《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

21-1.会議

「おい、いつまで眠っているつもりだ。さっさと起きろ」


 聞き覚えのある声に、ロンは起こされることになった。


 そう言えば、皇帝殺害の容疑をかけられて牢獄に入れられていたのだった。寝ぼけ眼をこすりながら思い出した。長い夢を見ていた気がする。


 その鉄格子は開いていた。


 ベッドで眠っているロンを、ノウゼンハレンが見下ろしていた。魔法の光を近くに押し付けてきた。
 めくるめく輝きから、ロンは顔をそむけた。


「皇帝の殺人容疑をかけられているのに、よく眠れるな。精神までドラゴンってわけか」


「オレは、やってないですからね」


「そんなこと、承知のうえだ」


「なんですか。覚者長がここにいるってことは、オレの容疑、晴れましたか?」


「それどころではない。さっさと出ろ」
 と、ノウゼンハレンに胸ぐらをつかまれて、強引に立ち上がらされることになった。


 この人になら、何をされても腹は立たない。もともと粗暴な人なのだ。


「今日はヤケに機嫌が悪いんですね」


「皇帝陛下が殺害されたというのに、すやすやと眠りこけているお前の精神のほうがどうかしているのだ」


「あのジイさん。ホントウに死んだんですか」


「それだけじゃない。シャング竜騎士長が暴徒を率いて、クルスニク人に無差別攻撃を仕掛けた。お前はハめられたのだ。容疑をかけられて、ヘリコニアを牢に閉じ込めておこうという作戦だったようだな」


「寝起きで、意味がわかんないんですけど」


 頭がボーッとしている。


「手短に説明するから、耳の穴をかっぽじってよく聞け」


 ノウゼンハレンは獣じみた黒く乱れた髪を、かきあげてそう切り出した。


 シャングが暴徒たちを率いて、クルスニク人にたいして無差別攻撃を仕掛けた。シャングを止めようとしたアジサイが戦死を遂げた。
 そのシャングを仕留めたのは、アリエルということだ。


 暴徒たちは、竜騎士の働きによって鎮圧された。が、しかし、帝都内で【腐肉の暴食】が現われたという情報もあるということだった。


 寝起きのロンには、処理しきれない情報だった。


「アジサイが、戦死――ですか」


「そうだ。まさかこんな形で覚者をひとり失うことになるとは思わなかったがな」
 と、ノウゼンハレンは嘆息した。


「【腐肉の暴食】は?」


「そちらも目撃情報だけだ。シャルリス・ネクティリアが抑えこんだのだろう」


「そうですか」


 シャルリスが無事なら、とりあえずは安心だ。


「しゃきっとしろ」
 と、ノウゼンハレンが大きな手のひらで、ロンの背中をたたいてきた。


「痛っ」


「目が覚めたか」
 と笑顔でたずねてくる。


「もう覚めてますよ」


「これを返しておく」
 と、ノウゼンハレンはイヤリングを、ロンの耳元に装着してきた。


 照れ臭くて、「自分でつけれますって」とだけ言い返した。


「これから緊急会議を行う。お前にも参加してもらう」


「了解です」


 友人であるアジサイの死は、ロンの胸を痛ませた。あんな男でも、死ぬことがあるのかと驚いた。もしも片腕でなければ、そう易々と死ぬことはなかっただろう。


 それにしてもまさか、ゾンビではなくて、人間相手と戦って死ぬことになるなんてアジサイ本人も思いもしなかっただろう。


 真実の愛がどうこうと言っていたが、それを見つけ出すことは出来たのだろうか。


 会議室。
 巨大な円卓のある部屋に通された。


 そこにはロンの知らない貴族と思わしき面々が座っていた。


 なかには覚者の姿もあった。
 顔をフードで隠しているのは伝達者ハマメリス。
 全身に大岩をまとっている採掘者ミツマタ。
 カンオケを背負っている研究者ヒペリカム。


 ロンとノウゼンハレンも含めると、この場には5人の覚者がそろっていることになる。


 エレノア・キャスティアンの姿もあった。どうやら無事だったようだ。


 ロンはノウゼンハレンに促されて、空席に腰かけた。ノウゼンハレンがその隣に腰かける。


「さて、この場の進行は私が持たせてもらいます」


 エレノアがそう切り出して、言葉をつづけた。


「問題が山積していますが、まず皇帝陛下を殺害した件から話したいと思います。犯人はシャング竜騎士長であることが確定いたしました。その証拠に、シャング竜騎士長の私室から、すべての自白がつづられた書簡が出てきました。もちろん筆跡もシャング自身のものだったようです」


 エレノアはその書簡を、円卓のうえに広げてみせた。


「そんなことよりも、クルスニク人をどうするかだ」
 と、貴族のひとりが言った。


「そうだ。今回の事件で、クルスニク人への不信感がいっきに高まることだろう。【腐肉の暴食】が、背面地区で暴れたという情報もある。このままクルスニク人を、帝都内に置いておくわけにはいかん」
 と、べつの貴族も声をあげた。


 それに関しては私のほうから意見があります――と、ノウゼンハレンが言った。


「クルスニク人には、全員地上におりてもらいましょう」


「しかし、それでは……ッ」
 と、エレノアが声をあげた。


 ノウゼンハレンとエレノアが同じ席についている。珍しい光景だと思った。
 このふたりからは似たような雰囲気がある。


 両者ともに、戦いに飢えた鬼気を宿している。ノウゼンハレンは荒れ狂う獣の気迫。エレノアからはとぎすまされた刃のような気迫。
 違いはあるものの、ふたりとも常人にはない苛烈な雰囲気をまとっていた。


「案はあります。今日の昼。廃都探索隊が向かった廃都。そこに移住することを提案します。あの場所ならば、周囲を城壁で囲まれており、ゾンビの襲撃にも耐えられるでしょう」


 一刻もはやくクルスニク人に出て行ってもらいたい貴族たちは、うむ、それが良い、とうなずいていた。


 エレノアが机を叩く。


「しかし、問題はあります。ゾンビは廃都内にもおりましょう」


「廃都内のゾンビたちは、覚者が責任をもって排除しよう。1匹残らず殲滅してみせます」
 と、ノウゼンハレンが返す。


「瘴気はどうするのです」


「それに関しても、すでに対策は練ってあります。都内の瘴気を取っ払う方法を。それに関しては、研究者ヒペリカムのほうから」
 と、ノウゼンハレンが腰を落とした。


 ヒペリカムが緩慢な動作で立ち上がる。
ヒペリカムは紫色の髪を無造作に伸ばしている。目元には濃厚なクマが縁どられており、背中にはカンオケを背負っている。


 貴族たちは、ヒペリカムには胡乱な目を向けていた。


 コホン――と、ヒペリカムはクチを開いた。


「シャルリス・ネクティリアから採った血で、特殊な魔法を開発いたしました。瘴気を払う魔法です。これを使えれば、地上の瘴気を取っ払うことが出来ますよ」


 円卓がザワついた。


「ホントウにそのようなことが、可能なのですか」
 エレノアがそう尋ねた。


「まだ試作段階ですから、ゼッタイに成功するとは言えませんけれどね。効果範囲も狭いですけれど、廃都内ぐらいなら出来ると思いますよ」
 とのことだ。


 ヒペリカムの活躍は、同じ覚者として誇らしいものがあった。


 その後も会議は朝までつづいた。
 シャルリスたちの安否のほうが気になって、ロンはあまり集中できなかった。

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