純白の魔法少女はその身を紅く染め直す

細木あすか

9:金魚玉から飛び出た人魚は自由を手に入れる①




「すごい!」
「綺麗……」
「写真撮っても良い?」
「……」

5人は、黒井と真鳥に連れられてカンダン地方へとやってきていた。季節は夏であるのに、そこには紅葉が広がっている。
上ももちろんだが、すごいのは地面。まるで、絨毯のように綺麗な紅葉が敷き詰められている。その美しさにはしゃぐまことたちが、各々スマホのカメラを取り出し写真を撮っていた。
そんな中、ユキは珍しく大人しくしている。何かに集中するかのように前を向き、事情を知らない人から見たらその光景に感動しているように見えただろう。しかし、そうではないとわかっている風音は少々心配するような視線を彼に向ける。

「どうぞ。この紅葉は、SNSでも人気で。もう少しで世界遺産に登録されるレベルなんですよ」
「これ目的で観光する人もいるくらいです!」

カンダン地方の紅葉は、魔法によって管理されているため年中観れる。紅葉=秋と思っていたメンバーたちがその光景にはしゃぐのも無理はない。
余談だが、ザンカン国と若干名前が似ているため、間違ってそっちに行ってしまう人が後を絶たない。何か対策が必要なのだが、今の所何もする気はないらしい。世界遺産に認定されたら、その辺の整備などで忙しくなりそうだ。

「そうなんですね」
「これだけ綺麗だったら、ずっと観てられそう」
「そう言っていただけると嬉しいです」

真鳥もこの景色が好きなようで、褒め言葉に口角が上がっている。
紅葉の絨毯は、どれも赤く、また、黄色い。どうやら、枯れ葉にならないよう魔法をかけられているようだった。

「……綺麗だね。デートスポットにもなりそう」

ユキも、やっと会話に混ざった。その表情は、綺麗な景色を見ているものではない。少々眉間にしわを寄せてイラついている。とはいえ、それに気づいた人はいないだろう。そのくらい、微妙な表情だった。

「(どうだったの?)」
「……」

そんなユキの変化に気づいた風音がテレパシーを送るも、返事はない。代わりに、誰もいない後ろをチラッと見てユキはその言葉を無視した。教えてくれないらしい。それがわかった風音は、小さくため息をつく。
そして、ユキは

「へえ、これ手じゃ触れないんだ」

話題を変えるようにかがんで、目の前紅葉を手にとった。それは、すぐに彼の温度で雪の結晶のように溶けてしまう。

「そうなんです、踏めるけど触れない仕組みなんです。持ち帰れないから、みんな写真に撮ってSNSで拡散されて人がくるってのを見越してるらしいですよ」
「この魔法は、皇帝代理が独自でやっているもので。こうやって、彼はタイルの国を変えようと頑張ってるんです」
「タイルって、物騒なイメージあったけど。こういう観光地もあったんですね」
「そうなんですよ!犯罪が絶えないのは否定できませんが……」
「……大変なんですね」

魔警の2人も、この物騒な現状を変えたいらしい。だからこそ、皇帝代理を慕っているのか。彼の話題が出ると、誇らしげな表情になって説明してくる。
少々しんみりしてしまったのを感じ取った黒井が、

「YUKIさまもこういうところ好きなんですか?」
「好きだけど、……みんなには内緒ね☆」

と聞くと、無駄に色気を出して返すユキ。ウィンクも忘れないところを見ると、サービス精神旺盛なのか。少々、風音は寒気を覚えたのだが、

「は、ひゃい!」
「かっこいい……」
「わかる……」

黒井にとっては、威力は抜群だったらしい。感動しすぎたのかなんなのか、舌を噛んで涙を浮かばせている。
なお、その隣でゆり恵の表情も溶けきっていることも記載しておこう。

「こちらに、甘味屋もあるんです。めちゃくちゃ甘いところで有名なんですが、寄って行きますか?」
「行きます」
「……!?」

そんな2人を笑いつつ、真鳥が提案をしてきた。
それに、間髪入れずに返事をする風音。一瞬気が緩んだのか、かなりの量のフェロモンがダダ漏れになってしまった。相当、甘いものが好きらしい。
それを見た黒井が、とうとう鼻血を出した!……いや、ゆり恵もか。なんだか、2人に似たものを感じてしまう。急いで、早苗がそんな2人にティッシュとハンカチを渡す。

「先生、甘いもの大好きなんだよねー」
「……好き」

と、ユキの言葉に頷く風音。目元だけでも嬉しそうな表情が伺えるためか、それを見た黒井&ゆり恵コンビが即座に撃沈した。目を回して、紅葉の絨毯の上に倒れ込んでいる。……忙しい人たちだ。

「俺も好きー。和菓子も洋菓子もなんでも食べる」
「よかったです。色々あるので、お好きなものを選んでください」
「わーい!」

と、気絶している2人を置いて話は進む。
そのまま雑に黒井を引きずった真鳥が、甘味屋へと案内するため歩き出す。ユキがゆり恵を抱いて、それに続く。

「楽しみ」

護衛任務を受けているはずだが、思いがけない休憩に心を踊らせるまことと早苗。風音も、ご機嫌なのかニコニコしている。きっと、気絶している2人が見たら大変なことになっていただろうな。


***


それを、後ろから覗くサツキ。その視線は、風音に向けられていた。
薬の副作用だろうか、いつの間にか身長が伸び大人の姿になっていた。少々着ている服装がきついが、動けないほどではない。それよりも、彼を視界に入れるたびに痛む胸の方がずっとずっと気になっていた。

「……うぅ」

その痛みが、なぜ感じているのか自分でもわかっていない様子。
痛い。痛い。ただただ、痛い。
サツキは、その痛みでどうにかなってしまいそうだった。組織の命令通り襲撃をかけようと思ったが、それに邪魔されてできなかった。

「……どうして。なんで、私はいつも」

自分の胸に聞いても、答えは出ない。劣等感を覚えるも、やはり胸の痛みには勝てない。

「……薬が切れてきているのかしら」

胸をさするも、特に身体が縮むこともない。しかし、先ほどのような不快感はいつの間にか消えていた。
先ほど衝動で殺してしまった小鳥が頭をよぎり、涙をこぼす。殺生の嫌いな彼女が、望んでいなかった行動だったのだろう。手を握って開いて、必死にその感覚を消そうとしていた。

「ごめんなさい……。私は……いつも操り人形」

その涙が、紅葉の絨毯の上へと滴り落ちる。しかし、その様子を見ている人はいない。
サツキは、涙を袖で拭くとユキたちが消えた方へと歩き出す。


          

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