《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
12-7.最高の時代
「お久しぶりですね。竜人族の末裔。ヘリコニア。ロン。どうお呼びすれば良いでしょうか」
「まぁ、好きに呼んでくれ」
大量のゾンビが押し寄せて来ている。獄炎を吐き散らして、燃やし尽くした。
燃やし損ねたゾンビを尻尾で叩き潰す。多少の取りこぼしは、竜騎士たちが押さえてくれるはずだ。
息絶えて倒れ伏した都市竜クルスニクの頭部には、マシュが立っていた。
ロンを見下ろしている。
髪はかきあげられて、目が露出していた。
まるで鉱石のように輝く、エメラルドグリーンの双眸だった。
「なるほど。史上最強の個体と呼ばれるわけですね。ほかの覚者と比べても、ロンは段違いに強い」
ハマメリスからの連絡で、だいたいの情報は得ている。
マシュはどうやら視界にとらえた対象をゾンビ化させる能力があるらしい。
ロンは大丈夫だが、シャルリスを連れてくることに不安があった。そのため、残してきた。【腐肉の暴食】の抑制はできているはずだ。残して来ても問題はないだろう――と、判断した。
「そっちこそ、たいしたもんだぜ。覚者を2人も追い返しちまうとはな」
ミツマタは体力切れ、アジサイは生きてはいるが左手を失う重傷だと聞いている。
「ゾンビの真骨頂は、数の暴力ですから。しかし2人とも、ゾンビ化までには及びませんでした。あともう少しだったのですが」
「目的はなんだ?」
「簡単なことです。この避難民をゾンビ化させることが、私の目的です」
「そんなチッポケな話をしてるんじゃねェよ。てめェの生きてる意味を聞いてるんだ。なにゆえ人をゾンビ化させる意味がある? やはり、性欲か」
ゾンビは性欲によって、生きた人間を襲うと聞いたことがある。
「たしかに性欲もありますね。私の体内に流れる《不死の魔力》は、さらなる宿主を求めている」
しかし――とマシュはつづける。
「私はそれほど、知性なきゾンビではありません」
「なら、人を襲う理由はなんだ?」
ミツマタとアジサイを退けたのは、凄まじい執念だ。何か強い意思がなければ、あの2人を退けることなど出来はしない。
ロンはそう確信していた。
「憎悪ですよ」
「食用人間として造られた恨みか」
「ええ」
「ずいぶんと前の話だろ」
「忘れもしない。2300年前のことです。ドラゴンの餌になるために、私は食用人間に造りかえられた」
「えらく昔の話だな」
「何年経とうとも、その恨みは忘れない。ひとつ人間たちは、大きな勘違いをしていることがあります」
「御傾聴しようじゃないか」
「この世界の主役が人間だと勘違いしていることです」
「はぁ?」
「このロト・ワールドという世界の主役は、我ら食用人間なのです。これは我ら食用人間が、人類に復讐するための物語なのです。虐げられた弱者が、傲慢な人間に報復するための!」
マシュは語気を荒らげてそう言った。
「2300年も生きたンならもう良いだろ。オレがトドメをさしてやるから、こっちに来いよ」
「人類を滅ぼすまでは、死ぬわけにはいかない」
瞬間。
ロンのカラダが、沼の底に引きずり込まれた。
「なにッ」
ドラゴンに化けているロンの足に、ゾンビたちがからみついていた。沼の底にゾンビを忍ばせていたようだ。
