《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
13-6.人体実験
「ところで、子供を生むつもりは、まだ起きないのか?」
と、深刻な調子のまま皇帝が尋ねてきた。
「はぁ?」
あまりにトッピョウシもない発言だと感じたので、ロンは変な声が漏れた。
「冗談を言っているつもりはない。竜人族の血もまた、絶やしてはならないものだ。人類の存続のために必要なカギのひとつになる」
皇帝はイスに深くモタレかかっていたのだが、弾かれたように立ち上がった。そしてロンの前に立った。もうずいぶんと歳を食っているはずだ。が、こうして見るかぎりは、その衰えを感じさせられない。
大きな、男だった。
「ノーだ。オレは子供を生むつもりはないし、自分の生涯において女を抱くつもりもないね」
と、ロンも頭を振って、立ち上がった。
目線の高さが同じだった。
「お前なら理解できるはずだ。竜人族の血は、つないでいかなければならないものなのだ。女ならいくらでも斡旋してやる。覚者に抱かれたいと思う女は少なくないはずだ」
「それは、問題発言だぜ。皇帝だから許される発言ってか?」
茶化そうとしたロンの言葉を無視して、皇帝はつづけた。
「エレノアはどうだ? エレノア・キャスティアンなら、喜んでお前のツガイになってくれるはずだ」
エレノアが、ロンにたいして好意を寄せていることも、どうやら皇帝には筒抜けらしい。ハマメリスの仕業だろう。
ちッ、とロンは舌打ちを漏らした。
「いつまでも竜人族の血に頼ってンじゃねェよ。人類は人類で、どうにか生き残る術を見出してくれ」
「そう意固地になることはないだろう。出来ることなら、強引にでも子供を生ませたいほどなのだ」
しかしロンのチカラを、押さえつける術はない――ということだ。
「なら、オレの両親がどうなったのか、教えてくれても良いだろう」
「……ふむ」
と、皇帝は、刈り込まれた白ヒゲを指でナでていた。
ロンは、自分が特殊な一族だと自覚している。半分は人間で、もう半分はドラゴンの血が混じっている。そんな種族が、子供を生んだら、いったいその子供はどんな形状で生まれてくるのか。バケモノが生まれてくる可能性だって、皆無ではない。
そんなリスクはロンはゼッタイに犯すつもりはない。ロンだけなら良い。が、相手の女性にだって、生まれてくる子供にだって悲劇を与えることになるかもしれないのだ。
世界のためだと言われても、踏み越える勇気はない。
「竜人族は代々、皇族が丁重にあつかって来た」
「だろうな。これほど貴重な血を、皇族が無下にするはずがない。にもかかわらず、オレしか生き残ってない。その理由はなんだ?」
はぁ、と皇帝はため息を吐いた。
話すべきかどうか迷っているようだった。
ロンも今まで、強引に聞き出そうとはして来なかったことだ。皇帝はすこし前のめりになると、クチを開いた。
「着床率が異常に低いのだ。竜人族の精液が、人間の女性に着床する可能性が異様に低い。むしろ精液が子宮を食い破るほどだ。逆もまたしかりだ。竜人族の子宮は、並大抵の男の精液を燃やし尽くしてしまう」
「なるほど。そりゃリスキーだ。どうりで子供が生まれないわけだ」
「それでも、世界のためを思うならば、絶やしてはならぬ血筋だ。だからお前の両親も、お前を生んだのだ」
「奇跡だな」
両親の記憶は、マッタクない。
最初から知らないのだから、寂しいとは思わない。恵まれていたのだ。ノウゼンハレンという親代わりがいてくれた。皇帝という祖父代わりがいた。覚者という仲間たちがいた。
ノウゼンハレンは、すごい人だと思う。よくもまぁ、人間ともドラゴンともつかない存在を、ここまで育ててくれたものだ。
その敬意を忘れたことはない。
「お前は、自分の出生を知るべきではない」
重々しいその口調に、ロンはガツンと殴られたような心地だった。
「えらくハッキリ言うじゃねェか」
「この秘密は、ワシは地獄まで持ってゆくつもりだ。たとえ人類が滅びてもな。ノウゼンハレンとて、決してしゃべりはしないだろう」
