《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
7-2.接敵
「よーしよし、良い感じっスよ」
森。
木々に囲まれたなかに、湖があった。
まだ他の見習いはいない。
イチバン乗りだ。
湖畔にドラゴンを着地させた。真っ赤なウロコのドラゴンだ。ロンに手伝ってもらって、どうにか乗りこなすことが出来るようになった。
「シャルリスも、騎竜術がずいぶんと上手くなった」
と、チェイテが言う。
声がくぐもって聞こえる。
瘴気をふせぐためのマスクをしているからだ。ただの布に見えても、竜具の一種だ。ドラゴンのウロコから作られているもので、瘴気が肺に入るのを防いでくれる。
「ロン先生のおかげっスよ。ロン先生は竜語でドラゴンに言い聞かせてくれたっスから」
「たしかにロン先生はすごい。騎竜術も魔力も、もしかするとエレノア竜騎士長以上の腕前を持っているかもしれない」
「ロン先生って、そんなすごいンっスか? あの人が本気で戦ってるところ、ボクはまだ見たことないンっスよね」
「見てないのですかっ。補欠隊の生徒なのに」
と、アリエルが驚いたように言う。
「ロン先生が来たのは、つい最近っスから」
「あの人はふつうじゃないですよ。私も見ましたもん。ゾンビを燃やしてしまうんですよ。燃えカスですよ。だから私も、ロン先生の隊に入ろうって決めたんです。それに、カッコウ良いですし」 と、アリエルは頬を赤らめた。
それを見てシャルリスは胸の奥でチリッと火花が散るような感触をおぼえた。
「うん。たしかにカッコウ良い。黒い髪の人なんて、けっこう珍しいし、それに匂いも好き」
と、チェイテがうなずく。
「に、匂いっスか?」
「そう。あの人からは、炎の香りがする」
そんな匂いがしただろうか……と思い返そうとしてみたけれど、そこまで良く覚えていない。
チェイテやアリエルに先を行かれているような気がして、落ち着かなかった。
「言っておくけど、ロン先生はボクの先生なんっスからね。補欠の先生なんっスから」
「無駄話をしてる場合じゃない。さっさと水を汲んで都市に戻る必要がある」
「わかってるっスよ」
チェイテは、ノスフィルト家の令嬢ということで、強大な竜騎士として周囲からは認識されている。
それは虚像らしい。ホントウはたいして強くないのだそうだ。
だから、チェイテもロンのもとについた、と聞いている。
シャルリスもその事情を聞いた。たしかに周囲が思っているほどにチェイテは強くないのかもしれない。それでも、シャルリスよりかは強い……と思う。
湖。バケツを鎮めた。
手に、冷たい水の感触があった。
水は魔法でも出すことが出来るけれど、それはノドの渇きを潤すチカラはない。
「水とかは、瘴気に汚染されたりしないンっスかね」
「それは大丈夫。この瘴気は、人間をゾンビ化させるのと、植物の育ちが悪くなる、ということしかわかっていない」
と、チェイテが淡々と言う。
「不思議っスね」
「そういった原因の解明は、まだまだ判明していないことが多い。地上の調査は覚者たちがやってる」
「ボクもいずれは覚者になりたいンっスよねぇ」
「それはムリ」
言下に否定されて、すこし傷ついた。
「そ、そんな即答しなくても良いじゃないっスか。竜騎士になって華々しい活躍をすれば、覚者になれるかもしれないじゃないっスか」
でも、とアリエルが話をつなぐ。
「覚者って、ゾンビと戦える特別な能力者たちの集まりなんですよね? ふつうの竜騎士には難しいんじゃないですか?」
「そうかもしれないっスけど……」
地上に残されている両親を探し出したいのだ。そのためには都市を守る竜騎士ではダメなのだ。
「しっ」
と、チェイテが小さく鋭い声を発した。
「どうしたっスか?」
「後ろ」
チェイテが指さす。
低木の茂みの向こう。ゾンビと思われる人影。2匹。
強い個体の場合は、巨大種、融合種、変異種であったりする。ふつうの人の形をしているものは、たいして強くはない。
しかしそれでも、噛まれれば感染してしまうことに変わりはない。
核を傷つけなければ仕留められない。
「どうするっスか?」
と、小声で尋ねた。
2匹のゾンビはまだ、シャルリスたちに気づいてはいないようだ。行く当てもない足取りで、あたりを徘徊している。
