異世界スローライフ~境界の魔法使い~

本庄

お茶会とライセンス

 今日は屋敷にキャロルを呼んでお茶会を開く事になった。

「お菓子も作れるなんて、凄いですねリゼさん」

「ザイン君もやれば出来ますよ。分量を守ってるだけですから」

 ふむ、いつか時間がある時にお菓子作りを習うのもいいかもしれない。

「最近はどう? 変わった事とかある?」

「アストナークでは何も無いのですが……王都の方ではそうでも無いらしいですわ」

「エンデル王国で?」

「神格反対派に動きがあるらしくて……人の国は人が統治するべきだと……」

 古くから人は神格、神と悪魔に手助けされながら生活を送っている。知識や助言を受け、人間は信仰として彼らに還す。

 人と神格は支え合いながら生きているが、それを是と取らない者も居るのが今の時世だ。

「戦いになりそうなのか?」

「今は何とも……ただ、可能性があるというだけですわ」

「戦う……みんな、戦うの?」

 ロウの言葉にソファへ掛ける俺達はハッとさせられる。

「あらあら、いけませんでしたわ。お菓子を頂きながらする様な話ではありませんね」

 会話が一度止まり、ここが好機だろうとレオナはおもむろに懐を探り出す。

「ふっふっふー、見て下さいよコレ! アタシ、B級冒険者に昇格しちゃったんですよー!」

「あら、もう昇格したんですの? この間C級に上がったと言っていましたのに」

「まあねー、アタシともなればこの程度は余裕っていうかー、ガンガン稼がなきゃだしー」

「すごいなレオナは……そうか……冒険者か……」

 家主でありながら、金銭的な収入がまるで無い自身の立場に冷や汗を掻きながら思案する。

「俺は魔法屋でも開こうかなって思ってたんだけどさ……そうか……冒険者なら依頼ですぐに稼げるのか……」

「先生なら余裕だと思いますよ? 採取依頼だって一瞬ですよね」

「そうだよな……俺もそろそろ働かないと……」

 このまま収入が無ければ貯金もいずれ底を尽いてしまう。早々に収入源を確保しなければならない。

「お金を稼ぐのでしたら騎士団はどうですか? 団長もお待ちしていますよ?」

「いやぁ……それは……」

「騎士団なんて駄目ですよ! それに冒険者は団員を拘束する事も無いですよ! 隙間時間たっぷりです!」

「き、騎士団だってそこまでの拘束は……ぼ、冒険者と違って収入は安定していますよ? 福利厚生だって充実していますし……」

「まあ……そもそもあの団長が居るからなぁ……ちょっと絡み辛いし」

「シルヴィア団長も基本的には良い人なんですよ……? ちょっと周りが見えなくなるだけで……」

「ちょっとキャロルー、先生を勧誘しないでよねー。先生はアタシと冒険者になるんだから!」

「確かにな……依頼を受けるだけでいいなら時間も作り放題だし……ライセンスの発行って時間かかるか?」

「すぐですよ、専用の魔法具に触るだけで発行出来ます。一分もあれば冒険者の仲間入りです!」

 ふむ……そう考えれば確かに冒険者にでもなって適当に依頼をこなすのが適していると思われる。

「明日にでも見に行ってみるかな」

「それなら今から行きませんか! 善は急げですよ!」

「いやいや、キャロルが来てるだろ。今はお茶会をだな……」

「いえ、私も見てみたいです。ザインさんのライセンス。どんな魔法が使えるのか気になりますもの!」

「ああ、そっか。ライセンスってそんな事まで見れるのか……」

 キャロルもこう言ってくれている訳だし、良い機会だから見るだけ見てみようかな。

 すぐに支度をし、レオナとキャロルと一緒に冒険者ギルドの前までやってきた。

「うちの団長も紹介しますよ。少しクセがありますけど、良い人ですよ」

「へぇ、それは楽しみだ……とは言っても、あんまり関わる事も無さそうだけどな」

 ただ仕事を受けて、報酬を貰う。俺とギルドの関係なんて築けてもその程度だろう。

「まあお世話にはなるし、きちんと挨拶を――――」

「こんの糞ボケ共がァァァァッ!! 喧嘩は外でやりやがれェェェッ!!」

 冒険者ギルドの前までやって来た瞬間、木扉と二人の男が吹き飛んでくる。土煙が立ち込めるが、通行人はまるで驚いていない様子。顔面には綺麗な足跡が残り、蹴られて吹き飛ばされたのだと理解出来た。

「あっ、ダンチョー! 新入りを連れて来ましたぜェ!」

「ゼェ……? 何だその似非海賊風の語尾は……」

「んあ、おおうレオナじゃねぇか! シルヴィアんトコのガキと……そこのヒョロガリが新入りか?」

 野太い声と共に土煙が晴れる。赤茶色の頭髪に黒いハット、黒い海賊風のコートを靡かせた大男が姿を現す。

「冒険者ギルド『疾風迅雷』団長、エイプリル・キールグッド! よろしく頼むぜ、小僧!」

「イエェイ! アイアイキャプテーン!」

 ――――この街には変人しか居ないのか。

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