と、皇帝はロンの肩に手をかけてきた。ズシッとした重みを感じた。
「よっぽど言えない理由があるわけだ。なおさら、子供なんて生みたくなくなるぜ」
と、皇帝にかけられた手を、ロンは振り払った。
「行為に及ぶ必要はない。精液だけでも良いのだ」
「ダメだ。オレから採取することは、諦めるんだな。だいたいジジィに精液を求められても気色悪いだけだぜ」
「お前が拒否するなら、人工的に竜人族を生み出すだけの話だ。ドラゴンの精液を採取するなり、細胞を移植するなりしてでも、ふたたび竜人族を生み出す」
眉間にシワを、歯茎をむき出して、まるで苦悶するかのような表情で皇帝はそう言う。
「でも、上手くいかねェンだろ。だから、オレに子供を生ませようとする」
「その通りだ。上手くいかない。ドラゴンと人間が交わっただなんて、まるで奇跡なのだ。おかげで人間ともドラゴンともつかないバケモノが生まれる始末だ。残虐でオゾマシイ人体実験だ」
皇帝はまるで吐き気をこらえるかのように、クチもとをおさえていた。
「何を作りやがった」
何か尋常ではない人体実験なのだろう。
皇帝の反応から想像はつく。
「これも、お前が子供を生まないと意固地になっている責任だ。なんとしても、どうしても人類の存続のために、竜人族の血をつなぐ必要があるのだ。どんな手を使ってでもな」
今まで、ジイさん、と慕ってきた皇帝が、マッタク別の存在に見えた。ロンが知らなかっただけで、この男は数多くの残虐なことに手を染めてきたのだろう。すべては人類存続のために。
皇帝の額にはギラギラと不気味に輝く、油っこい汗が浮かんでいた。
「そんな実験は、すぐに中止することだな。安心しろ。オレの世代で世界が平和になれば、それで良いンだろ」
「平和とは、数多くの罪と犠牲の上に成り立つものだッ! そうでなければ、犠牲になった者たちが報われん」
瞬間。
皇帝の背後からドス黒い鬼気がたちのぼったかのように見えた。
なるほど。
これが【腐肉の暴食】をはじめとする始祖たちが憎悪している、人類の権化なのかもしれない。
ここにもまた、ひとつの哲学。
と、深刻な調子のまま皇帝が尋ねてきた。
「はぁ?」
あまりにトッピョウシもない発言だと感じたので、ロンは変な声が漏れた。
「冗談を言っているつもりはない。竜人族の血もまた、絶やしてはならないものだ。人類の存続のために必要なカギのひとつになる」
皇帝はイスに深くモタレかかっていたのだが、弾かれたように立ち上がった。そしてロンの前に立った。もうずいぶんと歳を食っているはずだ。が、こうして見るかぎりは、その衰えを感じさせられない。
大きな、男だった。
「ノーだ。オレは子供を生むつもりはないし、自分の生涯において女を抱くつもりもないね」
と、ロンも頭を振って、立ち上がった。
目線の高さが同じだった。
「お前なら理解できるはずだ。竜人族の血は、つないでいかなければならないものなのだ。女ならいくらでも斡旋してやる。覚者に抱かれたいと思う女は少なくないはずだ」
「それは、問題発言だぜ。皇帝だから許される発言ってか?」
茶化そうとしたロンの言葉を無視して、皇帝はつづけた。
「エレノアはどうだ? エレノア・キャスティアンなら、喜んでお前のツガイになってくれるはずだ」
エレノアが、ロンにたいして好意を寄せていることも、どうやら皇帝には筒抜けらしい。ハマメリスの仕業だろう。
ちッ、とロンは舌打ちを漏らした。
「いつまでも竜人族の血に頼ってンじゃねェよ。人類は人類で、どうにか生き残る術を見出してくれ」
「そう意固地になることはないだろう。出来ることなら、強引にでも子供を生ませたいほどなのだ」
しかしロンのチカラを、押さえつける術はない――ということだ。
「なら、オレの両親がどうなったのか、教えてくれても良いだろう」
「……ふむ」
と、皇帝は、刈り込まれた白ヒゲを指でナでていた。