こちらに気づくのは時間の問題だろう。
「私が魔法で惹きつける。私たちのチカラでは、まだゾンビを倒すことは出来ない。だから定石通りにドラゴンに食わせる」
「わかったっス。じゃあボクとアリエルがドラゴンを誘導するっスよ」
「うん」
シャルリスは息をひそめて、ドラゴンのいる場所に戻った。3匹のドラゴン。勝手に逃げ出さないように轡から伸びている鎖を、巨木に結んでいた。
鎖をほどくと、ドラゴンが軽くうなった。身を震わせて、尻尾を左右に揺すっていた。繋がれていたのが不服だったのだろうか。
とたんに不安になる。
(大丈夫。ここまで乗って来れたんだから)
ロンに手取り足取り、騎竜術を教わったのだ。チャント操れるはずだ。アブミに足をかける。鞍にまたがる。そしてドラゴンのウロコを思いきり蹴りつけた。
ウロコは硬い。乱暴ではあるが、前進の指示を送るためには、こうして蹴りつけるのが良いらしい。
それを受けたドラゴンが足を進める。あとは手綱さばきが問題になってくる。
「火球」
と、チェイテが火の球を射出した。
それを受けたゾンビたちが、茂みから跳び出す。
そこにドラゴンを向かわせる。
が――。
「グラァァァッ」
と、シャルリスのドラゴンがサオダチになった。あ、と思ったときには、落竜していた。
湖のなかにシャルリスのカラダが落っこちる。幸いにも水深はたいしたことがない。が、ゾンビがチェイテに向かって疾駆している。
チェイテが火球で迎撃しているが、肉片が飛び散るぐらいだ。ゾンビの猛進を緩めるには至らない。
「チェイテ!」
このままでは、チェイテが食われてしまう。自分が上手くドラゴンを操れなかったばかりに……。
瞬間。
「ぐらぁぁぁッ」
と、黄金色のドラゴンが、チェイテとゾンビのあいだに割り込んだ。
アリエルのドラゴンだ。
1匹をかみ砕いて、もう1匹を尻尾で地面に叩きつけた。血と肉が飛散した。かみ砕いたほうが幸いにも核にダメージを通すことが出来たようだ。再生はしなかった。
もう1方、尻尾で叩きつけられたゾンビは、肉を再生していた。すかさずアリエルのドラゴンが、そのゾンビにも食いついた。
2匹のゾンビを沈黙させることが出来たようだった。
森。
木々に囲まれたなかに、湖があった。
まだ他の見習いはいない。
イチバン乗りだ。
湖畔にドラゴンを着地させた。真っ赤なウロコのドラゴンだ。ロンに手伝ってもらって、どうにか乗りこなすことが出来るようになった。
「シャルリスも、騎竜術がずいぶんと上手くなった」
と、チェイテが言う。
声がくぐもって聞こえる。
瘴気をふせぐためのマスクをしているからだ。ただの布に見えても、竜具の一種だ。ドラゴンのウロコから作られているもので、瘴気が肺に入るのを防いでくれる。
「ロン先生のおかげっスよ。ロン先生は竜語でドラゴンに言い聞かせてくれたっスから」
「たしかにロン先生はすごい。騎竜術も魔力も、もしかするとエレノア竜騎士長以上の腕前を持っているかもしれない」
「ロン先生って、そんなすごいンっスか? あの人が本気で戦ってるところ、ボクはまだ見たことないンっスよね」
「見てないのですかっ。補欠隊の生徒なのに」
と、アリエルが驚いたように言う。
「ロン先生が来たのは、つい最近っスから」
「あの人はふつうじゃないですよ。私も見ましたもん。ゾンビを燃やしてしまうんですよ。燃えカスですよ。だから私も、ロン先生の隊に入ろうって決めたんです。それに、カッコウ良いですし」 と、アリエルは頬を赤らめた。
それを見てシャルリスは胸の奥でチリッと火花が散るような感触をおぼえた。
「うん。たしかにカッコウ良い。黒い髪の人なんて、けっこう珍しいし、それに匂いも好き」
と、チェイテがうなずく。
「に、匂いっスか?」
「そう。あの人からは、炎の香りがする」
そんな匂いがしただろうか……と思い返そうとしてみたけれど、そこまで良く覚えていない。
チェイテやアリエルに先を行かれているような気がして、落ち着かなかった。
「言っておくけど、ロン先生はボクの先生なんっスからね。補欠の先生なんっスから」
「無駄話をしてる場合じゃない。さっさと水を汲んで都市に戻る必要がある」
「わかってるっスよ」
チェイテは、ノスフィルト家の令嬢ということで、強大な竜騎士として周囲からは認識されている。
