今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)

細木あすか

そうだった、私のせいでこうなったんだ……



私と青葉くんは、そのまま学食に向かった。

学食は、お昼の時間と違って人がほとんどいない。これなら、話をしていても怪しまれることはなさそう。図書室みたいに静かだった。
それに、放課後だからなのかいつもは聞かないまったりとしたオルゴール曲が響いてて、それがなんだか喫茶店を連想させてくる。

「えっと……」

話す内容を決めていなかった私は、食堂の入り口で立ち尽くす。それを見た青葉くんは、

「本当、昨日見た鈴木さんとは別人みたいですね」

と、笑いながら奥へと歩いて行ってしまう。
ってことは、やっぱり昨日のは彼だったのね。私は、やっとそれを実感する。

「こっち、あまり人に見られない場所なので」
「ええ……」

青葉くんが案内した席は、ちょうど柱が立っていて入り口からは見えない所だった。誰かに見つかり茶化されても面倒だったので、都合が良い。私は、その席に腰掛けた。

「用件はなんですか?」

向かい側に座った青葉くんは、そう言って背負っていたリュックをおろす。スポーツブランドのロゴが書かれた黒いリュック。今、どこかの女優さんがCMやってたな。

「あ、えっと。昨日のことで……」
「ああ。昨日は勝手に家に上がり込んじゃってすみません」
「い、いえそれは別に良くて……」
「……?」

顔だけ、尋常じゃないくらい熱い。
私、ちゃんと日本語話せてる?

「えっと、これ。昨日、玄関に落ちてて」
「何か忘れ物してました?」
「ええ……。謝らないといけないんだけど」

私は、そう言って朝から何度も中身を確認していた紙袋を青葉くんに差し出した。
すると、彼はすぐにその袋を受け取ってくれる。

「ごめんなさい!玄関に落ちていたのを、気づかないで踏んじゃって。その……」
「……」

私の話を聞いた青葉くんは、袋の中身を取り出した。透明の袋に入っているピアスと、メイクする時に使うような1本の筆が彼の手に収まっている。ピアスはともかく、多分うちで見たことがないメイクブラシだったから、青葉くんのだと思うんだけど……。メイク、するのかな。

でも、それよりもピアスなの。私が罪悪感で押し潰れそうになるのは。
飾りである真っ黒な球体が外れてしまい、針部分が完全に折れ曲がってもう使えないのがひと目でわかるくらい壊してしまって。……ああ、本当にごめんなさい。

キョトンとした表情になって、彼はそれを見ている。

「……怪我、しなかった?」
「本当にごめんなさ……え?」
「怪我。キャッチ部分尖ってるから」

青葉くんは、手元にある壊れたピアスから視線を外して、私にそう聞いてきた。

「あ、ええ。スリッパ履いてたから……」
「よかった。届けてくれてありがとう」
「あの、弁償します……。踏んじゃったの私なので」
「別に良いですよ。安物ですし」
「でも……」
「鈴木さんや瑞季ちゃん、要くんが怪我しなくてよかった」
「……」
「それより、いつもあのスーパー行ってるんですか?」

この類のアクセサリーが安くても3,000円近くすることを知っている私は、それが「安物」だとは思えない。
でも、彼はそう言って壊れたピアスを袋に戻してしまう。本当に、なんとも思っていないかのように。

「え、ええ。毎日……」
「そうなんですね。俺も、バイトのおつかいでよく使ってるんです」
「え、青葉くんバイトして、る……ん」

あれ、ところで私何か忘れてるような。

「……どうしました?」
「!?!?!?」

そうよ!学童の時間!
2人のこと、迎えに行かないと!

学食の時計を見ると、16時になりそうだった。後20分くらいしかない!

「あ、あの。その……」
「……?」
「私、お迎えがあって。その……」

それに、まだ青葉くんにあの姿を誰にも言わないでって口止めしてない!
えっと、えっと。どうしよう。

「一緒についてきてください!!」
「は、はい!」

そうよ!「まとめて」だわ!

思考回路の停止した私は、カバンを持って勢いよく立ち上がった。
すると、その勢いにやられたのか青葉くんも慌てて立ち上がる。

青葉くんを引き連れた私は、猛スピードで玄関へと向かった。




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