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不遇の魔道具師と星の王

緑野 りぃとる

第45話 美女、再び

 早朝、俺は朝から冒険者ギルドへ訪れていた。今日は父が騎士団の仕事で朝から家を出ていたので、槍術の訓練をつけてもらえる相手がおらずやることが無かったのだ。

 せっかくならいつもよりたくさんの依頼を受けて経験と小銭を積んでおこうと思ったのだ。俺はそう遠くないうちにこの家から出て自立しようと思っていたので、そのためのちょっとした貯金をしたかった。

 家はあるし、家に帰ればタダでご飯が出てくるので、日ごろからお金はあまり使っていないのでかなりの額の貯金はあるのだが、どうしても前世に比べればお金はなかったため少しばかり懐に寂しさを感じていたのだ。

 今日も依頼が張られている掲示板から、迷宮の中間層あたりでクリアできるものを三つほど選んで依頼書を剥がしてズボンのポケットに突っ込む。曲がりなりにも魔道具師なので、ズボンのポケットだけに限らず、服のいたるところにあるポケットや肩にかけているポーチにも拡張の術式を刻んで簡易的な収納の魔道具として使っている。

 大きさはそこまで大きくないが、普通に冒険者として活動するのに不便さは覚えていない。前世のように大量の魔道具を持ち運んでいるわけでもないので、荷物がそもそも少ないのだ。必要になれば現地で薬を調合するなり魔法で何とかするなりできるので本当に荷物がいらないのだ。

 意気揚々とギルドを出て迷宮に向かおうとする俺。ヘルメスの町を出るまでは気が付かなかったのだが、町を出て平原を走っていると誰かが俺のことを追いかけているように走っているのが見えた。

 あくまでも気が付かないふりをしながら《星賢者》に誰が追いかけているか確かめさせたところ、昨日たまたま通りかかって男たちから助け出した桃色の髪の女性だった。特に悪意を持って追いかけているわけではないようなので振り返ることなく迷宮へと入ることにする。

