《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

――第1章 エピローグ――――

「シャルリスのなかに【腐肉の暴食】がいる。その事実は、クチにしないという決まりにするそうですよ。箝口令ってヤツです。知っているのはお偉いさんがたと、直接目撃した一部の竜騎士だけということになります」
 と、ロンは覚者長ノウゼンハレンに伝えた。


 卵黄学園の裏手。
 空へと伸びる桟橋。そこにノウゼンハレンは立っていた。


 伝達者ハマメリスが付いている。ハマメリスは今日も白い法衣を頭からすっぽりとかぶって、顔を隠しているようだった。


 人前に姿を見せるのが厭なのだろうか。よほどのブスか美人のどちらだろうか……なんて下卑たことをかんがえた。


「まぁ、悪くない結果だったと思うぜ」
 と、ノウゼンハレンが言う。


 ノウゼンハレンは大柄な女性だ――と思う。性別がハッキリしないのだ。細身だが、服を脱げばそうとうな筋肉質だとうかがえる。肩幅はガッチリしているし、ドッシリとした重みを感じる。服を脱いでも貧弱な体型をしているロンとはわけが違う。


 黒い髪をしているが、蓬々たる乱髪はまるで獣のようだ。目には野性味があり、目じりには赤い戦化粧がほどこされている。


 男だとすれば相当な美形だ。女だとすればあまりに野性味を帯びている。エレノアのような研ぎ澄まされた凄みとはまた違う。もっと暴力的な雰囲気があった。


 これが――覚者長であり、ロンの育ての親だった。


 育てられたロンにすら、その性別を判じかねているのだから、きっと他の誰にもわからないはずだ。


「マシュ・ルーマンの身柄は?」


「すでに都市クルスニクに引き渡してある。どうやら、【腐肉の暴食】と同質のものらしい。つまり、ドラゴンの餌として作られた個体だな。食用人間とか言っていたか。始祖とも言われている個体だ」


「そうでしたか」


「シャルリス・ネクティリアのほうは任せたぜ。あれはもしかするとゾンビ化を治癒する能力があるかもしれんのだ」


 たしかに人間をゾンビ化する《不死の魔力》を、操れるというようなことをバトリは言っていた。実際、シャルリスはゾンビ化を防いでいる。

「シャルリスは覚者になりたいと言っていました。都市に置いておくよりも、覚者たちに同行させたほうが良くないですか? 本人もそのほうが喜ぶと思います。都市の連中もシャルリスに怯えている者がいるようですし」


「それはあの娘が【腐肉の暴食】のチカラを操れるようになったら――だ。独りで戦うチカラのない者を地上に連れて行くわけにはいかん。即死する。あの娘の採血や研究なども地上では行えないからな」


「そうですか……」


 地上は危険だ。
 ロンも守り切れる自信はない。


「まぁ、あの小娘が【腐肉の暴食】を完璧に制御できるようになれば、覚者として迎え入れることもやぶさかではない。まぁ、それよりもゾンビ化を治癒する能力に期待したいがな」


「オレはこのまま、シャルリスの監視を続投ということで良いですね?」


「そうしてくれ。あの娘に怯える者。利用とする者。害をなそうとする者。いろいろと出てくるはずだからな。シャルリスに関して最低限の研究は進めてもらいたいが、拷問まがいのことをするようなクズ野郎も出てくるかもしれん。守ってやれ」


「はい」


「お前にとっても、ここの生活は良い経験になっているはずだ」
 と、ノウゼンハレンは、ロンの胸元を人差し指で突いてきた。


「オレ――ですか」


 急にシャルリスのことから、ロンに話題が転がったので、虚を突かれた。


「お前を戦闘狂として育ててきて、私は後悔することもあったからな。お前はここで人と触れあって、何か学べることもあるだろう。すくなくとも腐った肉野郎どもより、生きてる肉野郎のほうといるほうが良いだろう」


