純白の魔法少女はその身を紅く染め直す

細木あすか

5:春霖に身体を濡らす②



「呼んだ?」

今の今まで、会いたいと思っていた当の本人が窓辺から顔を出してきた。

夢かと思いボーッとその人物の声を聞いていたのだが、いつまで経っても気配が消えないためそれが現実であることを悟る。

「……え!?」

急いで布団から飛び起きて、声がした方を見るとユキと目が合った。
彼は、窓枠に腰を下ろしていつもの優しい顔で彩華を見ている。

「何その顔」

余程、面白い顔をしていたらしい。
ユキは、彩華を見て顔を歪めて笑っている。

「呼ばれたから来たのに」
「……ま、待って!どうやって入ったのよ!今、私っ」

さすがに、パジャマ姿を見せるわけにいかない。
そう思って布団を引き寄せて身体を隠すが、

「あはは。大丈夫、俺なんか何も着ないで寝てるし。姫はかわいいね」

と、特に気にせず、彩華の部屋に降り立つ青年ユキ。
その足元は、魔法でもかけられているのか靴が光り輝いている。

「え、何も……着てない」

それを想像したのか、真っ赤になって顔まで布団に潜り込む彩華。ユキが再度大笑いしたのは、言うまでもない。

「待ってるからさ、シャワー浴びて着替えてきなよ。さっぱりするよ。で、終わったら外行こう」
「う、うん!待ってて、行きたい」
「ん、終わったら俺の部屋に来て」

そう言うと、ユキは彩華に背を向け窓辺から外へ勢いよく飛んだ。

「危ないよ!」
「大丈夫!」

ここは、4階。
驚いた彩華が急いで窓の外を覗くと、ピースしてニコニコと笑う彼と目が合った。

「もう!やんちゃなんだから!」
「姫ほどじゃあないさ」
「何よ!」

と、怒ってはみるが形だけ。
ユキと話して元気が出たのか、そのまま彼女は、軽い足取りでシャワー室へと姿を消した。




***


「お呼びですか、皇帝」

サツキと一緒に自室でお茶を飲んでいた時、風音に伝令が入った。
仕事かと思い戦闘服を出して準備しながら読むと、ただの呼び出し。マナの遊び心は、こんなところにも顔を出す。

ため息をつきながらも、サツキに事情を話して急いで彼女のいる執務室へと走って来た。少し息が上がっているのは、許して欲しいものだ。
しかし、その息苦しさは執務室の光景を見てすぐに吹き飛んだ。

「……マナ!?」

風音が扉を開けると、マナがソファーへ横になって苦しそうに胸を動かしているのが目に入る。彼女は、目を閉ざしながら眉間にシワを寄せていた。

「……おい!大丈夫か?」

近寄ってみると、真っ青な顔色をして額からは汗が滴り落ちている。風音は、心配そうに彼女の頬へ手を当てた。

「どうした?」

その頬は、ひんやりとしている。浅い呼吸を繰り返す彼女に、風音の声は聞こえていないらしい。
これは、魔力残量が0に近い際に起きる現象……。

風音は、急いで魔力譲渡を施すべくマスクを外すと、マナに向かって手を広げた。ここまで低下してしまった魔力を補うには、マスクを外すしかないのだ。
すると、すぐに彼女の身体に魔力が吸収される。もう少しここに来る時間が遅かったら、マナの魔力が尽きて心肺停止にでもなっていただろう。

「……マナ、聞こえるか?」

魔力の吸収が遅くなったところで、再度彼女に向かって声をかける。
すると、それに反応するようにマナはゆっくりと瞼を開けた。

「……サユナ?」

虚ろな瞳は、目の前にいる風音を見ていない。
風音は、彼女の口から出たその人物を知らない。眉間にシワを寄せながら、マナと同じ目線になるようソファの隣に腰をおろす。

「……?オレだよ」
「ああ、ユウトか」

その声へ反応するかのように何度か瞼をパチパチと動かし、やっと彼を認識したようだ。マナは、怠そうな表情のまま会話を続ける。

「大丈夫?」
「ん、助かった」

起き上がろうとしたマナを、風音が支えようと手を伸ばした。すると、マナはそれに甘えるように擦り付いてくる。

そして、次の瞬間その影がひとつに重なった。

「……んっ、……っ」

マナは、目の前の腕を強引に掴むと、驚愕の表情を浮かべる風音の口へと舌を入れた。濡れた音が、静かな執務室に響く。

一気に力が抜けた風音は、ソファへマナを押し倒す格好になってしまう。さらに、それを彼女がホールドするものだから下手に動けない。顔を真っ赤にしながらも、どうしようもできないらしい。
彼女の魔力回復方法だとわかっていながら、風音の思考回路は停止してしまう。

「……っ」
「っ、っ……。…………」

一連の行為により、マナの体温が戻ってきた。

ここで、立ち止まればよかったのだ。
しかし、風音はその温かさに鼓動を加速させてしまった。

突然スイッチが入ったように背中に回されていた両腕を掴むと、風音は口を離し目の前にある身体に視線を向ける。
心拍数が上昇しているのが、自身でもわかった。しかし、やはり風音にはどうしようもできなかった。

執務室の静かさ、暗さ、目の前で誘う艶美な身体。
全てが、彼の行動を後押ししてしまった。

「……後悔しないでね」
「付き合え、望むところだ」

風音の身体からは、ゾクゾクするほどのフェロモンが放出されている。それに気づいたマナは、挑発するかのような視線でその身体を捉えた。

「仰せのままに」

そう返答した彼は、いつもの眠そうな表情が消え男の顔になる。


          

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