これで終わりじゃないよね?
第一話 疑問は多い
「おはようございまーす!」 
元気の良い挨拶と共に、担任の石垣が教室に入ってきた。
――が、その後に元気は続いてこない。まばらに、「まーす……」「あっす……」と虚しい波が立つだけだ。石垣の気持ち良い挨拶に他の連中は答えてやる気はないようだ。無論、自分も同じなのだが。
しかし、石垣はそれを気にも留めず話を進めていく。――挨拶の本質ってなんだろう?
「なぁ望、一限世界史だよな? 昨日のレポート終わってる?」
「んまぁボチボチ」
「世界史の北川うるせーからなぁ。とりあえずレポートは適当にやっとけ? あいつほとんどレポートの出来しか見てねーから」
「そりゃ一理あるわ。頭と同じで薄っぺらいんだよな」
「ハハッ、言えてる言えてる! ……いや、まぁでも頭は……な?」
俺が今話している相手、山田は、親友でもなく他人でもない微妙な関係の奴だ。
けど、何故かこの距離感のほうがウマが合う。そんな人って意外と多い。
――いざ授業が始まると、真面目に受けている奴には鬱陶しい雑音が奏でられる。クラスに必ず存在する、おしゃべりをする奴らのやり取りだ。嫌でも聞こえてくるそれは、実にくだらない内容で、文字通りただの雑音でしかない。
そしてその雑音を教師は厳しく注意するのだが、雑音の発生源はおしゃべりを止めることは無く、以降先生はちょくちょく注意をかける程度のものになっていく。この一連の流れというのはもうお約束と言っていいだろう。
我が担任の石垣には教師らしいところを是非とも期待したいのだが、残念ながら普通にスルーしてくれる。
これらはただの一瞬の出来事に過ぎないが、原因があり、周りがそれに流されていく。これは至極当然のことで、いちいちその意味を考えたりしないだろう。
そして全ての事柄に対して「真実」を見出すのは不可能なことかもしれない。しかし――。
「ねぇ高月ぃー。デートするなら、まずどこ連れてってくれる?」
って何だよ急にコイツは……。
「知らねーよ、どこでも良いだろ? どーせ自分の行きたいトコじゃなかったら駄々こねるんだろ」
「えぇー! ヒドイよぉー、あたしってそんなにワガママに見える? ――あー! もしかして高月、そんな経験アリとか?」
「あーもうだぁーったから! 今お前に構ってられないの!」
コイツに絡まれるとあっという間に休み時間が無くなる。今回は、早々に「俺は今忙しいんだ感」を出し、どっかに行ってもらうことにする。
「実は昨日出されたレポートが終わってなくてさ」
俺はわざとらしくそう言って、とっくに終わっているレポートを全冊取り出し机に広げてみせる。すると、それを見た美咲は、
「はぁ? それ今からやる気なの? あたしなんてもうとっくに終わらせたよ。早めにやっとかないからこんな時間にやることになんの! あーあ、かわいそっ。せいぜい頑張ってね!」
と言い放ち、足早に教室を出て行った。
――この美咲は、典型的なワガママ娘で常に自分主体で居る。
今みたいに、勝手に質問してきては勝手に帰っていくということが多々ある。美咲の質問は次第にネチっこくなっていくので、あまり長く話していたくない。まあ意外と粘着質ではないから良いんだけど……。
そして、何故か美咲は何かと俺によく絡んでくる。しょーもないことばかりだが……。しかしそこは、俺のことが気になっているから。とかそういうのではなく、「なんだかんだ言って話を聞いてくれるから」らしい。
何故そう思っているのかは知らないが、俺は話を聞いてなどいない。――聞いていないと言うと嘘になるが、基本的に俺は他人の事に興味は無い。くだらないと思った話は、聞く姿勢だけ持って後は聞き流している。
まあでも、自分の欲望のまま進んでいくのも良いのかもな。
――よし、そろそろ昼メシの時間だ。
四限終了のチャイムが鳴ると同時に、昼休みが始まる。
俺は通学途中にあるコンビニで買ったチョコチップスティックパンとコーヒー牛乳を取り出した。
個人的に、この組み合わせは神だと思う。
俺の昼休みの過ごし方は、誰かと、ってわけでもないが、主に廊下に座り込み、お気に入りの音楽を聞きながらこのゴールデンコンビを食している事が多い。この時間は指折りの至福のひと時だ。
「おっ、高月ー! なんだお前、また菓子パンなんか食ってんのか?」
廊下を歩く人の流れの中から、体育の川本が歩み寄ってきた。
「いつもそのパン食ってるけど弁当とか作ってもらわないのか?」
「いや、俺の母さんそういうのしない……というか、それ以前にまあ……アレなんで」
「でも弁当っていいよな! 特に愛妻弁当なんかよー!」
この川本は、ラグビーで中々に鍛えられた体格のわりに……といっちゃ語弊があるか? 妄想癖がある。更に人の話を聞かない。――俺も聞いていないか? そして二十九歳独身。意外と若いんだよな……。
「毎朝「いってらっしゃ〜い、ダーリン!」なーんて言われて弁当渡された日には……」
「幸せですか?」
「そう、もちろんじゃないか! 授業が終わって待ちに待った昼休み! 颯爽と弁当を取り出して蓋を開けるとそこには……」
あぁ、もうダメだなこれは……。
川本のようになりもしない妄想を抱く人間もそうだが、人は夢見がちだ。夢は簡単に決められるが、叶えるのは容易ではない。しかしその逆もあるはずだ。やりたいことが分からない。もしくは無い。など、夢を見つけられない人もいる。そして、俺も捜し求めている……。
まあ、たまたま買った宝くじで一等が当たり、大金持ちになって夢を掴む可能性も無くはないが――。
「よーし、それじゃ今日もお疲れさん、さようなら!」
帰りのホームルームでも相変わらず石垣は元気に挨拶している。が、変わっているところもある。
「やっと終わったぜー!」「おっし! 帰るかぁ!」「どっか寄ってこー!」
――それは、帰りになると他の連中は元気になる。というところだ。
水を得た魚のように活気というものが見て取れる。お前ら禁欲生活でもしてたのか?