「どうやら、シャルリス・ネクティリアは連れていないようですね」
と、マシュは肉の翼を生やすと、避難民のほうへと飛んで行った。
「待ちやがれッ」
どうやらシャルリスを狙っているらしい。いや。シャルリスの中にいる、【腐肉の暴食】が狙いだろう。
以前もマシュは、バトリを目覚めさせようと接触をはかってきたことがある。
人類を滅亡させるのが、マシュの目的だとするなら、そのキーマンとなるのが【腐肉の暴食】なのだろう。
シャルリスと接触させるわけにはいかない。
それ以前に。
マシュをこれ以上、竜騎士や避難民たちのいる場所に近づけるわけにはいかない。ヤツの目は危険だ。
竜化を1度解いて、足をつかんでいるゾンビたちを振りほどいた。もう1度素早く竜化して、マシュを追いかけた。
肉の翼で空を飛んでいるマシュに、すぐに追い付くことができた。
「まだ私の邪魔をしますかッ」
「てめェのほうこそ、諦めが悪いんだよ。2300年も人間を恨みやがって」
「2300年かけて待ったのです。今この時代こそが、最大の好機!」
マシュは肉の翼で飛んでいる。そのエメラルドグリーンの瞳で、人間を見るとゾンビ化してしまう。
ロンは翼を広げて、その視界を妨げることにした。
「今この時代こそが好機とは、そりゃいったいどういう意味だ」
「気づかないほうが幸せでしょう。無知のまま死んでください」
マシュのカラダから、腕が伸びてくる。伸縮自在の腕による攻撃は、【腐肉の暴食】と同じらしい。
どうやらロンの広げている翼を狙っているらしかった。
たしかに竜化しているロンにとって、その両翼の薄幕こそがもっと弱い部分だ。が、そう簡単に攻撃させはしない。
「バトリに比べりゃ、動きが遅いぜ!」
火を吹く。
マシュは伸ばしていた腕を、防御に回したようだ。4本の腕が燃やし尽くされた。
その間隙にロンはみずからの尻尾で、マシュのカラダを巻き取った。
「恨みを抱いて召されな。弔いの火だ」
自分の尻尾ごと、炎を吹きかけた。
マシュのカラダが燃えカスになって散って行く。
やったか?
いや。背後から殺気。マシュに背後を取られていた。
「私を、そこいらのゾンビといっしょにしないことです」
「ちッ」
このままではそのエメラルドグリーンの瞳を、避難民のほうへと向けてしまうことになる。危惧した。が、マシュは避難民ではなくて、ロンのほうを狙ってきたようだ。
カラダから腕を生やしてロンのカラダを殴りつけてきた。
ロンのカラダは鎧よりも堅固なウロコで守られている。
「さては消耗してやがるな。その目の感染能力も、そう何度もつかえねェみたいだな」
「だからなんだと言うのですか」
「避難民のほうに被害が出ないなら、こちらも気が楽になるってもんだ」
竜化を解いて、マシュのカラダにつかみかかった。抱き寄せるようなカッコウになる。
いちおう少女のカラダをしているだけあって、肉体の丸みは女性のそれだった。
「な、なにをするのですか」
「もういいだろう。お前を殺してやれるのは、オレだけだ」
ロンは自身のカラダごと、マシュのことを燃え上がらせた。ふたたびマシュのカラダが燃え上がる。
今度こそは、仕留めたはずだ。
そう思った。
が――。
何か輝くものが、地上に落下してくるのが見えた。エメラルドグリーンの輝き。目玉だ。その目玉から小さな腕が生えてきて、ロンに向かって手を振っていた。
やられた!
