純白の魔法少女はその身を紅く染め直す

細木あすか

7:降り続けるは山茶花時雨①



「どこ行く?」

風は冷たいが、太陽の日差しでそこまで寒さは感じない。
ユキと彩華の2人は、手をつなぎながらセントラルの街並みをゆっくりと歩いた。

こうしていると、恋人同士にしか見えない。誰も、国の姫がそこにいるとは気づかないだろう。

「んー……どうしよう。とりあえず、美味しいもの食べたい!」
「出た、色気より食い気の姫!」
「何よ!三大欲求のひとつよ。自然なことだわ」
「あはは、姫にはかなわないよ」

この日は、ユキにとって久しぶりの休日だった。

本来であれば身体をゆっくりと休めて次の任務へ備ないといけないのだが、今日はどうしても彼女と一緒に居たかったのだ。
ベッドで読書をしながら1日過ごすより、ずっとずっと有意義な日になることだろう。

「ね、あそこのクレープ食べたい!」

と、すでに食べる気満々の彩華。指差す先には、移動型店舗が展開されていた。
セントラルには、こうやってクレープ屋さんやアイス屋さん、時には綿飴屋さんが訪れる。

ユキの隣では、看板に大きく書かれた「クレープ」の文字をキラキラとした瞳で見ている彩華の姿が。これを見て、食べないという選択肢はない。

「ん、行こうか」

無論、ユキも風音ほどではないが甘いものは好きな方。彩華のためという名目だが、自身の食欲も刺激されていることは間違いなさそうだ。

「何味にする?」
「どうしよう。姫と被らないようにしたいな、食べ合いしたいし」
「そうね。じゃあ、私は……」

と、メニュー表を覗いていた時だった。

「あ!彩華姫!」

急に後ろから、聞き慣れた少女の声が聞こえてくる。

「あら。こんにちは、2人とも」

彩華が振り向くと、そこにはゆり恵と早苗が私服姿で立っていた。
ポップな服のゆり恵と落ち着いた雰囲気の早苗は、対照的であるのに2人並んでいてもあまり違和感がない。そこは、2人の仲の良さがカバーしているのだろう。

「こんにちは!」
「お久しぶりです」

と、2人はこれまた元気よく彩華に挨拶を返した。

「知り合い?」

ユキは、その挨拶が終わるのを待ってみんなの方を振り向く。髪と瞳の色を変えているので気づかれることはないだろうとはいえ、少々ドキドキするのは事実。顔は、ユキそのものだからだ。

「……!」

それを見た、ゆり恵の顔は見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
きっと、この部類の顔が好きなのだろう……。

「うん!前、タイル行った時に護衛してくれたの。右から、早苗ちゃんとゆり恵ちゃん」

と、彩華は自然な感じで2人をユキに紹介する。
彩華も、ユキの任務については父親から聞いている。下手にバレると大変、ということは理解しているようだ。

「そうなんだ。初めまして、……彩華がお世話になりました」

と、2人に向かって頭を下げるユキ。
不意打ち気味に呼ばれた名前に、彩華が頬を赤くしたのは言うまでもない。

「……カッコいい」
「うん……」

と、案の定ユキの顔を見て固まる2人。
きっと、誰かが声をかけなければ永遠と黙ってるだろう。

そんな様子を見た彩華は、

「私の彼だから、取っちゃダメよ?」

と、いたずらっ子のような顔をして牽制だろうか、声をかける。

……こんなことを言われて、嫌な気分になる男はいない。
無論、生物学上は女性だが、ユキも例外なくニヤついた表情をし、

「彩華も、そんな顔したらダメだよ?」

と言って、彼女の腰を腕で抱き寄せる。
……完全に、調子に乗っているようだ。

「……!」

一連の行動で、遊ばれている!と感じた彩華だが、それでも頬の赤みは隠せない。しかし、それを見ていたゆり恵たちも赤面しているので気づかれることはなさそうだ。

「そ、そうだ!みんなでクレープ食べよう!」

と、照れ隠しなのか話題を変えるように再度看板に目を向ける彩華。

「食べたいです!」
「美味しそう……」

甘いものに目がないのは、若い証拠。
例外なく、全員がメニュー表へ釘付けになった。しかし、

「彩華はどうする?半分こしたい」

と、さらにイチャつこうとするユキ。
そろそろ彩華の限界がきているようで、顔を茹でダコ並みの赤さにさせる。それが、ユキからしたら愛おしくて仕方がない。

「……チョコ食べたい」
「ん、じゃあ俺はイチゴにしようかな」

と、彩華の好物を提案するところも、「モテテク」というやつか。
隠しきれないモテオーラも、きっとわざと出しているに違いない。それをわかっていても、やはり彩華の赤面はおさまらない。

しかし、これ以上いじめても彼女が困るだけとわかり出したユキは、ゆり恵と早苗の方を向く。

「ゆり恵ちゃんと早苗ちゃんは?おごるよ」
「え!嬉しい!」
「ありがとうございます」

その素直さは、12歳という年齢にふさわしいもの。ユキも同年代なのだが、その感情をどこかに置いてきてしまった故羨ましいと感じてしまう。
それに加え、いつもと違う位置にいるのでくすぐったさもあった。
たまには、こんな関係も良いのかもしれない。

「私もイチゴにしようかな」
「カスタードもいいな」
「あー!やっぱり姫と同じでチョコにする!」
「じゃあ、私ミルフィーユにしようかな」

と、メニュー表を指差し格闘中な2人。
クレープは、メニューが豊富なのだ。1つに絞るのは難しい。

「じゃあ、注文するね」
「お願いします!」
「ご馳走になります」
「すみませんー」

食べ終わるまで、この賑やかさは続くだろう。

また会えると良いな。
クレープを食べる4人は、きっと同じことを思ったに違いない。

          

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