「朝との変貌振りはなんなんだよ。まったく、本当にあいつらは「なに」で動いているんだ?」
俺は一人、帰り道で愚痴を言っていた。
何故みんな、楽なこと、楽しいことに関しては一生懸命なんだ。何故自分の都合の良いときにしか頑張ろうとしない? 長い人生の中、都合の良いときなんてさらさらあるもんじゃない。あいつらはそれを分かってるのか?
――毎日同じことの繰り返し。
同じ時間に起きて、学校行ってクラスメイトと駄弁ったり、色々したら帰ってメシ食って風呂入って寝る。それを一年近くも続けるなんて、俺には無駄に時間を使っているような気がしてならない。
この世に生まれたからには、少なからず理由があるはず。理由も無しに何故この世に生を受ける? 俺はそれが知りたい。「生きる意味」を。
「生きる意味」
この答え、真実を知っている存在がもし居るとするなら。いや、居たら……。
「いや、居るわけないか」
俺はまた、真っ暗な部屋の中で独り言を呟いた。
「だけど、本当に――」
そして、俺はいつの間にか目を瞑っていた。
元気の良い挨拶と共に、担任の石垣が教室に入ってきた。
――が、その後に元気は続いてこない。まばらに、「まーす……」「あっす……」と虚しい波が立つだけだ。石垣の気持ち良い挨拶に他の連中は答えてやる気はないようだ。無論、自分も同じなのだが。
しかし、石垣はそれを気にも留めず話を進めていく。――挨拶の本質ってなんだろう?
「なぁ望、一限世界史だよな? 昨日のレポート終わってる?」
「んまぁボチボチ」
「世界史の北川うるせーからなぁ。とりあえずレポートは適当にやっとけ? あいつほとんどレポートの出来しか見てねーから」
「そりゃ一理あるわ。頭と同じで薄っぺらいんだよな」
「ハハッ、言えてる言えてる! ……いや、まぁでも頭は……な?」
俺が今話している相手、山田は、親友でもなく他人でもない微妙な関係の奴だ。
けど、何故かこの距離感のほうがウマが合う。そんな人って意外と多い。
――いざ授業が始まると、真面目に受けている奴には鬱陶しい雑音が奏でられる。クラスに必ず存在する、おしゃべりをする奴らのやり取りだ。嫌でも聞こえてくるそれは、実にくだらない内容で、文字通りただの雑音でしかない。
そしてその雑音を教師は厳しく注意するのだが、雑音の発生源はおしゃべりを止めることは無く、以降先生はちょくちょく注意をかける程度のものになっていく。この一連の流れというのはもうお約束と言っていいだろう。
我が担任の石垣には教師らしいところを是非とも期待したいのだが、残念ながら普通にスルーしてくれる。
これらはただの一瞬の出来事に過ぎないが、原因があり、周りがそれに流されていく。これは至極当然のことで、いちいちその意味を考えたりしないだろう。
そして全ての事柄に対して「真実」を見出すのは不可能なことかもしれない。しかし――。
「ねぇ高月ぃー。デートするなら、まずどこ連れてってくれる?」
って何だよ急にコイツは……。
「知らねーよ、どこでも良いだろ? どーせ自分の行きたいトコじゃなかったら駄々こねるんだろ」
「えぇー! ヒドイよぉー、あたしってそんなにワガママに見える? ――あー! もしかして高月、そんな経験アリとか?」
「あーもうだぁーったから! 今お前に構ってられないの!」
コイツに絡まれるとあっという間に休み時間が無くなる。今回は、早々に「俺は今忙しいんだ感」を出し、どっかに行ってもらうことにする。
「実は昨日出されたレポートが終わってなくてさ」
俺はわざとらしくそう言って、とっくに終わっているレポートを全冊取り出し机に広げてみせる。すると、それを見た美咲は、
「はぁ? それ今からやる気なの? あたしなんてもうとっくに終わらせたよ。早めにやっとかないからこんな時間にやることになんの! あーあ、かわいそっ。せいぜい頑張ってね!」
と言い放ち、足早に教室を出て行った。
――この美咲は、典型的なワガママ娘で常に自分主体で居る。
