《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

18-1.アリエルの戦い Ⅰ

 背面地区と脇腹地区のあいだに立ちはだかる城門棟。
 その鉄扉はいま、開け放たれている。城門棟を境に木造の町並みと、石造りの町並みの区切りがされている。
 そんな城門棟の足元にて――。


 アリエルとシャングは剣をまじえていた。


(私では、勝てない)
 アリエルはそう実感していた。


 当たり前だ。


 いくら死線をくぐり抜けてきたからと言っても、相手は帝都の竜騎士長である。経験が違いすぎる。


 それでもアリエルには負けられない事情がある。姉の背中に追いつく。そして隣に並んで見せる。


 剣と剣を結ぶ。


 シャングの剣は独特な形状をしている。長刀と言われるものだが、それにしても刀身が長い。


「さすがはエレノア竜騎士長の妹だな。その歳でこれだけのチカラがあるというのは凄まじい」


「ありがとうございます」


「姉とは違って、性格もキツくはなさそうだ。殺すのは忍びない。そこを退いてくれれば、見逃してやっても良い」


「退きません」


「私は、その先にいるクルスニク人を抹殺しなければならんのだ。あのシャルリス・ネクティリアとかいう怪物もな」


「ですから、退くわけにはいきません。クルスニク人はみんな良い人たちです。シャルリスも私の親友です」


「残念だ。なら、死んでもらうしかない」


 結び合っていた剣をほどいて、シャングは後ろに跳びずさった。


 火球ファイアー・ボールだ。魔防壁シールドでふせいだ。

 
 火球ファイアー・ボールがはじけて、ケムリを発した。
 視界の妨げになる。ケムリが霧散したときには、シャングは前傾姿勢になっていた。カラダで刀身を隠すような姿勢をとっている。太刀筋が、読めない。


 瞬間。
 シャングが大きく踏み込んできた。
 一瞬にして間合いを詰めてきた。


 魔防壁シールド。いや。間に合わない。剣で受け流すことにした。が、剣をはじきとばされてしまった。


 アリエルの剣は宙に舞いあがって、すぐ近くで死体となっていた竜騎士の近くに落っこちた。


「これで終わりだ」


 剣の切っ先をが、アリエルの顔面に向けられる。殺意は本気だ。この人はいつでもアリエルを殺せるのだ。


 それでも。


「私は、ここを退くわけにはいきません」


「なにをそんなに躍起になっている。君には家族が姉しかいないのだろう。ほかにも守りたい者がいるというわけか」


「みんな、みんな、私が守ってみせます。こんなこと間違ってます。話あえばきっと理解しあえます」


「こちらには譲歩しかない」
 と、シャングの声が低くなった。


「え?」


「話しあってどうする? 帝都の人間は、クルスニク人にたいして譲歩するしかない。仕方なく受け入れてやっても良い。しかしそれは帝都のためか? 否。いっときの情に流されているだけだ」


「でも、助けあうのが、人間というものです」


「帝都にとっては損しかない。土地の一部を奪われて、かぎられた食糧をわけなくてはならない。なぜ帝都の人間が、感染に怯えて暮らさなければならないのだ! 私の要求は簡単だよ。クルスニク人に出て行ってもらいたいだけだ。ハッキリと言う、帝都に君たちを受け入れる余裕などない」


 お世話になっている身だ。
 それはわかっている。
 それでも――。


「ここでクルスニク人が出て行くということはゼッタイにありえません。死んでいった先輩竜騎士たちの意思をムダにしないためにも、私はここであなたを止めて見せます」


【都市竜クルスニク脱出作戦】


 あの作戦の際。
 民を守るために、命を散らしていった竜騎士たちがいる。クルスニク12騎士の者たち。エレノアの補佐官。覚者アジサイも腕を失った。彼らは民を帝都に送り出すために犠牲となったのだ。


 竜騎士とはなんだ。


 ドラゴンに乗ってゾンビと戦う者たちのことか。否。地上の奪還を目指す者のことか。否。それも違う。


 民を守るための存在だ。
 それが、騎士、だ。
 ならば。


「退くわけにはいきません」


「強情な娘だ。その点は、エレノア副長に似ている。私もまた同じく、帝都の平穏を守るために、貴様を排除する」


 剣。
 薙いだ。
 死んだ。
 そう思った。


 しかしコメカミに襲ってきたのは、鈍痛だった。


 どうやら柄のほうで殴られたらしかった。
 アリエルのカラダは吹き飛んだ。近くで倒れていたドラゴンの死体に、寄りかかるようなカッコウになった。


 動けない。
 意識がモウロウとする。


「覚者ヘリコニアに育てられたからと言っても、しょせんはその程度か。あの男は個体としては強くても、隊長としての器は浅かったようだな。そこで大人しくしておけ」


 覚者ヘリコニアに育てられたからと言っても、しょせんはその程度。隊長としての器は浅い――その言葉が、アリエルの胸を打った。


 心臓が尋常じゃない鼓動を打った。


「私はすでに、死んだ身です」
 

 朦朧とする意識のなか、必死に自我を保った。四つん這いになって、カラダを支えた。チカラの入らない2本の脚で、カラダを立ち上がらせた。


「生かしてやったのだ。同じ竜騎士としての施しだ。頭蓋骨にヒビが入ってるかもしれんが、運が良ければ助かる」


「いいえ。そうではありません」


 見習い竜騎士のさいに、アリエルは変異種のゾンビに襲われた経験がある。ルエドに連れて行かれたのだ。そのときに、ロンが助けてくれた。
 あの日のことを、アリエルは忘れたことはない。


 ロンが来ていなければ、死んでいた。
 そういう未来は、確実にあった。


 そしてロンは、アリエルのことを、ここまで導いてくれた。
 自分なんてチッポケな存在が、ここまで来ることが出来たのは、ロンのおかげだという自覚がある。


 だから。
「あの人への侮辱だけは、ゼッタイに許しませんッ」


「ヘリコニアのことか」


 アリエルは跳躍した。シャングに殴りかかった。


「うおおぉぉ――ッ」


「自暴自棄になったか。その程度ではまだまだだ。今度は確実に仕留める。もう情はない」
 と、シャングが長刀を構えた。


 アリエルはひそかに魔法を展開していた。蔓を発生させる魔法だ。
 ゾンビのカラダを拘束したりするさいに使うものだ。
 その蔓で、落ちていたロングソードを拾い上げた。それをシャングに向かって投げつけた。


 捨て身の跳びかかりはブラフ。本筋は、この投剣だ。


「なにッ」


 シャングの頭部めがけて、刀剣が飛んだ。シャング剣はシャングの頬のあたりをかすめたけれど、間一髪のところでかわされてしまった。


 シャングの頬から滲み出た血が、包帯を赤く染めていた。が、たいした傷ではなさそうだ。


「うっ……」


 シャルリスはこれ以上は、動けなかった。四つん這いになって、ようやっと姿勢を保てる状態だ。
 コメカミへの一撃が、効いている。


 意識が、くらむ。


「なるほど。ひそかに魔法で剣を投げたか。器用なマネをするものだ。ヘリコニアへの侮辱は撤回しよう。もとより、あの人物を侮辱するつもりもなかったがな。貴様はここで終わりだ。ユックリと休め」


 シャングはそう言って、長刀を振るった。


(すみません。先生。ここまでみたいです)
 と、アリエルは心のなかで謝った。


 ロンの立場上いまは、隊長、ということになっている。
 けれどアリエルのなかでは今でも、ロンは先生だった。

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