今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)
とりあえず落ち着こう、私
ふみかは、泣きながらそのまま階段を降りて行ってしまった。
……何か、嫌なことを思い出させちゃったかな。
私は、ふみかを追いかけるために、急いで立ち上がろうと足に力をいれた。壁に手をつけば、少しなら立てそうだわ。
でも、それを橋下くんの腕が止めてくる。
「やめとけ。今話し合ってもロクな会話できねぇぞ、あれは」
「でも……」
「とりあえず、友達なら落ち着く時間は取ってあげたら?後からいくらでも話せるだろ」
「……たまには良いこと言うのね」
「おい!」
……そうね。橋下くんの言うとおりだわ。
辛い時に聞いても、話せないのは当たり前だよね。
にしても、あの先輩学校でなにしてるんだろう。なんだか、怖いよりもイラつきの方が大きくなってきた。
「あはは。橋下くん、話しやすい」
「……元気になったなら、それで良いよ」
あ、ちょっといじけてる。
彼、当たり前なんだけど、雑誌とか動画で見ている人物と全然違うな。こう見ると、親しみやすい良い子だ。……口は悪いけど。
「で、さっきから言おうと思ってたんだけど顔がラメで光ってるぞ」
「……あ」
そうか!泣いてたから、アイシャドウが取れたんだ!
チークもファンデも落ちてると思う。全然気にしてなかった!
あれ?私、目を擦ってた?そしたら大惨事だわ!
「……あの、見ないでもらって良いですか」
「なんだよ今更。マスカラは取れてねえから安心しろ。パンダにはなってない」
「いや、だから見ないで欲しいんですけど……」
「ぶは!梓、おもしれぇ」
こっちは死活問題よ!
メイク取れると、顔が幼くなるから嫌なの!!
マスカラは、ウォータープルーフだから問題ないはず。……はず。
今日はライン引いてないし、アイブロウは少し落ちてもイケるはず。あーーー!今日ラメ入り使うんじゃなかった!!
「……直してくる」
「いや、五月にやってもらえよ。どうせまだ1人で動けねえだろ」
「あ、やっぱり青葉くんってメイクするんだ」
「やっぱりって……。もしかして、聞いてねえの?」
「なにが?」
前、うちに落としたメイクブラシはやっぱり青葉くんが使ってたやつだったんだ。男の人がメイクするのって、なんだか新鮮だよね。女の人がするメイクとまた違うのかな?
青葉くんくらい顔が整ってると、メイクするの楽しいだろうなあ。
青葉くんと、そういう話してみたい。
でも、メイクしてるところは見たことがない。
いつしてるんだろう?
そんなことを考えていると、橋下くんはさも当たり前のようにこう発言する。
「あいつ、学校がない時間は芸能界でメイク担当として普通に仕事してるぞ」
「……は!?え、え?まさかのプロ!?」
そっち!?
え、……そっちですか!?
趣味レベルじゃないの!?
って言うか、青葉くんって未知すぎる!
タピオカ屋さんのバイトもしてメイクの仕事もしてるって、いつ寝てるの!?宿題いつしてるの!?
私の声は、ふみかの泣き声より、下手したらチャイムの音より、渡り廊下いっぱいに響き渡った。
「そこまで驚かれるとなんか恥ずかしいんだけど……」
「!?」
しかも、ちょうど青葉くんが背後にいるじゃないの。
振り向くと、少しだけ頬を赤くした彼が立っていた。その肩には、いつもの黒いリュックが背負われている。
そんな顔されると、こっちも恥ずかしいです……。
          
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