今みたいに、勝手に質問してきては勝手に帰っていくということが多々ある。美咲の質問は次第にネチっこくなっていくので、あまり長く話していたくない。まあ意外と粘着質ではないから良いんだけど……。
そして、何故か美咲は何かと俺によく絡んでくる。しょーもないことばかりだが……。しかしそこは、俺のことが気になっているから。とかそういうのではなく、「なんだかんだ言って話を聞いてくれるから」らしい。
何故そう思っているのかは知らないが、俺は話を聞いてなどいない。――聞いていないと言うと嘘になるが、基本的に俺は他人の事に興味は無い。くだらないと思った話は、聞く姿勢だけ持って後は聞き流している。
まあでも、自分の欲望のまま進んでいくのも良いのかもな。
――よし、そろそろ昼メシの時間だ。
四限終了のチャイムが鳴ると同時に、昼休みが始まる。
俺は通学途中にあるコンビニで買ったチョコチップスティックパンとコーヒー牛乳を取り出した。
個人的に、この組み合わせは神だと思う。
俺の昼休みの過ごし方は、誰かと、ってわけでもないが、主に廊下に座り込み、お気に入りの音楽を聞きながらこのゴールデンコンビを食している事が多い。この時間は指折りの至福のひと時だ。
「おっ、高月ー! なんだお前、また菓子パンなんか食ってんのか?」
廊下を歩く人の流れの中から、体育の川本が歩み寄ってきた。
「いつもそのパン食ってるけど弁当とか作ってもらわないのか?」
「いや、俺の母さんそういうのしない……というか、それ以前にまあ……アレなんで」
「でも弁当っていいよな! 特に愛妻弁当なんかよー!」
この川本は、ラグビーで中々に鍛えられた体格のわりに……といっちゃ語弊があるか? 妄想癖がある。更に人の話を聞かない。――俺も聞いていないか? そして二十九歳独身。意外と若いんだよな……。
「毎朝「いってらっしゃ〜い、ダーリン!」なーんて言われて弁当渡された日には……」
「幸せですか?」
「そう、もちろんじゃないか! 授業が終わって待ちに待った昼休み! 颯爽と弁当を取り出して蓋を開けるとそこには……」
あぁ、もうダメだなこれは……。
川本のようになりもしない妄想を抱く人間もそうだが、人は夢見がちだ。夢は簡単に決められるが、叶えるのは容易ではない。しかしその逆もあるはずだ。やりたいことが分からない。もしくは無い。など、夢を見つけられない人もいる。そして、俺も捜し求めている……。
まあ、たまたま買った宝くじで一等が当たり、大金持ちになって夢を掴む可能性も無くはないが――。
「よーし、それじゃ今日もお疲れさん、さようなら!」
帰りのホームルームでも相変わらず石垣は元気に挨拶している。が、変わっているところもある。
「やっと終わったぜー!」「おっし! 帰るかぁ!」「どっか寄ってこー!」
――それは、帰りになると他の連中は元気になる。というところだ。
水を得た魚のように活気というものが見て取れる。お前ら禁欲生活でもしてたのか?
「朝との変貌振りはなんなんだよ。まったく、本当にあいつらは「なに」で動いているんだ?」
俺は一人、帰り道で愚痴を言っていた。
何故みんな、楽なこと、楽しいことに関しては一生懸命なんだ。何故自分の都合の良いときにしか頑張ろうとしない? 長い人生の中、都合の良いときなんてさらさらあるもんじゃない。あいつらはそれを分かってるのか?
――毎日同じことの繰り返し。
同じ時間に起きて、学校行ってクラスメイトと駄弁ったり、色々したら帰ってメシ食って風呂入って寝る。それを一年近くも続けるなんて、俺には無駄に時間を使っているような気がしてならない。
この世に生まれたからには、少なからず理由があるはず。理由も無しに何故この世に生を受ける? 俺はそれが知りたい。「生きる意味」を。
「生きる意味」
この答え、真実を知っている存在がもし居るとするなら。いや、居たら……。
「いや、居るわけないか」
俺はまた、真っ暗な部屋の中で独り言を呟いた。
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