《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

18-3.アリエルの戦い Ⅲ

 シャングの両親ともに、竜騎士だった。今はもう2人とも殉職している。「帝都を守護する竜騎士となれ」というのが、両親のクチ癖だった。


 厭だとは思わなかった。両親のカッコウ良い背中を見て育ったのだ。自分も帝都に仕える竜騎士になろうと決意していた。


 全身を包帯で巻きつけているのは、人体実験によるものだった。


 リー・フォルトが受けた実験。人工的に竜人族をつくりだすという実験だ。


 実験に使われる子供は、おもに貧民街の子どもたちだった。子どもたちを実験体にするのは、あまりに胸が痛んだ。


 後世のために、竜人族の存在が必要だというのは理解できた。
 だからシャングはみずから、その被験体として志願したのだ。


 好きなように使ってくれて構わないと言った。それで1人でも多くの実験体となる子供たちを救えると思った。


 結果は、失敗だった。
 まるで適合しなかった。


 それでも何度も執拗に実験をつづけてもらった。
 しだいに皮膚がボロボロになってしまったのだ。


 包帯を巻きつけることになったことに、後悔はない。自分が選んだことだ。帝都のため、全力を尽くしたと思う。
 後悔があるとすれば、自分がリー・フォルトの代わりになってやれなかったことぐらいだ。


 リーだけじゃない。
 ゴウ・ゼレイド。
 自分が受け持った生徒だったのに、救うことが出来なかった。この手は、このカラダは、人を救うには、あまりに貧弱だ。


【クルスニク人抹殺作戦】


 これは私憤ではない、と言った。
 そのつもりだった。


 しかしゴウをゾンビ化させられたことが、自分のなかで大きな原動力になっていることは、たしかだった。


 間違えているとは思わない。
 この命をなげうってでも、帝都の民を守る。
 クルスニク人を抹殺して見せる。


「私の愛した帝都を、何人たりとも傷つけさせはしまい!」


 クルスニク人が来たせいで、この右脇腹地区に住んでいた貧民たちが、行き場を失ってしまった。それもまた、クルスニク人の罪だ。


 シャングは、アジサイに向かって長刀で斬りかかった。ドラゴンを足場にして跳びあがる。そして大上段からの振り下ろし。



「は? 事情なんかどうでも良いんだよ。美人を傷つけんなって話しかしてねェ」


 シャングの一刀。
 アジサイが受けようとしてきた。


「バカめ。この振り下ろしを受け切れるものなら、受け止めてみよッ」


 これだけ勢いのついた振り下ろしを、受け切れるはずがない。叩き潰す勢いで振り下ろす。


 剣と剣。結び合った。


 アジサイは右手だけで支えた針で、見事に受け止めていた。これが、覚者。人間離れしている。


 しかし。
 次手。
 剣を引く。


 アジサイの左脇腹を狙っての切り上げ。この長刀で切り上げてくるとは思わなかったのだろう。


 それにアジサイは剣を受け止めた衝撃で麻痺していた。
 シャングの剣が、アジサイの腹を切り上げた。


「獲ったァ!」
 剣は、確実にアジサイの脇腹を通っていた。


「へぇ。やるじゃねェか」
 アジサイの装備していた針が地面に落っこちた。
 アジサイは血を吐いたが、不敵に微笑んでいた。


「これでも帝都の竜騎士長だ。しかし貴様に左手があったなら、私が負けていただろう。見事だ」


「まだ、オレは負けちゃいねェけどな」


「最後まで、戯言を吐くか」


 瞬間。
 せやぁぁ――ッ……とアリエルが跳びかかってきた。
 まだ動けたのか。想定外だ。


 アリエルはアジサイの針を手に持つと、シャングに突き刺しかかってきた。


 アジサイの左脇腹を切り上げた剣を引こうとした。
 が、抜けない。


「なにッ」
 シャングをつつんでいる包帯。袖のあたりがアジサイに縫い付けられている。そのせいで腕が動かないのだ。


「オレさまの勝ちだ」
 アジサイがそう言った。


 アリエルのにぎった針が、シャングの脇腹に深々と突き刺さった。


「ま、まさかこの私が……ッ」


 リー。
 マオ。
 それにゴウ。


 自分が手塩にかけていた見習い竜騎士たちの笑顔が、脳裏に明滅した。いや。もう見習いではなく、竜騎士だったな、と思いだした。

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