《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

7-6.観覧席

 エレノア・キャスティアンは観覧席から、地上を見下ろしていた。
 観覧先と言っても、すべてを見通せるわけではない。今回は水汲みのために、生徒たちは森に入ったようだから、特に視界が悪い。


 観覧席は石造り円筒の塔になっている。その屋上部分に20人の貴族が集まっていた。各々がイスに腰掛けて、双眼鏡を手にしていた。


 この都市竜クルスニクの上に住む名だたる貴族たちだ。公爵家から伯爵家の者もいる。そのなかにはノスフィルト家の者もいる。


「ふむ。今回は森が邪魔をして、特に視界が悪いのぉ」
 と、公爵のひとりが言った。


 瘴気もあいまって余計に見えない。地上付近には常に瘴気が蔓延している。このあたりは特に瘴気が濃いようにも見えた。


 胸騒ぎをおぼえる。


「実際の戦いを見ることが出来なくとも、結果はハッキリとわかりますので、ご了承ください」
 と、エレノアは言った。


 城塔の中央には、巨大な水晶玉が置かれていた。半透明の球体。貯水タンクになっている。ここにより多くの水を運びこんだ者こそが、優秀な竜騎士としてみなされる。


 実際に戦えるか否かよりも、生き残れるかどうかが問題だ。不死身のバケモノを相手にマトモにやり合っていては命が持たない。


 トツゼンだった。


 森のなかで砂煙が吹きあがった。魔法による戦闘だろうか? しかしそれにしては、砂煙が大きい。


 目を凝らして見つめた。


 風が吹く。
 緞帳が開けるようにして、砂煙が去ってゆく。


 そこに現れたふたつの巨影。1つは脂肪のカタマリだった。【腐肉の暴食】だ。そしてそれと対峙するようにして、漆黒のドラゴンが立っている。


 その光景の意味を理解するのに、すこしだけ時間を要した。


 貴族たちが騒ぎはじめた。
「まさか、【腐肉の暴食】がどうして、こんなところに……」「逃げなくては」「しかし都市竜は羽休めをはじめたところだ。次に飛びあがるまで、まだすこし時間がかかるぞッ」


 コホン……とエレノアは咳払いをした。
 貴族たちがいっせいに、エレノアに目を向けた。


「どうやら悠長に、見習いたちの帰りを待っているわけにもいかないようです。みなさんは城のほうへ避難してください」


 都市竜観測隊が出した予測によると、都市竜が飛び立つまでは、まだ少し時間がかかる。


 それまでこの都市竜に【腐肉の暴食】を寄せ付けないことが肝要だ。そしてあわよくば、あの漆黒のドラゴンを捕獲したいとも思った。


「伝令――ッ」
 と、伝令官がドラゴンに乗って駆けつけてきた。


「わかっている。【腐肉の暴食】の出現だな」


「いえ。それだけではありません。都市竜後方からゾンビたちが大量に這い上がってきますッ。このままでは都市内部に入り込まれますッ!」


「なにッ」


「すでに、異変に気付いた小隊から迎撃に当たっていますが、数が尋常ではありませんッ」


「バカなッ。見張りはなにをしていた!」


「それがゾンビは地中から現れて、報告に遅れたと――。気づいたときにはすでに、後ろ足に取りつかれていたようです」


「おのれェ。仙骨上部地区に、現場に当たっていない全竜騎士を招集せよ。全部隊、竜具装備を怠らないように伝えろ」


「はッ。すでに外に出ている見習いたちは、いかがいたしますか?」


「帰ってきたものから順に事情を伝えろ。出ている者全員に状況を伝えている余裕はない」


「了解です」


 振り向く。
 漆黒のドラゴン――覚者ヘリコニアが、【腐肉の暴食】と戦っている情景が見えた。あのバケモノはヘリコニアにとどめてもらうしかない。


「ともに戦えないのは残念だ。そちらの死守はまかせたぞ」
 聞こえないことは承知だが、そう呟いた。


 自分があの漆黒のドラゴンにまたがって空を駆ける姿を夢想した。
 その興奮を胸に、エレノアは仙骨上部地区へと急ぐことにした。

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