 同じ冒険者をしているのだから迷宮までの道が被ることなどいくらでもあるだろう。俺はそう思ってそそくさと《ヘルメスの迷宮》第3層に潜ったのだった。


~~~~~~~~

 私はイリス。今日は昨日、私のことを助けてくれただけでなく家の掃除と夕食の用意をしてくれたという神様のような冒険者さんにお礼がしたくて冒険者ギルドに来ていた。すっかり顔なじみになっているカウンターの受付嬢さんに昨日私のことを家まで運んでくれた冒険者さんのことを聞いたのだが、彼女らも詳しくは知らないらしい。

 なんでも、一人でさっさと依頼を受けて達成報告を出して酒場に入るでもなくすぐに帰ってしまうような人だそうだ。一応冒険者であることに違いはないので名前の登録はしてあるのだが、あまりにもギルドに顔を出す時間が短すぎるので名前と顔が一致しないそうだ。

 私はギルドであまり情報を得られなかったことにちょっぴりがっかりしていると、昨日すぐそばで嗅いだ汗臭くない、清潔な男の人のにおいがした。まさかと思って辺りを見渡すと、確かに昨日私のことを助けてくれた青年らしき人がクエストボードの前に立っていた。

 私は青年のほうに向かって歩き出したのだが、青年はあっという間に三枚ほどクエストの書かれた紙をボードから外してあっという間にギルドから出て行ってしまった。

 慌てて彼の後を追いかけていくのだが、なかなかに彼の歩く速度が速く、朝の人込みということもあって彼に近づくことができなかった。町を出ればすぐに追いつけるだろうと思って頑張って人込みをかけ分けつつついていったのだが、彼は町を出た途端駆け足で迷宮の咆哮へと行ってしまった。

 しかもその走る速度が尋常ではなく、ずっと全力で走り続けても追いつけなかった。彼はそこまで足の回転が速いわけではないのだが、一歩一歩の跳躍力がすさまじく、一歩で3メルくらい進んでしまうので、どんどん間を離されてしまった。

 私が迷宮に着くころには、青年の姿はもう見えなくなってしまっていた。仕方がないので、迷宮の安全地帯で魔法の練習をしながら待っていることにした。私は炎魔法と風魔法に適性があり、ほかの属性魔法も使えるのだがどうせなら特異なものを伸ばしたほうが手っ取り早いと思ってその二つしか訓練していない。

 それがいいのか悪いのかはわからないが、炎と風魔法だけなら中級魔法まで使うことができる。たまたま生まれ持った能力のおかげで詠唱を省略することもできるため剣で戦いながらも魔法が使えるのだが、詠唱を省略するにはその魔法を使い込まないといけないため、毎日のように初級から魔法を何度も詠唱しているのだ。

 今はまだ風の初級魔法《エア・バレット》と炎の初級魔法《ファイア・バレット》しか詠唱を省略できない。それでも使い込めばほかの魔法でも詠唱を省略できるようになるそうなので、今後に要期待であります。

「ふぅ、疲れたぁ。」

 もう50回を超えてきた頃から数えていない炎の下級魔法《ファイア・ジャベリン》を撃った後、私は強烈な眠気に襲われる。

 魔力の枯渇かとも思ったのだが、視界ははっきりとしているし、まだ体内に魔力がある程度残っていることを感じる。

 しかし、眠気はどんどん強くなっていき、やがて耐えられなくなって迷宮の壁に寄りかかって寝てしまうのだった。

〜〜〜〜〜

 1時間ほどかかって三つの依頼の魔物を狩り終えて迷宮の出口に向かっていると、件の安全地帯でまた例の女性が倒れていた。

 安全地帯なのにも関わらず、魔法の残滓が濃く残っており何事かと思ったが、周りに戦闘した後は残っておらず謎なままだった。

 しかし、何やら安全地帯内が臭く、少しフラフラする気がする。俺は《星賢者》にこの異臭の原因を調べさせた。

“これはおそらく炎の不完全燃焼による毒が溜まったことによる中毒症状でしょう。個体名イリス・イベラロードも中度の毒による中毒症状によって倒れているものと推測されます”

 なんと、この安全地帯の中に毒が充満しているようだ。炎の魔法を一体どれほど使えばそこまでの毒素が溜まってしまうのだろうか?

“推定で、初級の炎魔法で約270発、下級の炎魔法で215発、中級の炎魔法で150発、上級の炎魔法で120発、聖級の炎魔法で30発と思われます”

 つまり、膨大な数の炎魔法をここで使ったということなんだろう。こんなところで魔物との戦闘が起こることはありえないのでおそらくはここで魔法の練習でもしていたのだろう。それにしても、なぜ迷宮の中で練習したのだろうか?

 少なくとも迷宮の外のほうが魔法を自由に使えるだろうし、特に魔物に向かって使った様子でもなかった。本当になんで安全地帯で炎魔法をそんなに使ったのだろうか?

 ともあれ、今は考えるよりもここから彼女を迷宮の外に連れていくのと毒を迷宮の外に出すことが先だろう。俺の体の周りを風魔法で覆い、毒が体の中に入っていかないようにする。その後、彼女の体を横から抱きかかえ、迷宮を出てすぐの木の下に寝かせる。

 彼女が規則正しく息をしていることを確認して、俺はもう一度迷宮の安全地帯に戻った。そこで、毒を含む空気を風魔法で迷宮の外へと押し出していく。その中で俺は新しい対人魔法のアイデアを思いついたので、持ち運んでいるメモにアイデアを書き付けた。

 毒が完全に外に出ているのか《星賢者》に確認してもらい、もう人が入っても問題ないことを確認して俺は迷宮をあとにした。

 俺が迷宮を出たあとも彼女は目を覚ましておらず、顔色も優れない様子だったので、昨日と同じように彼女の家まで送り届けることにしたのだった。

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