《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

16-1.食い違い

 廃都探索の作戦が終了したのは、夜も間近に迫った刻だった。ヘルシングの羽休めも終わりそうだったので、竜騎士たちはヘルシングへと帰還することになった。


 夕刻。
 残照がまだ空を薄赤く照らしていた。


 作戦から帰還した竜騎士たちが、城の中庭に集まっていた。ドラゴンに付着した返り血を拭っている者がいたり、竜具を外して大の字に寝転んでいる者もいた。


「みんな、お疲れみたいだな」
 と、周囲を見渡してロンはそう言った。


「【廃都探索作戦】は、大成功って言っても良いんじゃないッスか」
 と、シャルリスが興奮気味にそう言った。


「ッたく、惜しみなくバトリのチカラを使いやがって、みんなビビり散らかしてたぜ」


「だけどボク、活躍してたっスよね」


「まあな」


「この服もアジサイに作ってもらったンっスよ。破れてもすぐに修復するように。ロン隊長のものとオソロっスよ」
 と、シャルリスはその場で一回転して見せた。


「まぁ、服のことは良いんだがな。その……なんだ……バトリのチカラは使いどきを選べよ」


 シャルリスは今日だけで、ゾンビを3匹屠っている。アリエルとチェイテと協力して、巨大種の討伐にも成功している。輝かしい戦果と言えるだろう。クルスニク12騎士と言われていた者たちにも匹敵するほどの成果だった。シャルリスのおかげで助けられた命もあったはずだ。


 しかし一方で、シャルリスのチカラに怯えている者たちがいたのも事実だ。シャルリスのチカラは、率直な言い方をすればゾンビのチカラなのだ。


「バトリのチカラを利用してやれって、最初に助言してくれたのは、ロン隊長っスよ」
 と、スねたようにクチ先をとがらせてシャルリスが言う。


 都市竜クルスニクでは、たしかにそんなことを言った覚えがある。それを言われると、ロンも言い返しにくい。


「地上には竜騎士しかいなかったしな。良しってことにしておくか。でもまぁ、今は敏感なときなんだからな。帝都の連中は、クルスニク人にビビってるんだから」


 べつに、バトリのチカラを使うなと言われているわけではないのだ。ただ、シャルリスの存在は、帝都の人間たちを刺激することになる。


「ボクだって通常の作戦だったら、このチカラは隠しておくつもりだったっスよ。今回の作戦は、クルスニク人を減らそうという思惑が、あからさまに見えていたっスよ。だからボクもムキになっちゃったっスよ」


「そうだな」


 誰が今回の作戦を立案したのかは知らないが、たしかに露骨だった。クルスニク人を出来るだけ、削ってやろうという悪意が見え見えだった。


(作戦を立案したのは、皇帝か? いや。それともあの包帯男か?)
 わからない。


 仕方ないと言えば、仕方ないのかもしれない。が、クルスニク人を見てきただけに、ロンも心境的にはクルスニク人の肩を持ちたくなる。


「だいたい、ボクだけじゃなくて、ロン隊長もムキになってたっスよ。巨大種燃やしてたっスよね。今回、ロン隊長は手を出すことを禁じられていたんでしょう」


「まぁ、あの場合は仕方なかっただろう。オレが出でなきゃ、クルスニク人は巨大種にペチャンコにされてたぜ」


「じゃあ、ボクのこと叱れないっスね」
 と、シャルリスは勝ち誇ったように言う。


「わーったよ。オレの負けだ。ったく、いつの間に、そんなに弁が立つようになったんだか」
 と、ロンは肩をすくめた。


 にしし、とシャルリスは笑ってつづける。


「でも、ロン隊長はどうして手を出すことを禁じられてたっスか?」


「けっこう廃都がキレイに残ってただろ。貴重な資料とか残ってたら、被害が出るかもしれないから――って」


「それ、誰に言われたんっスか?」


「あの包帯男だよ。シャング竜騎士長だ」


 シャングは、ここにはいないようだった。


「竜騎士長って言うと、ボクはまだエレノア副長のことを考えちゃいます。なんだかエレノア竜騎士長が副長なんて、違和感あるっスね」


「まぁ、オレたちにとっては、エレノア竜騎士長が騎士長だったからな。でも、帝都の連中からしてみれば、あのシャングって野郎が騎士長やってるのが、普通なんだろうさ。立場が変われば、見方も変わるってもんだ」


「でも、なんか厭な感じっスよ。あの人」
 とシャルリスは、わざとらしく表情を歪めてみせた。


「不気味ではあるよな。全身包帯で巻きつけてるし。ケガか何かしてるんだろうけどさ」


「だいたいあのシャング竜騎士長って、チャント前が見えてるか怪しいっスよ。巨大種の引きつけだって、ロクに出来ていなかったじゃないっスか」


 帝都の竜騎士の誘導が甘かった。
 そのせいで、巨大種が廃都探索隊のほうへとターゲットを移すことになったのだ。だからロンも手を出すことになってしまった。


「そう悲観的になるなよ。収穫は大きかったんだ。クルスニク人たちも、自分たちの汚名を晴らそうと奮闘したんだろうさ」


 過去の食器や、文明の利器。
 文献や、見慣れない小道具など。
 とにかく、多くの物品を回収することが出来た。


「あんなことになるなら、多少都市に被害を与えても、先にロン隊長が巨大種を仕留めておいても良かったと思うっスけどね」


「まあ、結果論だろうさ」


「そうかもしれないっスけど」
 と、シャルリスは不服そうだった。


 チェイテとアリエルも戻って来た。ふたりは自分たちのドラゴンの労をねぎらっていたようだ。


「おつかれーっス」
 と、シャルリスが快活にそう声をあげて、アリエルやチェイテに抱きついていた。チェイテは相変わらず無愛想な顔をしているし、アリエルはシャルリスをなだめるような所作をとっていた。


(安定してきたな)
 と、思う。


 互いの仲も悪くなさそうだ。もし【腐肉の暴食】の件が片付けば、ロンはここを離れても良さそうだ。
 もう1人前の竜騎士と言っても良い。


 しかしその【腐肉の暴食】こそが曲者なのだ。どういう意図なのかはわからないが、ヤツはシャルリスのことを気にいっており、寄生を解除しようとする気配はない。


 それに。
 事情を知っているクルスニクの竜騎士はなんとも思わないだろうが、帝都の竜騎士たちはシャルリスにたいして怯えるような目を向けていた。シャルリスをこの場に置いておくのは、あまり得策ではないかもしれない。


「シャルリス、チェイテ、アリエル」
 と、ロンが手招きする。
 3人は、あわてたようにロンの前に並んだ。


「今日はお疲れさま。今日はこれで解散だ。右脇腹地区に戻って休むと良い」


「了解っス。ロン隊長はどうするっスか?」


「オレはもう少しここに残って、ほかの竜騎士たちの様子を見てから戻るよ。ほかの隊長との付き合いもあるんでな」


「すぐ戻ってきてくださいよ」


「どうした? 甘えたいお年頃か?」


「そんなんじゃないっスけど……」


 シャルリスは軽く頬をふくらませると、上目使いをおくってきた。何か物言いたげな様子だったが、結局、チェイテとアリエルとともに戻って行った。

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