お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………
024★《気》って何だ?
「……人間の…身体から……
常時…放たれて……いる
《生気》の…コトだ………
……《オーラ》とも呼ぶモノ」
ぼつぼつと、それこそたった今、口にした《生気》のカケラも無いような、うつろな表情で答える桜に、和輝なりの解釈をする。
ようするに…それって……
貧血と一緒ってことかよ
身体の持つエネルギーを
限界以上に使っちまった
っていうコトだな
まぁ…あのデカイ犬2頭に
引き摺られて………
遠距離の強制マラソン…
させられたんじゃ………
しょうがないかな?
「桜…気休めに点滴するか?
病院は閉院しちまったけど
一応、使える点滴まだあるし」
和輝からの言葉に、桜はユルユルと首を振る。
「そんなモノは…効かない……
紅夜や白夜兄ぃ様が側にいたら
《気》を…わけてもらえる…のに…
すごく…だるい…妙に…眠い………
倦怠感に…意識まで…呑まれ…そう」
判断力の落ちきっている桜からの意味のわからない言葉に、和輝は困惑する。
が、転んだコトで、ズルリッと皮膚が酷く剥け、その皮膚と共に肉も抉られたような状態になっていたはずのヒザの傷口が、既に薄皮が出来始めているコトに和輝は気付いた。
ぅん? ………ヒザの傷口…
治癒し始めているのか?
うわぁ~…ヒザの抉れたところ
肉が盛り上がって来てるじゃん
もう、ほぼ通常状態になってる
その上で、傷口を保護治癒する
仮の皮膚としての血小板混じりの
白血球が乾燥した…カサブタ……
じゃなく…もう本物の薄皮が……
出来始めているのか目
もしかして、ヒジや手の甲もかよ?
よくよく注意して見れば、ズルリッとヒジ全体の皮膚が盛大に剥けていたはずの桜のヒジの傷口は、ヒザ同様、既に薄皮が出来上がった状態だった。
勿論、1番軽症だろう手首から小指にかけて、手のひらと甲の半分を擦り剥いていた手の傷口は、ほぼ完璧に薄皮ができあがった状態だった。
その3ヶ所をは、まるで生まれたばかりの赤ちゃんのような肌合いを持っていた。
そっか…たまに居るんだよなぁ……
こういう特異体質のヤツって………
本来は、日常の生命活動に使う分の
生命エネルギーを、怪我の治癒に
使っちまったんだな
こりゃ~…桜のヤツ…ほとんど……
トランス状態だな
こういう人間に…桜風に言うと
《気》を分け与えるっていうのは
どうすれば良かったんだっけ?
たぶん紅夜が恋人かなんかだろう
白夜って言うのが兄のようだから
身内しか出来ないのかな?
ここでひとり悩むよりも
直接本人に聞いた方が早いな
「桜……その…普段は恋人や
兄貴から《気》をもらうのに
どうやってもらってるんだ?
他人の俺でも出来るのか?
俺に出来る方法なら………
その《気》ってヤツを
分けてやるけど………」
その時の和輝は、それが不用意な発言であるとは気付かなかった。
ただ、トランス状態にまでなってしまった桜が可哀想で、出た発言だった。
飢餓状態に陥った桜は、和輝からの優しく労わりのある言葉と、柔らかい《生気》の波動につられてしまう。
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