったけれど、子供のカラダをしたバトリと少年はどうにか入りこむことが出来た。
少年の塩っけのある汗の匂いがした。夢とは思えない現実味があった。
「どうして私を助けたの?」
箱の中。シャルリスはそう尋ねていた。
自分の意思で尋ねたのか、それともバトリ自身がそう尋ねたのか曖昧だった。
これはバトリの記憶なのだから、シャルリスの意思ではないはずだ。するとこの声を発したのは、過去のバトリということになる。
「どうしてって、婚約者なんだから、当たり前だろ。ゼッタイ助けてやるからな」
「婚約者……」
そんなのがいたのか。
まぁ、バトリだってもともとは人間なのだ。両親がいただろうし、恋人がいたって不思議ではない。
しかし婚約者とは、どういうことだろうか。
もしかしてバトリは貴族のお嬢さまだったりしたのだろうか。
「しーっ。しゃべるなよ」
「うん」
凶暴な足音が迫ってくる。それに合わせて、シャルリスの心臓も高鳴っていた。
見つかったらどうなるのだろうか? 殺されるのだろうか? いや。バトリは後世まで生きているのだから、殺されることはないはずだ。
じゃあ何をされようとしているのか。
そうか。
これは食用人間にされる前の――まだバトリが人間だったころの記憶に違いない。このあと、バトリには食用人間として拷問まがいの実験を施されるのだ。
すると、こうして捕まっている者たちは、みんな実験体なのだろう。
でも、どうして赤毛に赤目の者たちばかりなのだろうか……。
「行ったみたいだ。オレたちも逃げよう」
少年はそう言って、木箱のフタを開けた。少年のチカラで、シャルリスも引っ張り出されることになった。
「行く当てはあるの?」
「ない」
「そんな断言されても……」
「それでも、このままだとオレたちは死ぬよりも酷い目に遭う。だから逃げる。せめてお前だけでも逃がしてみせる」
「どうして、私を助けるの?」
尋ねた。
すると少年は赤面して振り向いた。
「どうしてって……婚約者だからに決まってるだろ」
少年はそう言うと、ふたたびバトリの腕をつかんで、走りはじめた。
この暗い路地はどこまで続いているのだろうか。
そしてこの夢はいつまで続くのだろうか。
「婚約者だから、助けるの?」
「そ、そうだ。他に理由なんていらないだろ。オレはこの先、お前を守るって決めたんだから」
と、少年は照れ臭そうに言った。
背後から大人たちが追いかけてきた。バトリも走っていたけれど、限界だった。体力もないし、なにより足の裏が痛い。
「もうダメ。逃げれない」
バトリが弱音を吐いていた。
あの【腐肉の暴食】でも、こんなにか弱い時代があったのかと思うと意外だった。
「諦めるなよ。捕まったら何をされるかわかったもんじゃない。オレが時間を稼ぐから、バトリは走ってこの都市を出るんだ」
背後から迫りくる大人たちに、少年はナイフを構えて突進していった。
少年は大人たちにタコ殴りにされていた。助けたかったけれど、これは夢のなかだ。シャルリスは無力だった。
殴り倒された少年は、早く行け、と目で合図を送ってきた。
それを受けたバトリは、路地を駆けて行った。
走って行く先には、ようやく光が見えた。闇のなかから、光へと足を踏み入れた瞬間に、シャルリスは夢から覚めた。
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