今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)

細木あすか

梓がしっかり者になる理由


「なにしてるのって聞いてるんだけど、パパ」
「……え、鈴木さんの?」
「残念ながらね」
「マジかよ……」

五月もびっくりしてるってことは、会ったことなかったんだな。良く見ると、目元が要くんに似てるような……?

「あ、いや。その……た、玉は入ってへんから」
「そんなこと、聞いてないわよ!」

すると、オレの目の前にいた男は、先ほどとはガラッと変わってオロオロとした様子で梓を見始めた。その手に握られている銃は、いつの間にか下ろされている。
……なんで、梓の父親はこんな物騒なモン持ってんだ? もしかして、アッチの住人か?

「……五月、知ってたか?」
「何が?」
「梓の父親のこと」
「ああ。警察官なんだって。関西で交通巡視員してるみたい。初めて会ったけど」
「……交通巡視員は銃の所持しねぇぞ。オレ、ドラマの配役で勉強したから」
「……え、じゃあなんで」
「……さあ」

と、とりあえず、見守ろう。
そう思ったオレたちは、キッチン前へと避難……いや、移動する。

「それより、私の質問に早く答えなさいよ」
「あ、梓ちゃん、これには深ーい訳があんねん」
「早く! 答えなさいよ!」
「はいいい!!」

梓、怖い。
五月がブチギレた時と同じくらいじゃねえの?
笑ってるのに、後ろには般若がいるぞ……。

「朝、自分ちに帰ったら知らん男がおってな」
「で?」
「後付けてったら、梓ちゃんと仲良うしてるやないか。だから、その」
「で??」
「……そいつの後ついてったら、まさかのうちに入ってしもうてその」
「で???」
「……梓ちゃんが変な男に引っかからんように、そいつのこと見とってな」

……ってことは、1日中五月の後付けてたのか!
やっぱ、さっき感じた視線は気のせいじゃなかったんだな。

「1日中、青葉くんを監視してたってこと!?」
「そ、そうやそうや! 梓ちゃんに変な虫がついとうな「馬鹿! 青葉くんに謝りなさい、この暇人!!」」

梓の父親が口を開く度、梓の表情が険しい物になっていく。
……実の父親に向ける視線じゃねえ。

「おねえちゃん、どうしたの?」
「ねえちゃん、うるさ……パパ」
「パパだ……」

なんてことをしていると、リビングに瑞季ちゃんと要くんが入ってきた。……おお、こうやって見ると、似てるなあ。親子だ。

「瑞季! 要! 久しぶりやないか、父さんだぞ!」
「パパ! おかえり」
「パパ! おかえり」

2人は、嬉しそうに父親へ向かって抱きついて行く。……いや、行こうとした、か。

「……透? 話は終わってないわよ?」
「ヒッ……」
「瑞季、要。お姉ちゃん、この人と話があるからちょっーと部屋で宿題終わらせておいてもらって良いかな?」
「音読は?」
「後で聞くから、それ以外は終わらせてね」
「わかった! パパ、一緒にご飯食べる」
「……生きとったらな」

あれ、さっきまでパパ呼びだったのに急にどうした?

透と呼ばれた梓の父は、リビングを去る双子の背中を寂しそうに見つめながら、銃を懐にしまった。……関係性が良くわかんねえ。でも、ひとつ言えることがあるとすれば、この父親は梓に逆らえないというかなんというか。父親の威厳はゼロだ。

「とりあえず、そのエセ関西弁やめなさい」
「はい……」
「え、大阪の方じゃないんですか」
「ええ。この人、いろんな方言を覚えてるだけ。……お母さんには連絡したの?」
「さっきしたさ。梓にも伝わってると思ったんだがなあ」
「帰ってくるなら早く言ってよ。夕飯の買い物しちゃったじゃないの」
「なんだ、父さんの分ないのか!」
「ないから今すぐ出てってくれるかしら?」
「……なくて良いので、追い出さないでください」

腰低っ!!
父親って、もっと威厳持った方が良いんじゃねえの? ……さっきの銃はやりすぎだが。

てか、サラッと言ったが、いろんな方言覚えてるのって結構すげぇことだぞ……。

「追い出されたくなければ、2人に謝りなさい!」
「はいいいい!! えっと、梓のお友達の」
「青葉です」
「橋下です」
「おお、君! マオくんじゃないか! うちの職場でも君の……」

話が逸れると、すぐに梓の睨みと咳払いが飛んでくる。
今のこの流れ見ただけで、梓がなんでしっかり者なのかがわかった気がするぜ……。

「えっと、青葉くんに橋下くんと言ったな。娘とはどんな関係で「だから! 謝りなさいって言ってんのよ!!」
「アデッ!!」

うわ、ナイスアッパー……。痛そう。
隣では、五月も乾いた笑いを披露している。そうだよな、そんなリアクションしかできないよな。

……梓のこと怒らせないようにしよ。
それを見たオレは……五月もだな、心に硬く誓いを立てた。

          

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