ロンは、自分が特殊な一族だと自覚している。半分は人間で、もう半分はドラゴンの血が混じっている。そんな種族が、子供を生んだら、いったいその子供はどんな形状で生まれてくるのか。バケモノが生まれてくる可能性だって、皆無ではない。
そんなリスクはロンはゼッタイに犯すつもりはない。ロンだけなら良い。が、相手の女性にだって、生まれてくる子供にだって悲劇を与えることになるかもしれないのだ。
世界のためだと言われても、踏み越える勇気はない。
「竜人族は代々、皇族が丁重にあつかって来た」
「だろうな。これほど貴重な血を、皇族が無下にするはずがない。にもかかわらず、オレしか生き残ってない。その理由はなんだ?」
はぁ、と皇帝はため息を吐いた。
話すべきかどうか迷っているようだった。
ロンも今まで、強引に聞き出そうとはして来なかったことだ。皇帝はすこし前のめりになると、クチを開いた。
「着床率が異常に低いのだ。竜人族の精液が、人間の女性に着床する可能性が異様に低い。むしろ精液が子宮を食い破るほどだ。逆もまたしかりだ。竜人族の子宮は、並大抵の男の精液を燃やし尽くしてしまう」
「なるほど。そりゃリスキーだ。どうりで子供が生まれないわけだ」
「それでも、世界のためを思うならば、絶やしてはならぬ血筋だ。だからお前の両親も、お前を生んだのだ」
「奇跡だな」
両親の記憶は、マッタクない。
最初から知らないのだから、寂しいとは思わない。恵まれていたのだ。ノウゼンハレンという親代わりがいてくれた。皇帝という祖父代わりがいた。覚者という仲間たちがいた。
ノウゼンハレンは、すごい人だと思う。よくもまぁ、人間ともドラゴンともつかない存在を、ここまで育ててくれたものだ。
その敬意を忘れたことはない。
「お前は、自分の出生を知るべきではない」
重々しいその口調に、ロンはガツンと殴られたような心地だった。
「えらくハッキリ言うじゃねェか」
「この秘密は、ワシは地獄まで持ってゆくつもりだ。たとえ人類が滅びてもな。ノウゼンハレンとて、決してしゃべりはしないだろう」
と、皇帝はロンの肩に手をかけてきた。ズシッとした重みを感じた。
「よっぽど言えない理由があるわけだ。なおさら、子供なんて生みたくなくなるぜ」
と、皇帝にかけられた手を、ロンは振り払った。
「行為に及ぶ必要はない。精液だけでも良いのだ」
「ダメだ。オレから採取することは、諦めるんだな。だいたいジジィに精液を求められても気色悪いだけだぜ」
「お前が拒否するなら、人工的に竜人族を生み出すだけの話だ。ドラゴンの精液を採取するなり、細胞を移植するなりしてでも、ふたたび竜人族を生み出す」
眉間にシワを、歯茎をむき出して、まるで苦悶するかのような表情で皇帝はそう言う。
「でも、上手くいかねェンだろ。だから、オレに子供を生ませようとする」
「その通りだ。上手くいかない。ドラゴンと人間が交わっただなんて、まるで奇跡なのだ。おかげで人間ともドラゴンともつかないバケモノが生まれる始末だ。残虐でオゾマシイ人体実験だ」
皇帝はまるで吐き気をこらえるかのように、クチもとをおさえていた。
「何を作りやがった」
何か尋常ではない人体実験なのだろう。
皇帝の反応から想像はつく。
「これも、お前が子供を生まないと意固地になっている責任だ。なんとしても、どうしても人類の存続のために、竜人族の血をつなぐ必要があるのだ。どんな手を使ってでもな」
今まで、ジイさん、と慕ってきた皇帝が、マッタク別の存在に見えた。ロンが知らなかっただけで、この男は数多くの残虐なことに手を染めてきたのだろう。すべては人類存続のために。
皇帝の額にはギラギラと不気味に輝く、油っこい汗が浮かんでいた。
「そんな実験は、すぐに中止することだな。安心しろ。オレの世代で世界が平和になれば、それで良いンだろ」
「平和とは、数多くの罪と犠牲の上に成り立つものだッ! そうでなければ、犠牲になった者たちが報われん」
瞬間。
皇帝の背後からドス黒い鬼気がたちのぼったかのように見えた。
なるほど。
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