《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

15-2.ノスフィルト家の確執

「クソォ!」
 と、マオは竜舎の壁面を蹴りつけていた。


 城の竜舎は石造りになっている。マオが蹴ったぐらいでは、たいした音もたたない。ほかの竜騎士たちは、自分のドラゴンに鞍を装備している最中だった。


 リーも自分が手懐ける赤いドラゴンに鞍をつけていた。


「そんなに怒ることないじゃないか。仕方ないよ。クルスニクの竜騎士たちは、それ相応の死地をくぐり抜けてきたんだから。実力差があるのは、当たり前だよ」


「ヒイキされてるんだよ」


 マオは真っ赤に光る目を、充血させてさらに赤くしていた。マオはネコみたいな顔をしているが、怒るとトラにも見える。


「ヒイキ?」


「そうだ。どうせまたノスフィルト家が関わってやがるんだ」


「どういうこと?」


「ノスフィルト家のことは知ってるだろ。オレの家系だよ。まぁ、オレは妾の子だから、関係ねェがな」


「ノスフィルト家って言えば、皇族に近い名門一族だろ。世界最強の6大魔術師のひとりだったり、皇帝の側近だったり、要職を占めてる一門のひとつだ」


 ときには皇帝の意見を覆すほどのチカラを持っているとも聞く。


「そのノスフィルト家が、手をまわしやがったに違いねェ」


「さっきの勝負は、貴族もなにも関係ないだろ。実力でハッキリ負けた」


 そうじゃねェよ、とマオはかぶりを振った。


「覚者ヘリコニアを呼びつけて、チェイテ・ノスフィルトを鍛えさせたんだ」


 チェイテ・ノスフィルト。
 クルスニクの竜騎士のなかにいた娘だ。


「でも、覚者ヘリコニアは、【腐肉の暴食】を宿したシャルリス・ネクティリアの監視のため――って聞いたけど」


「それもあるだろうが、覚者に育てられたら、誰だって強くなれるだろうが。チェイテは覚者ヘリコニアに鍛えられて、強くなったに違いねェんだよ。ノスフィルト家のチカラで、覚者に取り入りやがったに違いねェ」


「すこし落ち着きなよ。考えが飛躍しすぎたって」


 マオが真っ赤な目で、リーを睨んできた。
 リーが首をすくめると、マオもすこしは冷静さを取り戻したようだ。


「そうだな。すこしムキになりすぎた。けど、オレは間違ってねェ。チェイテ・ノスフィルトは、ノスフィルト家の大事な御令嬢なんだからよ。だから覚者に育てられたんだろうさ」


「うん」


 たしかに史上最強の個体とすら言われている男に育てられたら、尋常ではない強さになることだろう。


 ヘリコニアの小隊には、「シャルリス・ネクティリア」と「アリエル・キャスティアン」と「チェイテ・ノスフィルト」の3人がいる。


 あらためて考えてみれば、ひとりは問題児。残り2人は名のある貴族の家柄だ。アリエル・キャスティアンというのは、あのエレノア竜騎士副長の妹だったはずだ。


 マオの言うように、ヘリコニアに金でも積んで鍛えてもらっているのかもしれない。


「屈辱的だな。ヤッパリ妾の子どもは、本家の娘にゃ勝てねェってわけか」


「まだ、決着がついたわけじゃないよ。いつ勝てば良いんだからさ」


「それだけじゃねェ。クルスニク人の受け入れだって、【腐肉の暴食】に寄生されたバケモノを生かしてるのだって、ノスフィルト家の判断がまじってやがるに違いねェんだ」


「それは、そうかもしれないね」


 マオの事情はリーもすこしは耳にしている。


 マオの父はノスフィルト家の当主だったが、母は妾の子だった。妾の生んだマオは、赤毛に赤目だった。


 赤毛に赤目というのは、出自が下等なのだそうだ。そんな話聞いたこともないし、大昔の文化の名残なのだろう、と思う。
 ノスフィルト家のような超一流貴族だから気にするようなことなのかもしれない。


 赤毛のマオを生んだことによって、妾はノスフィルト家を追放された。むろんマオ自身も、ノスフィルト家に受け入れてはもらえなかったのだと言う。赤毛赤目だから。


 ノスフィルトを名乗ることすら許されなかったそうだが、マオは厭がらせ目的で、「ノスフィルト」を名乗っているのだと言っていた。


 本家の正式血統者であるチェイテには、妾の子であるマオには思うことがあるのだろう。


「ノスフィルト家に捨てられたオレが、いつか本家の娘を越えてやる。生まれながらにして恵まれた糞野郎なんかに、負けてたまるかよ」
 と、憎悪をむき出しにしていた。


「そう言えば、シャルリス・ネクティリアも赤毛だったね」


「だからって気にするのは、ノスフィルト家とか皇族のような連中ぐらいだろうがな」


「うん」


 赤毛に赤い目をした人間なんて、いくらでもいる。マオは黒目に黒髪だし、そっちのほうが珍しいように思う。


(そう言えば)


 あの覚者も、黒目に黒髪だったな――と、ヘリコニアのことを思い出した。
 すこし親近感を抱く。


「オレたちも行くぞ。あんまりモタモタしてると、シャング竜騎士長に殺されちまう」


「マオが、変なことボヤくからだよ」


「悪かったよ。でも、オレたちはついてるな」
 と、ドラゴンにまたがりながら、マオが言った。


「ついてるって何が?」


「オレたちは新米だけど、もう実戦経験が積めるんだ。しかも、危険度の高い廃都に行くんだってよ」


「ついてるって言うのかな……」


 むしろ、運が悪いようにも思う。


「ついてるだろ。クルスニクから来た連中に、チョットでも早く追いつかなくちゃいけないし。それにオレたちは期待されてるんだ」


「うん」


 それはまぁ、そうなのだろう。
 竜騎士というのは基本的に、小隊で動く。リーとマオの小隊長は、シャングだ。竜騎士長でありながら、小隊長の役目もになっているのだ。それは、たぶん、リーたちが期待されているからなのだろう。


「ゴウのこともある。オレたちは前に進まなくちゃならない」
 と、ドラゴンに騎乗して、マオがコブシを向けてきた。


「ああ」
 と、リーはみずからのコブシを、マオのコブシに重ねた。べつに意味はない。なんとなくリーとマオのあいだで日常的によく使う挨拶だ。


 竜騎士隊というのは、基本的に3人で動く。


 リーとマオ。ホントウはもうひとりいた。それがゴウだ。ゴウは理由があって、竜騎士にはなれなかった。


 竜騎士になるというゴウの夢を、リーたちはたくされたのだ。


(くそっ)
 と、リーは自身を叱咤した。
 ゾンビへの恐怖を打ち消した。


 ドラゴンにまたがる。鞍にまたがり、手綱を握る。ドラゴンの横腹を足で蹴りつけた。それを合図に、ドラゴンが駆ける。石造りの桟橋で助走をつけて、空へとはばたいた。

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