それは虚像らしい。ホントウはたいして強くないのだそうだ。
だから、チェイテもロンのもとについた、と聞いている。
シャルリスもその事情を聞いた。たしかに周囲が思っているほどにチェイテは強くないのかもしれない。それでも、シャルリスよりかは強い……と思う。
湖。バケツを鎮めた。
手に、冷たい水の感触があった。
水は魔法でも出すことが出来るけれど、それはノドの渇きを潤すチカラはない。
「水とかは、瘴気に汚染されたりしないンっスかね」
「それは大丈夫。この瘴気は、人間をゾンビ化させるのと、植物の育ちが悪くなる、ということしかわかっていない」
と、チェイテが淡々と言う。
「不思議っスね」
「そういった原因の解明は、まだまだ判明していないことが多い。地上の調査は覚者たちがやってる」
「ボクもいずれは覚者になりたいンっスよねぇ」
「それはムリ」
言下に否定されて、すこし傷ついた。
「そ、そんな即答しなくても良いじゃないっスか。竜騎士になって華々しい活躍をすれば、覚者になれるかもしれないじゃないっスか」
でも、とアリエルが話をつなぐ。
「覚者って、ゾンビと戦える特別な能力者たちの集まりなんですよね? ふつうの竜騎士には難しいんじゃないですか?」
「そうかもしれないっスけど……」
地上に残されている両親を探し出したいのだ。そのためには都市を守る竜騎士ではダメなのだ。
「しっ」
と、チェイテが小さく鋭い声を発した。
「どうしたっスか?」
「後ろ」
チェイテが指さす。
低木の茂みの向こう。ゾンビと思われる人影。2匹。
強い個体の場合は、巨大種、融合種、変異種であったりする。ふつうの人の形をしているものは、たいして強くはない。
しかしそれでも、噛まれれば感染してしまうことに変わりはない。
核を傷つけなければ仕留められない。
「どうするっスか?」
と、小声で尋ねた。
2匹のゾンビはまだ、シャルリスたちに気づいてはいないようだ。行く当てもない足取りで、あたりを徘徊している。
こちらに気づくのは時間の問題だろう。
「私が魔法で惹きつける。私たちのチカラでは、まだゾンビを倒すことは出来ない。だから定石通りにドラゴンに食わせる」
「わかったっス。じゃあボクとアリエルがドラゴンを誘導するっスよ」
「うん」
シャルリスは息をひそめて、ドラゴンのいる場所に戻った。3匹のドラゴン。勝手に逃げ出さないように轡から伸びている鎖を、巨木に結んでいた。
鎖をほどくと、ドラゴンが軽くうなった。身を震わせて、尻尾を左右に揺すっていた。繋がれていたのが不服だったのだろうか。
とたんに不安になる。
(大丈夫。ここまで乗って来れたんだから)
ロンに手取り足取り、騎竜術を教わったのだ。チャント操れるはずだ。アブミに足をかける。鞍にまたがる。そしてドラゴンのウロコを思いきり蹴りつけた。
ウロコは硬い。乱暴ではあるが、前進の指示を送るためには、こうして蹴りつけるのが良いらしい。
それを受けたドラゴンが足を進める。あとは手綱さばきが問題になってくる。
「火球」
と、チェイテが火の球を射出した。
それを受けたゾンビたちが、茂みから跳び出す。
そこにドラゴンを向かわせる。
が――。
「グラァァァッ」
と、シャルリスのドラゴンがサオダチになった。あ、と思ったときには、落竜していた。
湖のなかにシャルリスのカラダが落っこちる。幸いにも水深はたいしたことがない。が、ゾンビがチェイテに向かって疾駆している。
チェイテが火球で迎撃しているが、肉片が飛び散るぐらいだ。ゾンビの猛進を緩めるには至らない。
「チェイテ!」
このままでは、チェイテが食われてしまう。自分が上手くドラゴンを操れなかったばかりに……。
瞬間。
「ぐらぁぁぁッ」
と、黄金色のドラゴンが、チェイテとゾンビのあいだに割り込んだ。
アリエルのドラゴンだ。
1匹をかみ砕いて、もう1匹を尻尾で地面に叩きつけた。血と肉が飛散した。かみ砕いたほうが幸いにも核にダメージを通すことが出来たようだ。再生はしなかった。
もう1方、尻尾で叩きつけられたゾンビは、肉を再生していた。すかさずアリエルのドラゴンが、そのゾンビにも食いついた。
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