あの目玉こそがマシュの核なのだ。このまま目玉が落下していくさきは、大量の避難民の真っただ中だ。
(マズイ)
このままだと避難民に感染爆発を起こすことになってしまう。
「そいつが核だぜ!」
声がした。
赤いドラゴンに騎乗したアジサイが飛翔してきていた。
アジサイはその手に持っていた、巨大な裁縫針を投げ飛ばした。落下していくマシュの目玉を、見事に射抜いた。裁縫針には糸が結ばれており、アジサイの手元に戻っていった。
「無事だったか。アジサイ」
「当たり前だろ。オレさまがこんなことでくたばってたまるかよ」
「大グチを叩くわりには、重傷みたいじゃないか」
「この程度の傷、どうにでもなるさ」
と、アジサイはなくなった左手を振ってみせた。
「助かった。まさか目玉が核だったとは思わなかった」
「あのままだと、避難民たちがゾンビになっちまってたぜ。捕獲のほうがよかったのかもしれんが、まぁ、仕方ないだろ。オレさまに感謝するんだな」
アジサイの針には、エメラルド・グリーンの目玉が突き刺さっていた。
「良いところを、持って行きやがって」
伝令が飛んできた。
先頭の避難民が、帝都竜ヘルシングに到着したということだった。
「まぁ、好きに呼んでくれ」
大量のゾンビが押し寄せて来ている。獄炎を吐き散らして、燃やし尽くした。
燃やし損ねたゾンビを尻尾で叩き潰す。多少の取りこぼしは、竜騎士たちが押さえてくれるはずだ。
息絶えて倒れ伏した都市竜クルスニクの頭部には、マシュが立っていた。
ロンを見下ろしている。
髪はかきあげられて、目が露出していた。
まるで鉱石のように輝く、エメラルドグリーンの双眸だった。
「なるほど。史上最強の個体と呼ばれるわけですね。ほかの覚者と比べても、ロンは段違いに強い」
ハマメリスからの連絡で、だいたいの情報は得ている。
マシュはどうやら視界にとらえた対象をゾンビ化させる能力があるらしい。
ロンは大丈夫だが、シャルリスを連れてくることに不安があった。そのため、残してきた。【腐肉の暴食】の抑制はできているはずだ。残して来ても問題はないだろう――と、判断した。
「そっちこそ、たいしたもんだぜ。覚者を2人も追い返しちまうとはな」
ミツマタは体力切れ、アジサイは生きてはいるが左手を失う重傷だと聞いている。
「ゾンビの真骨頂は、数の暴力ですから。しかし2人とも、ゾンビ化までには及びませんでした。あともう少しだったのですが」
「目的はなんだ?」
「簡単なことです。この避難民をゾンビ化させることが、私の目的です」
「そんなチッポケな話をしてるんじゃねェよ。てめェの生きてる意味を聞いてるんだ。なにゆえ人をゾンビ化させる意味がある? やはり、性欲か」
ゾンビは性欲によって、生きた人間を襲うと聞いたことがある。
「たしかに性欲もありますね。私の体内に流れる《不死の魔力》は、さらなる宿主を求めている」
しかし――とマシュはつづける。
「私はそれほど、知性なきゾンビではありません」
「なら、人を襲う理由はなんだ?」
ミツマタとアジサイを退けたのは、凄まじい執念だ。何か強い意思がなければ、あの2人を退けることなど出来はしない。
ロンはそう確信していた。
「憎悪ですよ」
「食用人間として造られた恨みか」
「ええ」
「ずいぶんと前の話だろ」
「忘れもしない。2300年前のことです。ドラゴンの餌になるために、私は食用人間に造りかえられた」
「えらく昔の話だな」
「何年経とうとも、その恨みは忘れない。ひとつ人間たちは、大きな勘違いをしていることがあります」
「御傾聴しようじゃないか」
「この世界の主役が人間だと勘違いしていることです」
「はぁ?」
「このロト・ワールドという世界の主役は、我ら食用人間なのです。これは我ら食用人間が、人類に復讐するための物語なのです。虐げられた弱者が、傲慢な人間に報復するための!」
マシュは語気を荒らげてそう言った。
「2300年も生きたンならもう良いだろ。オレがトドメをさしてやるから、こっちに来いよ」
「人類を滅ぼすまでは、死ぬわけにはいかない」
瞬間。
ロンのカラダが、沼の底に引きずり込まれた。
「なにッ」
ドラゴンに化けているロンの足に、ゾンビたちがからみついていた。沼の底にゾンビを忍ばせていたようだ。
「どうやら、シャルリス・ネクティリアは連れていないようですね」
と、マシュは肉の翼を生やすと、避難民のほうへと飛んで行った。
「待ちやがれッ」
