覇王の異世界転生

ノベルバユーザー425528

第6話 旅商人

 獣の森を騒々しい音を立てながら一台の荷馬車が走っていた。
 繋がれている2頭の馬は荒い息を吐きながら、必死に走っている。
 この体に巻き付く鎖が無ければ、真っ先に馬車を置いて逃げるのだが、主人がそれを許すわけも無い。

 馬車を操るのは1人の老人であり、ベテランの御者だ。
 この道40年の経験がある彼も頬に冷や汗を垂らしながら必死に馬車を操作する。
 舗装もされていない森の荒い道で、これだけの速度を出せばいつ横転してもおかしくは無い。
 何とか転ばずにいれるのは、彼の熟練した腕があるからだ。

 荷台には1人の商人と2人の女性の姿がある。
 トルコは旅商人だ。
 世界中を旅しながら様々な品物を売り捌いている。
 一緒にいるのは娘のナシア、今年で14歳になったばかりの可愛い一人娘だ。
 商人の仕事を覚えさせるためにいつも一緒に連れている。
 もう1人のマントを羽織った軽装の女性は護衛として雇っている冒険者のソーニャだ。
 Cランクの冒険者で、それなりに腕が立つ。

 しかし、今回は運が悪かった。
 馬車の背後を追うのは、大きな狼の集団だ。
 数は30匹近くいるだろう。
 燃える狼ファイアウルフの群れだ。

 ファイアウルフは、燃える体毛に身を包んでおり、口から炎の息を吐く魔物だ。
 厄介な事に、剣などで斬り殺すと自爆して道連れにしてくる恐ろしい魔物だ。

 最初は護衛の冒険者がもう1人いたのだが、知らずにファイアウルフへ切り掛かって行き、火だるまになって死んだ。
 このままでは、追いつかれるのは時間の問題だった。
 背後から執拗に炎の息を吐きかけてくるので、馬車の荷台が燃え上がる。

「早く火を消せ!」

 慌ててトルコとソーニャが水を掛けるが、ファイアウルフの攻撃は後を絶たない。

 直後、ファイアウルフの1匹が車輪に体当たりをした。
 凄い速さで回転する車輪に突っ込めばどうなるかは想像に難くない。

 ドカンッ!!

 車輪に巻き込まれたファイアウルフが自爆し、荷馬車が大きく傾いた。

「きゃあああ!?」
「うわあああ!」
「うおぉ!?」

 そのまま横転した馬車は地面を滑り、木にぶつかって止まった。
 あっという間にファイアウルフの群れが馬場を取り囲み、逃げ場は無い。

「くっ、戦うしか無いか」

 ソーニャが片手剣を抜いて構えた。

 風の刃ウインドカッター

 魔法を発動して剣に風属性を付与する。
 切味が増して、攻撃有効範囲が拡張される。
 しかし、ファイアウルフ相手に風の魔法は相性が悪い。
 水か氷の魔法が使えれば勝機もあったのだが、ソーニャは、半分諦めながら護衛の商人達を庇う様に立つ。

 ヴヴゥウ!
 グルル!

 ファイアウルフの群れはジリジリと距離を詰めて行く。
 獲物を確実に仕留める為にタイミングと距離を測っている様だ。

 ズドンッ!!

 その直後、何かがファイアウルフの群れの中心に落ちた。
 衝撃で土煙が上がっており、姿は見えない。

 ドカンッ!

 しかし、自爆したファイアウルフの炎で土煙が吹き飛んだ。
 そこに現れたのは1人の男だった。
 黒髪と黒目の青年。
 身長は170cmくらいで、細くも鍛えられた肉体をしている。
 服は下半身にボロボロな布を巻いているだけで、殆ど半裸だ。
 武器もなく身体は汚れていて不潔そうだ。
 
「ふぅ、間に合ったか」

 男は、倒れた荷馬車と4人の生存者を見て安心した様に溜息を吐いた。

「あっ、危ない!」

 ソーニャが叫んだ。
 
 グルル!

 ファイアウルフの1匹が背後から男へと襲い掛かる。

 キャウンッ!?

 しかし、見えない壁に当たったかの様に何かにぶつかって弾き飛ばされた。
 結界魔法でも使っているのだろうか?
 
