純白の魔法少女はその身を紅く染め直す
10:交差する生死①
「範囲爆破強化!」
突如現れた味方、灰アカネによって戦況が変化した。それは、1対多勢にも関わらず圧倒的に「1」が強い。とはいえ、その「1」には影も加わっているので「2」か。爆破攻撃の派手さに目を奪われがちになるので、どうしてもアカネしか見えない。それは、「光」と「影」の対照的な存在にも関係していそうだ。
姿を見せる光と、姿を隠す影。双方、レンジュの特殊部隊の一員でありその戦闘能力は国のお墨付き。彼らが来れば、とりあえず安心できると思ってもそれは間違いではない。
「……光と影がいる」
その光景を見ていたまことは、そう呟いた。
目の前で繰り広げられている命のやりとりに圧倒され、敵がなぎ倒されている光景が恐怖を感じさせない。それは、隣にいた吉良とユイも同じ様子。懸命にその動きを目で追っていた。
白い彼は、真っ直ぐに長刀をふるい敵を次々を散らせていく。横からの攻撃に弱いはずのそれは、決して隙を見せない。脇差も上手に使い応戦している。
「大丈夫?」
「ああ。俺らは、このレベルまでいかないといけない……」
吉良の目線は、光と影を追っていた。心配そうに声をかけたまことの言葉をあまり聞いていない様子。とはいえ、その気持ちが十二分にわかるまことはそのまま同じ方を向くだけにとどまった。
「……そうだね」
まことも、同じ気持ちだ。盗める技術は、今のうちに盗んでおきたい。が、その圧倒的な力の差に、自身の魔力不足をひしひしと感じることは避けられない。
、真剣な目で彼らを追っている吉良を見て視線を戻す。自分たちが出る幕は、ない。
「グアア!」
「やめ、……!」
「……?」
ふと、アカネの瞳に目がいったまこと。その目は、真っ赤に染まっていた。真紅よりももっともっと深く、それはワインレッドを連想させてくる。引き込まれそうな赤に、息が止まる。
先ほどまでは、黒かったはず。そう思って二度見するが、その色は変わらない。恍惚の境地に立って、その輝きを見ていた。
ユイはと言うと……。
「先生」
「……」
武井の傷口から、毒を抜き取っている。緑色の小さな光を両手に宿し、懸命にその光を守っていた。顔色が真っ青だ。魔力が足りないのだろう。
それに気づき近寄るが、癒術をうまく使えないまことは為す術もない。目を瞑る武井と、冷や汗を出しながらも担当を救おうと必死になっているユイを見ていることしかできない。
「シールド展開」
「……ありがとう」
せめて、2人に攻撃が当たらないように。そう思ったまことは、医療に専念しているユイを中心にその周りにシールドをたてた。
すると、少し苦しそうにしながらユイがお礼を口にする。とはいえ、その言葉は弱々しい。今にでも気絶してしまうのではないか、と聞いている人をハラハラさせるほど。その後ろでは、吉良が懸命にユイへ魔力譲渡をかけている。
「(こんなことしかできない……)」
悔しい、悔しい、悔しい。
まことは、その様子を見ながら自身の手のひらで魔力残量を確認した。
先ほどの「水龍」と、今のシールドでほとんどの魔力を消費してしまっていた。他人に譲渡できるほど、余っていない。それは、いくら確認しても変わらず、シールドもせいぜい数十分保てば良い方だろうと教えてくれる。
いくら、机上で優秀でも緊急時に使えなければ意味はないのだ。まことは、唇をギュッと噛みしめる。すると、
「真田、頑張ったな」
「……先生」
「ユイだっけ。代わるよ」
ふいに後ろから、頭へ手を置かれた。まことは、驚きながらその方向へ振り返る。
それは、風音だった。先ほどと同じ調子、いつものガスマスク姿で立っている。
彼は、ユイの肩を叩きそのまま後ろに下がらせた。
「……風音先生、武井先生が」
「わかったよ。ありがと」
限界だったのだろう。
その言葉を発すると、ユイの全身の力がフッと抜けそのまま倒れてしまった。それを素早くキャッチするまことと吉良。
「ユイのこと、頼んだよ」
「はい!」
まことは、そのまま自分たちの周りにかけていたシールドを強化した。自分だって、誰かの役に立てる。それを、証明するために。
「ありがとうな」
「こんなことしかできないけど……」
「……」
強化魔法であるオレンジ色の光を発していると、吉良がお礼を言ってきた。彼も、毒にやられほとんど魔力が残っていない様子。あまり無理はさせられない。
まことが返事をすると、一瞬だけ彼が眉間のシワを寄せた。しかし、集中しているまことはそれに気づかなかない。
シールドは、アカネと敵の攻撃の火花から守ってくれる。
ここにいれば、終わる。今はまだ、彼にとってこれが精一杯。
「……」
「……人が死んでるのに、綺麗だなんて。俺はおかしいのかな」
「僕もそう思う。……綺麗だって。すごく」
「そうか……。同じやつがいてよかったよ」
まことは、吉良と一緒に光と影が戦う姿をシールドの中から見つめた。
相変わらず、アカネは真っ赤な瞳で敵を斬り倒していく。それを補佐する影……ユキも負けていない。息のぴったり合った攻撃は、どこか美しく儚げに見ている人へと映る。
「…… (悔しい)」
しかし、胸の奥に引っかかっているその思いだけは、まことの中から消えそうにない。
***
「……雲行きがあやしいな」
住民の避難を誘導していたマナが、急につぶやく。
ゆり恵たちを追ってきた彼女は、そのまま市街に出向き住民の誘導に手を貸していた。いくら他の魔法使いたちが「隠れていて」と彼女に言うも、言うことを聞かずこうやって指示出しを徹底させている。
その様子を見た人々は、諦めて避難を優先させていた。その光景を見ただけで、彼女が国民に慕われているのがわかる。
「皇帝、どうしました?」
「いや、大丈夫だ」
早苗が、マナの様子に気づいた。ゆり恵は、その心配そうな声に反応して皇帝の顔を覗く。
すると、マナが同時に2人の頭を撫で上げる。それは、安心感を与えてくれる。しかし、
「……」
早苗は、マナの瞳を心配そうにジッと見つめていた。彼女の手が離れ、誘導に戻ってもその視線はマナに行っている。
「早苗ちゃん?」
「今行くよ」
ゆり恵の声に、ハッとする早苗。
自身の与えられた役割を全うすることに、気持ちが向いたようだ。そのまま、奥で声かけをしているミミの方へと足を運ぶ。
住民の誘導は、スムーズだった。もともと、そういう訓練が日常的に行われているらしく、パニックになる人はいない。
「こちらです」
誘導場所は、アカデミーの魔道館のような大きな建物。上級魔法使いが、建物を囲み中の安全を守っている。その中へ、住民がぞろぞろと進んでいく。今のところ、周囲に敵の気配はない。
「悪いな、少し我慢してくれ」
マナが声をかけると、住民たちが安心しきった表情になって素早く建物へと入っていく。
「食料は、入って左側のスペースにあります」
「ありがとう」
と、ミミの声が響く。魔力を使っているのだろう、どんなにざわめいていてもはっきりと聞こえる。その声にお礼を言う住民もまた立派で、文句を言う人は誰1人としていない。そのことに、ゆり恵は感心していた。
「(ユキくん、いるって言ってたのにこないな)」
ユキを探すも、その姿はまだ現れない。
          
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