今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)

細木あすか

すれ違いと盗み聞き




今日の学食は、やけに空いていた。
週の真ん中って、結構サボってる人多いんだよね。そのせいかな。うちのクラスの人も、5人休みだし。
……ふみかも、サボりとかならいいんだけど。どこかで倒れてたら、って思うと心配。

「入り口ゲット〜」
「ここなら、ダラダラできるね」
「ふみか来てもすぐわかる!」

私たちは、そのまま席についた。
私と由利ちゃんがお弁当組。いつも通り、電子レンジの列に並ばないとね。

「じゃあ、私たちは温めてくる」
「はーい。しおりんと定食買ってくる!今日ってなんだろ?」
「唐揚げかオムライスだった気がする」
「えー!オムライス食べる!」
「いいね。私もそうしようかな」
「で、唐揚げは梓のもらう!」
「あげないわよー」

マリも唐揚げ好きなんだよね。今度、たくさん作って分けようかな。
マリ、私の話聞いてたかな?返事なしで、学食の列に並び始めちゃった。まあ、あげてもいいけど。

「梓ちゃん、私たちも行こう」
「うん。お弁当の袋だけ席置いとくよ」
「あ、ありがとう。席取られちゃうもんね」

由利ちゃんと一緒に、お弁当の器と貴重品だけを持って席を立つ。


***


「あ、いたいた。アズサちゃん?」
「……はい?」

温まったお弁当を持って席に戻ろうとした時。

私は、後ろから名前を呼ばれて振り返る。すると、そこには結構身長のある茶髪の男の人がこちらに向かって手を振っていた。
バッジを見る限り、スポーツ科の先輩らしい。……パッと見、バスケやってそうな感じ。

「なにか用事でしょうか」
「うん。あのさ、今少しだけいいかな。話したいことがあって」
「……私、先戻ってるね。お弁当貸して」
「あ、うん……。先食べてて」
「ごゆっくり」

何かを察した由利ちゃんは、私のお弁当も持って先に席へと戻って行ってしまった。
……え、何。心細いな。

「なんか邪魔しちゃってごめんね」
「いえ……。あの、用件は」
「ああ、ごめん。ここじゃうるさいから、あっち行こうか」
「……はい」

話しかけてきた先輩は、頬を赤らめながら学食の外を指差してくる。
また告白の類かな。……今回は、神社扱いされませんように。


***


オレは、学食まで来た。
やっぱこの格好だと、誰にも気づかれない。なんか、スリルあっていいなあ。

この格好のまま、正樹のとこ行こうかな。驚くだろうなあ!
あ、いやいや。今はそんなことしてる場合じゃねぇ。

「……えっと」

鈴木さんを探さないと。
でも、どうやって探そう。とりあえず、一周するか。キョロキョロしてても、席探してる感じに見えるから不審者扱いはされないはず。

「あれ?梓は?」
「あ、えっと。なんか、スポーツ科の先輩に声かけられてた。茶髪で、背の高い人」
「えー!また?」
「梓、モテモテだね」

入り口から中へ入ったオレに、手前の席の会話が聞こえてくる。なんか、すげー明るいやつがいるな。ああいう子、いいなあ。一緒にいるだけで、気分が上がる。

「……でも、その先輩ね」
「どうしたの?」
「梓のこと、名前で呼んでたの」
「へー。知り合いってこと?」
「うーん、そんな感じじゃなかった」
「変だね。普通なら、鈴木さんって言うもんね」

「!?」

今、鈴木って言った?
……でも、鈴木なんて苗字たくさんあるしな。ちょっと、メニューでも見ながら盗み聞きするか。

いやでも、待てよ。
さっき、五月と話してたスポーツ科のやつ「アズサ」って言ってたような?
その「アズサ」が、ここでもスポーツ科のやつに声かけられてるって偶然すぎないか?
ってことは、鈴木さんの名前はアズサ?それとも、ただの別人?

「……」

ここにいられるのは、あと1時間程度。夕方からの撮影に穴を開けるわけにはいかないんだよな。急いで探さないと。

「今日、定食どうしようかなー」
「サラダのドレッシングどれにする?」

そんなオレの横を、普通科の1年が次々と通り過ぎていく。
……はあ、学食うまそー。また五月と食べに来よう。

          

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