今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)

細木あすか

何も解決していないままで




目が泳ぐ。
焦点って、どうやって合わせるものだった?

「……」
「大丈夫?」

正直、大丈夫ではない。

だって、青葉くんが私の手を繋いでるんだもの。
だってだって、手から体温がダイレクトに伝わってくるんだもの。
だってだってだって、その手が恋人繋ぎなんだもの!

「……こういうの、慣れてない」
「今まで付き合った人とかいないの?」

しかも、学校内……と言っても昇降口だけど……なのに、青葉くんってば前髪をヘアピンで上げて顔を出してるの。そのせいか、さっきから他の生徒の視線が痛いわ。いえ、その視線が熱すぎてなんだか隣にいるのが申し訳なくなりそう。
橋下くんが言ってた、「人気より狂気に近い」の意味、なんとなくわかった気がする。

「居たけど、ここまでしてない」
「ふーん。じゃあ、今のうちに慣れようね」

というか、青葉くん楽しんでない?
さっきメイクしてくれた時と同じ顔してる!

……でもね。
青葉くん、落ち込んでる私のこと励まそうとしてるんだ。だから、軽口たたいて、隣で笑ってくれてるんだと思う。

正直なところ、こうやって青葉くんと並んで歩けるのは嬉しい。手を繋ぐのも、笑いかけてくれるのも、彼がしてくれることならなんでも嬉しい。
私、青葉くんのこと好きなのかな。その辺はまだよくわかってない。

「お手柔らかにお願いします……」
「承りました」

ただ、ひとつだけわかることがあるとするなら、絶対遊ばれてる!ってことかな!!

私は、色々深く考えないようにしながら自分の靴を下駄箱から取り出す。
とりあえず、双子のお迎えに行かないとね。


***


ちょっと前。

5限終わりのチャイムを待って、青葉くんと私は教室へと帰った。……いえ、少し時間をズラして戻った。変に噂がたったら、青葉くんに悪いもの。

そうそう。幸い、芸術棟に入ったことは、先生に気づかれずに済んだわ。罰則食らってたら、双子のお迎えに行けないところだった。

「梓!」
「マリ、ラインありがとう。お弁当もごめんね」
「ううん。それより、スポーツ科の先輩はどうしたの?」
「あー……、断ったわ」
「もったいない!てっきり、帰ってこないからイチャイチャしてるのかと思ったのにぃ」
「学校でそんなことしないわよ!芸術棟行ったから、珍しくて見学してただけ」
「それはそれで羨ましいなあ」
「あはは。……それより、ふみかは?」

早速、マリと由利ちゃんが私のところに来てくれた。遅れて、詩織も。心配してくれてたみたい。由利ちゃんなんか、ホッとしたような顔をしてる。
でも、ふみかは教室を見渡してもいない。

「なんかねー、5限前に来たんだけど。授業始まる前に、走ってどっか行っちゃったの」
「カバン置きっぱにしてね」
「ラインも読んでくれないし、どこいったんだろ?」
「……」

予想はしてたけど……。やっぱり、戻ってきてなかったのね。
どこに行ったんだろう。あの時、階段降りていったから芸術棟からは戻ってきてるはず。

「私もライン送ってみるよ」
「お願い。個別で送ってみて」

なんて話してると、教室に青葉くんが戻ってきた。
私がそっちを向くと、口元をにっこりさせながら顔を合わせてくれた。でも、やっぱり前髪のせいで目が見えない。……今、絶対笑顔だった。見たかったな。

「……」
「……梓?どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもない」

上着、私のじゃないって誰にも気づかれてないわ。サイズ結構違うから、何か言われると思ったんだけど。
言い訳考えてなかったから、よかった。

「5限のノート後で見せて」
「いいよ、私見せる」
「ありがとう、詩織」

詩織、ノート見やすいから嬉しい。後でお礼しないとね。

……そういえば、6限ってなんだっけ?
そう思って前の掲示板に飾られている時間割を確認すると、現国だった。眠くなりそうね。

「そう言えば、現国の吉田先生今日休みって2組の人言ってたけど」
「じゃあ、自習になりそうだね」
「いや、小林先生授業なかったら別の授業入るかも」
「道徳とか入りそう」
「うげー。自習が良いなあ」
「……」

自習かあ……。午後の自習って、絶対寝ちゃうんだよね。暇で。
もし自習だったら、ふみか探しに行こうかな。自習だと、出席取られないし。……あ、でも橋下くんが言ってたように時間おいた方がいいのかな。
こういう時、何が正解なんだろう。

私は、自分のことで精一杯になっていて、詩織が何か考えているかように黙っていたことに気づかなかった。

          

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