 その直後、ファイアウルフが自爆した。
 しかし、爆発の有効範囲内にいるはずなのに、男にはなんのダメージも無い。
 まるで見えない壁に遮られているかの様に炎は一定の距離から近づけないでいた。

「え、何で?」

 ソーニャ達は状況が飲み込めずに、その光景を棒立ちで見ていた。

 グルル!

 ファイアウルフの群れは男を脅威と認識したのか、完全に標的を男に絞り取り囲む。

「おいおい、自爆されると魔石が取れないじゃねーか!」

 ファイアウルフは、自爆する時に体内の魔石を暴発させる。
 だから、自爆してしまうと魔石も木っ端微塵に吹き飛んでしまうので、冒険者達の間では金にもならない魔物として嫌われている。
 
「チッ、魔石は諦めるか」
 
 直後、男は何もない空間に拳を放った。
 魔力も感じられないし、無意味な行為にしか見えない。
 なのに、男を取り囲んでいたファイアウルフの群れが一斉に弾き飛ばされた。
 全て一撃で仕留められており、全てのファイアウルフが自爆した。

 凄まじい爆炎が巻き起こり、幾つかの木々が消炭になる。

「怪我は無いですか?」

 男は平然と爆炎の中から姿を現して、ソーニャに近づいた。

「止まって!」

 しかし、ソーニャは剣を構えて警戒する。
 森の中で突然現れた目の前の男をいきなり信用するのは危険過ぎる。
 商人の荷物を狙う盗賊の可能性も捨て切れない。

「あなたは何者ですか?」

 ソーニャの質問に男は頭を掻きながら笑顔を見せる。

「おっと失礼、俺の名前はクロード、遭難してしまったので、出来れば近くの街まで乗せて行ってもらいたいのだが」

 遭難者?
 こんな危険な獣の森で?
 しかも、あれだけの力を持つ奴が遭難なんてするのか?
 服装は遭難者に見えなくも無いが、盗賊のカモフラージュの可能性もある。

「それを信じろと?」

 ソーニャは疑念の視線を向ける。

「いやー、助かりました!」

 クロードに笑顔で駆け寄ったのは、旅商人のトルコだった。
 彼は最大限の敬意を込めて礼を言う。

「わたくし、旅商人をしているトルコと申します。あちらにいるのは一人娘のナシアです。ほら、そんな場所で突っ立ってないで、命の恩人に挨拶をしなさい!」

 トルコに言われて、おずおずと前に出たナシアがお辞儀をした。

「ナシアです。助けて頂きありがとうございます」

 商人の娘らしく丁寧に礼を言う。

「いえ、たまたま襲われている所を見つけただけです」

 クロードはそんなに感謝されるとは思っていなかったらしく、恐縮していた。

「良かったら、私達と一緒にザナスの街に来ませんか?御礼もさせて頂きますので!」

 トルコの提案はクロードにとっては渡に船だ。

「待って下さい!素性も分からない相手に近づくのは危険です!」

 快諾しようとした時、ソーニャが割って入った。
 
「恩人に対して、失礼ですよ。そもそも彼は護衛のソーニャさんより腕が立つ様ですし、奪う気があるのならこんな回りくどいやり方はしないでしょう」

 トルコに言われてソーニャはハッとする。
 確かに自分より弱い相手を騙す必要なんて無い。
 本気で奪う気ならこの場で皆殺しにしてしまえばいいのだから。

「す、すみませんでした」

 ソーニャはクロードに謝罪した。
 
「構いませんよ」

 クロードは気にしてないのか、特に不快な顔も見せないで許した。

「では、馬車を直すまで暫くお待ち下さい」

 トルコと御者の老人は倒れた荷馬車を戻そうとするが、大量の荷物を積んでいる荷馬車はビクともしない。

「手伝いましょうか?」

 見かねたクロードが声を掛ける。

「申し訳ない!助かります!」

 トルコは申し訳無さそうにお礼を言う。

「よっと!」

 クロードは、片手で荷馬車を掴むと一気に持ち上げて元の体勢に戻した。
 総重量は2トン近くあるはずなのに、軽々とやってのけるクロードを見て4人は唖然としていた。

「強化魔法ですか?」

 ソーニャが質問する。

「まあ、そんなところです」

 素性を知られたく無いのか、クロードは濁す様に答える。

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