「もうオレはオッサンですよ。子供あつかいしないでくださいよ」


「私からすれば、お前はいつまでたってもガキだ」
 と、ノウゼンハレンはニカッと笑った。


「ッたく」


 しかし言い返すことは出来なかった。たしかにここでの生活は、ロンにとっては新鮮だった。
 学園での生活も、ロンにとっては経験したことのないことだった。


「私はもう行く」
 と、ノウゼンハレンは背中を向けた。


「どうか御無事で」


「誰に言ってやがる」


 ノウゼンハレンは桟橋から跳び下りた。
 ハマメリスがそれに続く。


 フードの下を覗きこんでやろうとしたのだが、ハマメリスの顔を確認することは出来なかった。


 ロンは校庭のほうに戻ることにした。


 これから試験に合格した竜騎士たちに、表彰式が行われるはずだった。


 校庭に戻る途中――。
 エレノアとルエドの2人を見つけた。ルエドがエレノアに向かって土下座をしていた。


「お願いします。オレにもう一度チャンスをください!」
 と、ルエドが頭を地面にこすりつけている。


「やかましい。自分についている生徒が、ゾンビだったことも見抜けんなんて、そんなヤツは必要ない。さっさと去れ」


 そう言えばマシュ・ルーマンはルエドの生徒だったな、と思い出した。


「しかしっ……」


「しかしも、ヘッタクレもあるか。貴様は私の妹も見捨てたと聞いている。自分の生徒すら守れんようなヤツが、先生を名乗る資格があるか」


「弱いなら切り捨てても構わない。そうおっしゃっていたはずです!」


「その通りだ。そして貴様も弱者だ。だから切り捨てられる。さっさと消えろ!」
 と、エレノアがルエドの頭を蹴り飛ばしていた。
 強烈である。
 ロンは思わず目をそむけた。


 ロンのことに気づいたようで、エレノアがあわてて駆けてきた。ロンの前で直立不動の姿勢になっていた。


「申し訳ありません。御見苦しいところを」


「いえ。ルエドにはオレも思うところがあるので」


「まさか、半竜者さまに、あの男がなにか失礼なことをしましたか!」
 と、エレノアの全身から殺気があふれ出していた。


 ルエドにはいろいろと思うところがあるのだが、これ以上、エレノアを刺激するとルエドを殺しかねない勢いだった。


「いえ。あまり気にしないでください。ルエドをクビにするのですか?」


「はい。自分の生徒がゾンビだとも気づけないような無能は、この学園には不要です。ほかにも問題行動がありましたので」


 それはエレノア自身にも言えることだと思うのだが、エレノアは学園長として、生徒たちとは直接接していないので、仕方がないと言えば仕方がない。


 ルエドは地面に頭をつけたまま固まっていた。


「そうですか。話は変わりますが、オレにたいしては今までとおりの態度でいてくれて大丈夫なので」


 素性を隠していたロンのほうに問題があるのだが、今までエレノアはロンにたいして、粗雑に接していた。エレノアのほうも心当たりがあるのか、その白い頬を赤らめていた。


「いえ。しかし、そういうわけにはいきません。覚者である半竜者さまに、この都市は2度も救われています」


「これからオレは、シャルリスとチェイテとアリエルの隊をあずかる小隊長になります。いちおうエレノア竜騎士長の部下ということになります。オレに気遣っていると、指揮系統が乱れてしまいます」


「それは――そうかもしれませんが」


「これから表彰式でしょう。生徒たちが待っています」


 エレノアはすこし逡巡していたようだが、
「そうだな」
 と、意を決したようにうなずいた。


 頭を下げたままのルエドを放置して、ロンとエレノアは校庭に向かった。


 校庭では今回の試験に合格した生徒たちが整列していた。
 そのなかにはシャルリス、チェイテ、アリエルの3人もいる。


 ロンはその3人の先頭に立った。


 ずっと竜騎士になりたいと夢見ていたシャルリス。虚像に悩まされて努力しているチェイテ。姉のエレノアに追いつこうとするアリエル。


 その3人の見習いたちは今日、正式に竜騎士となった。

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