純白の魔法少女はその身を紅く染め直す

細木あすか

11:探し物は失せる



「失礼します」

今宮が皇帝の部屋に入ると、そこでは「如何に絶妙なバランスで本を高く積み上げられるか」の勝負が行われていた。……皇帝と青年になったユキで。

「……もしかして、私はこのために呼ばれたのでしょうか」

現在、深夜1時を回ったところ。寝ていたところを起こされた今宮は、その光景を見ながら立ち尽くす。

「こうちゃんの下手くそ!さっきから7冊しか詰めてないじゃん」
「おぬし、ズルはいかん。さっき魔法を使ってるの見たぞ」

2人とも、今宮が来たことにすら気づいていない。あーでもないこーでもないと言いながら、本棚から出した分厚い本を積み上げていた。

「……はあ」

今宮は静かに拳を固め、力を込める。




し ば ら く お ま ち く だ さ い。





「まったく、こうちゃんったら熱中しちゃうんだもん」
「おぬしが先に始めたんじゃよ」

ソファに座る皇帝とユキの頭には、漫画のような大きなコブが。2人とも、それをさすりながらソファーに腰掛けた。

「宮よ。帰宅したところすまなかった」

やっと本題に入ったのは、2時過ぎ。それまでは、出された大量の本をしまう作業に追われていた。
怒った今宮は、遊んでいた2人に魔法禁止で執務室にある全ての本棚整理までさせてしまったのだ……。

「で、その浅谷がどうかしたんですか」

まだ怒りが収まっていない様子の今宮は、ドスンと音がしそうなほど勢いよくソファに座り2人と対面しながら、ぶっきらぼうに言い放った。

「俺の推測なんだけど、そいつは浅谷じゃないよ」

ユキは、主界にしては弱すぎたこと、袋の中身が砂糖だったことを今宮に話して聞かせた。途中、男に薬を渡していたのが八坂という教師だったことを語ると、皇帝が「あやつか!一発お見舞いしておけばよかったの」と、ぶっそうなことを言い出す始末。本当にやり兼ねない。

「なるほど……確かに、捉えた彼の供述がおかしかったんですよね。それで納得いきます」

彼は、浅谷の事情聴取に立ち会っている。もし、隣国のタイルに返すことになったら皇帝も書類を書かなければならないため。皇帝が出す書類は、どの種類をどの段階で出したのかなど詳しく記録されている。その記録も、今宮の仕事なのだ。

「ほら、魔警と麻取が警戒してんでしょう。その囮として雇われたただの下っ端なんじゃないかなぁ」

魔警と麻取は、前々からアカデミーで勧誘している麻薬組織を探している。そんなときに、しかも卒業試験の日に麻薬を取引するのだろうか。捕まえてくださいといっているようなものだ。

「下っ端と気づかずに、おぬしが倒してしまったというわけかの」
「うーん。まあ、そうなんだけど。でも、そのおかげで偽物だって気づいたんだから結果オーライ!」

皇帝とユキのやりとりを聞いているのかいないのか、今宮は黙りこくっている。何か、考え事をしているようだ。それに気づいたユキは、

「今宮さん、どうしたの?」

と、聞いた。彼は、ユキの声が聞こえていない様子。一点を集中して見ているが、きっとその瞳には何も映っていない。

「今宮さん?」

再度、ユキが呼ぶと、今宮はそれに気づく。

「はい?……あぁ、すみません」
「どうしたの?」

眉間にシワを寄せた今宮は、

「……もし本当に偽物だとすると、本物が動き回ってるんですよね」

と、ユキに言う。その意味深な発言にキョトンとしながら、

「当たり前じゃん。どうしちゃったの、急に。ボケるのはまだ早いよ、こうちゃんじゃないんだから」

さらりと、皇帝の悪口を入れるユキ。それを聞いた皇帝は、隣で苦虫をつぶしたような顔をしている。
そんな寸劇を横目に、今宮は膝に置いた手の人差し指を小刻みにトントンと動かしていた。その聞こえないはずの音が、ユキの耳には大きく聞こえてくる。

「いえ、もしかしたら本物が情報漏洩を恐れて……」

2人ともそれだけで、言わんとしていることは理解した。皇帝は、何も言わずに立ち上がると魔警にだろう、連絡を入れるため電話へと向かう。
ユキは……。

「はぁ、また髪が乱れちゃうよ」

どこから出したのか、いつもの鏡を見ていた。

「深夜起きてるだけで肌荒れもすごくなるし。こうなったら、八坂って先生に直接文句言わないと気が済まないよ」

本で遊んでたやつが、何を言う。
連絡をし終えた皇帝が、厳しい顔をして戻ってきた。その表情を読み取ったのか、今宮が

「遅かったんですね」

と、声をかける。

「うぬ、気づいたら死んでいたそうじゃ。大きな外傷がないらしく、解剖にまわすとのことじゃったわい」
「では、その時に人物の特定もさせましょう。死体が残ってるので、何かわかるでしょう」
「頼んだ。魔法省には、わしから連絡を入れておこう」
「お願いいたします」

そういうと、今宮はサッと立ち上がった。

「このまま、魔警本部へ向かいます」

皇帝が頷くのを見るや否や、今宮はキビキビとした動きで入口へと消えていった。彼が居なくなると、ユキは

「よし、じゃぁ本積みの続きを」
「わしは明日……今日か。下界チームの作成でこれから綾乃先生と話し合いじゃ」

ことごとく、その提案は却下される。しかも、頭のコブをさすりながら。相当痛かったに違いない。

「じゃぁ、今日のチーム分けに備えて寝ますかー」

ユキは、潔く諦め立ち上がると伸びをする。皇帝が身支度を整えているのを横目に、

「おやすみなさーい」

と言いながら素直に部屋を出た。
そろそろ寝ないと、本当に遅刻する。

「遅刻するでないぞ」

皇帝の言葉を聞いたのか、聞いてないのか。ユキの返事は聞こえない。

          

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