《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

5-1.2日目の朝

 目を覚ます。
 見慣れぬ石造りの天井。


 ロンはベッドで仰向けになって眠っていた。
 顔を右に傾ける。
 すこし間があって右隣には、同じくベッドが並んでいる。
 ロンのものと同じく木造のベッドだ。シャルリスが眠っていた。


(メチャクチャしやがる)
 と、胸裏で毒づいた。


 覚者が手を回した結果として、シャルリスはロンと同じ、教員寮の部屋で寝ることになったのだ。


 ロンはべつに構わないが、年頃の少女と男が同じ部屋で寝るというのは、寮とはいえ、いかがなものかと思う。


 しかしまぁ……


「すぅすぅ」
 と、シャルリスは胎児のように身を丸めて眠っていた。
 思いのほか無頓着に眠っているようだ。


 ベッドから抜け出る。カーテンを開ける。朝日がさしこんでくる。


「うぅっ」
 と、シャルリスは眩しそうに顔を背けた。


「もう朝だぜ」


「まだ眠いって、お父さん」


「お……っ」
 絶句。


 さすがにシャルリスの父親というほどの歳は経ていない。
 冗談で言ったのかと思った。
 寝惚けていたようだ。
 シャルリスは「すぅすぅ」とふたたび寝息を立てていた。
 長く黒々としたマツゲが寝息とともに揺れていた。


(お父さんか)


 シャルリスの両親は、鉱山部隊をやっていたと聞いている。
 そして地上に取り残されたのだ。
 その両親を探すために竜騎士となって、最終的には覚者になりたいと言っていた。
 それがシャルリスの生きる目的なのだろう。


(オレには、そういうのはないな)
 と、思った。


 物心ついたときから、覚者として地上で暮らしていた。
 ゾンビとの戦いに明け暮れていた。


 生きる理由もなければ、何かを成し遂げたいという目的もとくにありはしない。


(主役にはなれねェな)
 と、自嘲した。


 物語の主役は必ず、何か生きる理由や目的を持っているものだ。
 強いてあげるとすれば、目下の目的としては、シャルリスの観察だ。
 しかしそれにしても、与えられた目的に過ぎない。


「あ、先生。おはよーっす」
 と、ようやくシャルリスは目を覚ましたようだ。
 まだ眠気を帯びた声でそう言った。


「昨日は眠れたか?」


「まぁまぁっスよ。だけど、どうしてボクだけ先生といっしょに寝なくちゃならないんっスか?」


「まるで厭だと言いたいかのようだな」


「だって、いろいろと気恥ずかしいっスよ。寝顔とか見られてたと思うと、恥ずかしいし」


「ヨダレ垂らしてたぜ」


「マジっスか」
 と、シャルリスはあわててパジャマの袖でクチ元を拭っていた。


「冗談だ」


「酷い冗談っス」
 と、シャルリスはクチ先をとがらせた。


「シャルリスは補欠だから、朝から夜までみっちりオレが付き添えってことだ」


 いちおう、そういう話になっている。


 シャルリスのなかに【腐肉の暴食】がいるかもしれない――というのは、内密の話だ。
 先生たちも知らなければ、エレノア竜騎士長も知らないし、ましてや本人に言えるはずがない。


「まぁ、ボクを鍛えてくれるなら、文句ないっスけど」


「おう。みっちり鍛えてやるよ」


 これは個人的な感情だが、シャルリスのことを正式な竜騎士になれるぐらいまでは、仕立て上げてやろうとは思っていた。
 3年も見習いをやっているのだから、せめてその目標を叶えてやりたい。


 私情をはさまないでください――とハマメリスなら言うだろう。


「じゃあ、あれ教えてくださいよ。ドラゴンと話せるヤツ。竜語って言うんっスか?」


「あれはふつうの人間にはムリだ」


「えぇー」


「そんな不服そうな顔をするな。とりあえずドラゴンに乗れるようにはしてやるから」


「おーっ。マジっスか」
 と、シャルリスはベッドから跳び出してきた。


「オレは先に中庭に出てるから。シャルリスも着替えたら来てくれ」


「了解っス」


 常に見張っていろと言われているのだが、さすがに着替えているときまで監視しておくわけにはいかない。


(昨晩のあれは……)


 ゾンビ騒動。
 シャルリスが原因ではないはずだ。そう思いたい。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品