今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)

細木あすか

いつから後ろに居たの?


「ねー、おねえちゃん。おにいちゃん泊まるの?」
「にいちゃん泊まるの?」
「泊まるよー」
「わーい!」
「わーい!」

青葉くんとパパがお風呂に入って30分。
刺青のことかな? 脱衣所でモタモタしてたみたい。

さっき、バスタオル届けに行ったらまだ浴室で「青葉くん! ほら、アヒルさんが浮いてるぞ!」なんて、やってたわ。
……良い歳してなにしてんだか。

「ぼく、にいちゃんと風呂入りたかった」
「わたしもー」
「もれなくパパがついてくるわよ」
「それは嫌」
「ぼくも」

……ほんと、子どもは正直だわ。
パパってば、あまり家に帰ってこないせいか、帰って来たら私たちにベッタリなんだよね。
愛されてるのはわかるんだけど、限度ってものがあるのよ。限度ってものが。

「次は、いつお泊まり会するの?」
「……んーと」

きっと、「次」はない。

でも、それを双子に言ったところで悲しむだけ。……いえ、前みたいにブーイングの嵐かも。

「瑞季、要」
「なあに?」
「なんだよ!」
「あのね、お兄ちゃんはパパやお母さんみたいにお仕事してるの」
「お仕事?」
「うん。橋も……マオくんたちを格好良くするお仕事してるの」
「すごい!」
「にいちゃんも、テレビ出るの?」

私は、2人と同じ目線になるためソファに座り、話を続けた。洗い物は終わってるから、ゆっくり説明できるわ。

「名前は出るけど、本人は出ないわよ」
「えー、テレビ出ないお仕事つまんない」
「テレビ出なきゃ、いたっていなくたって変わんないじゃん!」
「そんなことないわ。お兄ちゃんが居ないと、マオくんたちがキラキラしないのよ」
「キラキラしない……?」

もう家に来ないのよって言おうと思ったんだけど、それより「居ても居なくても同じつまんない仕事」じゃないって教えてあげないと。
青葉くんは、すごい人なんだよって。

そう思った私は、目の前で不満を漏らす2人の顔を見ながら口を開く。

「そうよ。マオくんたちがもっと格好良くなるために、お兄ちゃんはお仕事してるの。例えばー、……瑞季と要は毎日学校行くでしょう?」
「う、うん」
「行く」
「でも、お母さんもパパも学校行かないよね?」
「行かない」
「じゃあ、お母さんとパパは瑞季と要にとって居ても居なくても変わらない人?」

仕事を学校に例えてみたけど、どうかな?
双子は、必死になってその様子を思い浮かべているみたい。眉間にシワが寄ってるわ。

「……居なきゃ嫌」
「ぼくも」
「ね? ご飯作ったり、必要なもの買ってくれたり。あなたたちが元気に学校へ行けるようにサポートしてるのよ。お兄ちゃんも一緒。マオくんたちがテレビで輝けるようにサポートしてるの」
「じゃあ、おにいちゃんはパパなんだね!」
「うーん。まあ、そうね」
「じゃあ、おねえちゃんはママだ!」
「……え?」
「だって、ぼくらのご飯作ってる!」
「う、うん。……うん?」

それじゃあ、青葉くんと私が夫婦みたいな言い方になっちゃう!

例えが悪かった?
でも、身近な例がこれ以上思い付かなかった。言いたいことは伝わってるみたいだけど、着地点が違う!
あー! 日本語って難しい!

「……おねえちゃん」
「なあに?」

なんて考えていると、瑞季が泣きそうな顔をして話しかけてきた。

「パパとママ、わたしといてつまんないって思ってるのかな」
「そんなことないよ。どうして、そう思ったの?」
「だってわたし、おにいちゃんのお仕事つまんないって思っちゃったから……」

……瑞季は、こういうところがお姉さんよね。
私は、瑞季と目を合わせて語りかける。

「パパとお母さんがつまらないって思ってたら、あんな楽しそうにしてないわよ」
「そうかな」
「ええ。パパなんて、あのはしゃぎよう見たでしょう。つまらないって思ってるような顔してた?」
「……してない」
「ね? だから、パパとお母さん、お兄ちゃんも、みんなすごいのよ」
「うん。みんなすごい」
「もちろん、あなたたちも毎日頑張っててすごいのよ」
「うん!」
「ぼくもすごい!」

……伝わったみたいね。

双子は、「みんなすごい!」と言いながら立ち上がって変なダンスをし始めちゃった。ひょうきんな子たちね。
そして、優しい子たち。だって言えばちゃんと理解してくれるんだもの。

「……ありがと、鈴木さん」
「!?」

双子の様子を笑いながら見ていたら、ソファ越しに青葉くんが抱きついて来た。
お風呂に入ったからか、体温が高いな。気持ち良い。

って! もしかして、青葉くんがパパで〜のくだり聞かれてた!?

「い、いつから聞いてたの」
「さあ? あ、お風呂いただきました。ドライヤーも借りちゃった」

濁された!?
ってことは、やっぱり聞かれてた!?

「ズルい。ぼくもぎゅー!」
「わたしもっ!」
「はいはい、2人ともおいで」
「ちがーう! にいちゃんがいい!」
「おにいちゃんっ」
「…………」
「………………ごめん」
「謝らないで。惨めになる……」

……この無意味に広げた腕は、どうすればいい?

いや!
それより、青葉くんはいつから後ろに居たのよ!!


「今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く