どうやらシャルリスを狙っているらしい。いや。シャルリスの中にいる、【腐肉の暴食】が狙いだろう。
以前もマシュは、バトリを目覚めさせようと接触をはかってきたことがある。
人類を滅亡させるのが、マシュの目的だとするなら、そのキーマンとなるのが【腐肉の暴食】なのだろう。
シャルリスと接触させるわけにはいかない。
それ以前に。
マシュをこれ以上、竜騎士や避難民たちのいる場所に近づけるわけにはいかない。ヤツの目は危険だ。
竜化を1度解いて、足をつかんでいるゾンビたちを振りほどいた。もう1度素早く竜化して、マシュを追いかけた。
肉の翼で空を飛んでいるマシュに、すぐに追い付くことができた。
「まだ私の邪魔をしますかッ」
「てめェのほうこそ、諦めが悪いんだよ。2300年も人間を恨みやがって」
「2300年かけて待ったのです。今この時代こそが、最大の好機!」
マシュは肉の翼で飛んでいる。そのエメラルドグリーンの瞳で、人間を見るとゾンビ化してしまう。
ロンは翼を広げて、その視界を妨げることにした。
「今この時代こそが好機とは、そりゃいったいどういう意味だ」
「気づかないほうが幸せでしょう。無知のまま死んでください」
マシュのカラダから、腕が伸びてくる。伸縮自在の腕による攻撃は、【腐肉の暴食】と同じらしい。
どうやらロンの広げている翼を狙っているらしかった。
たしかに竜化しているロンにとって、その両翼の薄幕こそがもっと弱い部分だ。が、そう簡単に攻撃させはしない。
「バトリに比べりゃ、動きが遅いぜ!」
火を吹く。
マシュは伸ばしていた腕を、防御に回したようだ。4本の腕が燃やし尽くされた。
その間隙にロンはみずからの尻尾で、マシュのカラダを巻き取った。
「恨みを抱いて召されな。弔いの火だ」
自分の尻尾ごと、炎を吹きかけた。
マシュのカラダが燃えカスになって散って行く。
やったか?
いや。背後から殺気。マシュに背後を取られていた。
「私を、そこいらのゾンビといっしょにしないことです」
「ちッ」
このままではそのエメラルドグリーンの瞳を、避難民のほうへと向けてしまうことになる。危惧した。が、マシュは避難民ではなくて、ロンのほうを狙ってきたようだ。
カラダから腕を生やしてロンのカラダを殴りつけてきた。
ロンのカラダは鎧よりも堅固なウロコで守られている。
「さては消耗してやがるな。その目の感染能力も、そう何度もつかえねェみたいだな」
「だからなんだと言うのですか」
「避難民のほうに被害が出ないなら、こちらも気が楽になるってもんだ」
竜化を解いて、マシュのカラダにつかみかかった。抱き寄せるようなカッコウになる。
いちおう少女のカラダをしているだけあって、肉体の丸みは女性のそれだった。
「な、なにをするのですか」
「もういいだろう。お前を殺してやれるのは、オレだけだ」
ロンは自身のカラダごと、マシュのことを燃え上がらせた。ふたたびマシュのカラダが燃え上がる。
今度こそは、仕留めたはずだ。
そう思った。
が――。
何か輝くものが、地上に落下してくるのが見えた。エメラルドグリーンの輝き。目玉だ。その目玉から小さな腕が生えてきて、ロンに向かって手を振っていた。
やられた!
あの目玉こそがマシュの核なのだ。このまま目玉が落下していくさきは、大量の避難民の真っただ中だ。
(マズイ)
このままだと避難民に感染爆発を起こすことになってしまう。
「そいつが核だぜ!」
声がした。
赤いドラゴンに騎乗したアジサイが飛翔してきていた。
アジサイはその手に持っていた、巨大な裁縫針を投げ飛ばした。落下していくマシュの目玉を、見事に射抜いた。裁縫針には糸が結ばれており、アジサイの手元に戻っていった。
「無事だったか。アジサイ」
「当たり前だろ。オレさまがこんなことでくたばってたまるかよ」
「大グチを叩くわりには、重傷みたいじゃないか」
「この程度の傷、どうにでもなるさ」
と、アジサイはなくなった左手を振ってみせた。
「助かった。まさか目玉が核だったとは思わなかった」
「あのままだと、避難民たちがゾンビになっちまってたぜ。捕獲のほうがよかったのかもしれんが、まぁ、仕方ないだろ。オレさまに感謝するんだな」
アジサイの針には、エメラルド・グリーンの目玉が突き刺さっていた。
「良いところを、持って行きやがって」
伝令が飛んできた。
先頭の避難民が、帝都竜ヘルシングに到着したということだった。
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