《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

17-3.シャルリスとリー

「眠れないっスか?」


 詰所の一室。
 チェイテがベッドの上に正座していた。さっきから鼻をうごめかしている。


「なんだか、厭な臭いがする」
「ボク、屁とかしてないっスからね!」
「わかってる」
 と、チェイテはニコリともせずに返してくる。


 ロン隊長の帰りも遅いですね――と、アリエルが言う。


 たしかに遅い。シャルリスもだから寝つけなかった。あの人に、万が一のこともないと思うが、さっきから胸騒ぎがする。


「まだこっちの生活に慣れてないからっスからねぇ。石造りの建物で生活してきたら、こういう木造の質感に慣れてないんっスよね。枕もチョット高いし」


 クルスニクに住んでいたころが、なつかしい。同じドラゴンの背中である以上は、似たような構造だし、似たような町並みだ。
 けれど、何もかもが違って感じる。


「もしかして、ロン隊長は、お姉ちゃんに捕まってるんじゃないかな」
 と、アリエルがベッドから上体だけを起こして言った。


 寝る前のアリエルは髪の毛をツインテールに束ねていない。ブロンドのまっすぐな髪の毛は艶やかで羨ましいと思う。


 シャルリスは髪を伸ばせばウネリはじめるのだ。
 ロンは長髪と短髪のどちらが好みなのだろうか。


「エレノア竜騎士長――じゃなくて副長にっスか?」


「お姉ちゃん。ロン隊長に気があるみたいだから、告白とかされてたりして」


「えぇーッ。あの副長、ロン隊長に気があったンっスか!」
 と、シャルリスはベッドから跳ね起きた。


 勢いあまって掛布団がベッドから落っこちた。


「気づいてなかったのですか?」


「そんなの知らないっスよ。ってか、あの人が相手ならゼッタイ勝ち目ないじゃないっスか」


 ショックだ。
 アジサイの言うように、今はまだチョット色気が足りないかもしれない。
 もう数年したら、ロンのことを射止めてやろうと目論んでいたのだ。


 が、どれだけ成長しても自分が、エレノアとアリエル姉妹に風貌で勝てないことぐらい自覚している。


「でも、ロン隊長がどう思ってるかは、わからないから」


「それはまぁ……そうっスけどね。エレノア竜騎士長って恋人とかいないンっスか? あれだけ美人なら、言い寄ってくる男も多いと思うっスけど」


「お姉ちゃんって、そういうことに興味ないみたいだから」
 と、アリエルはかぶりを振った。


「そういうことって、恋とかってことッスか?」


「うん」


「でもだったら、ロン隊長に惚れてるってのも、変な話じゃないっスか」


 落っこちてしまったフトンをベッドに持ち上げた。なんだか睡魔がいっきに吹き飛んでしまった。


 ベッドから足を投げ出して、尻だけあずけるようにして座る。


「恋愛的に好きってことよりも、たぶん単純に強いから惹かれてるだけだと思う。お姉ちゃんって強いってことに、すごいコダワリを持ってるから」


「それでロン隊長に気があるってことっスか。なんていうか、純粋なのか不純なのか、わかんないっスね」


「うん」
 と、心なしかアリエルの返答には、元気がないように聞こえた。


 強いことしか興味がないエレノアの性格には、アリエルにも何か思うところがあるのかもしれない。


「アリエルはどうなんっスか? 好きな人とかいるっスか? ほら、帝都の竜騎士とか」


 なんとなくそう切りだした。


「そう言えば、私たちと同じぐらいの年頃の男の子たちがいましたね」


「アリエルは、ああいうのが好みなんっスか?」


「い、いえ、そういうわけではないんですけど。好みで言うと、私はロン隊長がいいかなって……」


「えぇー。マジっスか」


 気が遠くなる。
 エレノアとアリエルの姉妹は、一般人とは段違いに顔立ちが整っているのだ。
 この2人に参戦されたら、シャルリスには付け入る隙がなくなってしまう。


 チェイテはどうなんっスか? と話を振った。


「誰か好きな人とかいないんっスか? 好きな人の前では、もうチョット笑ったほうがいいっスよ。チェイテは誤解されやすい顔をしてるっスからね」


 シャルリスはそう言って、背後からチェイテに抱きついた。チェイテからはローズマリーの良い匂いがする。


「私には、ロン隊長がいるから」
 と、チェイテはなんの恥じらいもなく、そう応じた。


「えーッ。なんなんっスか。みんな狙いはロン隊長なんっスか? もうチョット自分の年齢と合せるべきっスよ。歳の差を考えるっスよ」


「それはシャルリスも同じ」


「うっ……」
 窮した。


 まぁ、仕方ないのかな、とは思う。


 卵黄学園時代にロンは、3者3様の形でみんなを救っている。


 アリエルとチェイテをゾンビから助けている。


 シャルリスだって、バトリに意識を乗っ取られそうになったとき、ロンに呼びかけてもらっていなかったら、今頃どうなっていたかわからない。


 オマケに、ロンは3人を1人前の竜騎士に育ててくれた。


 それだけじゃない。


 才能のなかったシャルリスに居場所を用意してくれたのも、ロンだ。


 こうして誰かと恋話こいばなに、花を咲かせることが出来るのも、居場所があるからだ。


 アリエルとチェイテといっしょにいると、幸せを感じる。


「それにしても帰りが遅い。争いの臭いがする。それに、何か騒がしい」


「何か聞こえるっスか?」


 耳を澄ます。
 たしかに喧騒が聞こえてきた。何か争っているようにも聞こえる。健全な騒ぎではないことは確かだ。


「もしかして暴徒の連中じゃないでしょうか? ほら早朝にこちらに襲ってきましたよね」
 と、アリエルが言う。


「げッ。また連中っスか」


 ならばすぐに止めに入らなければならない。


「何か、来る。伏せて!」


 チェイテが跳びついてきた。チェイテに跳びかかられて、シャルリスとアリエルの2人は床に仰向けに倒れることになった。


 チェイテの白銀の髪が広がって、シャルリスの視界の妨げになった。


 轟音が響いた。


 突風が吹きつけてくる。突風のなかには木っ端などが含まれていた。


 シャルリスとアリエルに覆いかぶさるようなカッコウになっているチェイテの後頭部をかばうようにして、シャルリスは手を広げた。


 風がやむ。


「ふたりとも無事っスか?」
 と、シャルリスは上体を起こした。チェイテとアリエルにもケガはないようだった。


 いったい何があったのか。
 周囲の様子を確認した。


 屋根が破壊されていた。夜空がさらけ出されている。壁も一部が破れていた。大穴が開いている。


 そして。
 1匹の怪物が、そこに立っていた。


 右半身がドラゴン。左半身は人間の姿をしていた。その左半身の姿に見覚えがあった。リー・フォルトとかいう竜騎士の青年だ。


「な、なんっスか。いったい」


 リーが跳びかかってきた。あきらかに殺気を向けられていた。シャルリスは咄嗟に、チェイテとアリエルをかばうようにして前にでた。


 リーは右手のドラゴンのような巨大な手で、シャルリスのカラダをわしづかみにしてきた。


「うわっ」


 リーは、シャルリスを握りこんだまま空高く跳びあがった。チェイテとアリエルを残して、シャルリスだけが、夜の空へと持ち上げられることになった。


 リーの握りこむチカラが強くなっている。このままでは潰される。


(チカラを借りるっスよ。バトリ)


 身の危険を感じたシャルリスは、自分の背中から肉の翼を生やした。
 翼を広げて、リーの握力を押し返した。カラダが自由になる。


 夜空。
 月明かりを背景にして、リーとシャルリスは対峙することになった。


 シャルリスの背中からは肉の翼。リーの背中からは、右翼だけ生やしていた。互いにとてもじゃないが人間とは言えない風体である。


「いったいなんなんっスか。強引なナンパはあんまり好きじゃないっスよ」


「悪いとは思ってる。だけど、ここで君たちを殺す必要があるんだ。クルスニク人には、みんな死んでもらう」


「なんっスか、それ」


「【帝都の盾】そう言えば、理解してもらえると思う」


 暴徒だ。
 こうして俯瞰してみると、暴徒の連中が他にもなだれ込んできているのが見て取れた。


「なるほど。要するにボクとケンカがしたいってことっスね」


 リーのこの怪物めいた姿は意味がわからない。が、さっさと片付けて、襲われているクルスニク人を助けなければいけない。

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