お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

ブラックベリィ

018★とりあえずヒジの布が外れました


 その会話を漏れ聞いていた和輝が付け足す。

 「迷ったら………町の………
  カンザキ医院って聞けば
  わかると思うぞ

  ちなみに、神様の神に
  花が咲くの咲くって書いて
  神咲って言うんだわ

  今は親父が死んじまったから
  閉院しちまったけどな
  2ケ月前まで営業してたから……」

 和輝の言葉に、桜は頷く。

 「………だそうだから
  桜が言ったモノを
  用意して来て欲しいの

  あぁ……紅夜(こうや)や……
  白夜兄ぃ様には、私が散歩で
  転んだコトは連絡しなくて良いわ」

 『はい…では、用意が整いしだい
  そちらに伺います』

 「あぁ…近くに来たら
  連絡してちょうだい……」

 そう言って、桜はスマホを切った。

 「桜、何か重要な話しでも
  していたのか?」

 ヒザに乗せたタオルを剥がし、ヒザの傷口に出血で張り付いた布が、ぬるま湯でふやけて、痛み無しで剥がれるかどうか、確認しながら聞く。

 ん~……もう少しかな?
 ヒジは直接洗面器のぬるま湯に
 直接浸けた方が早いかも………

 ヒザの傷口を見ていた和輝は、タオルにぬるま湯をもう1度含ませて、ヒザに乗せる。
 和輝の動作を視線で追いながら、桜は当たりさわりない言葉を選んで答える。

 「私が現在何処にいるのかと………
  心配性の爺やから連絡が来たの

  予定の何時もの散歩コースから
  かなり外れてしまい
  遠くまで来てしまったから………

  帰宅が遅いから心配したらしい」

 そりゃ~…普通心配するって……
 こぉ~んなにデカイい犬を
 桜みたいな小柄の女の子が
 1人で2頭も連れて散歩に出たらさ

 「そっか……それはそうと………
  ヒジは、直接洗面器のぬるま湯に
  浸けた方が良いな

  ふやけて、自然に布が剥がれた方が
  痛みが少なくて良さそうだな

  どちらかと言うと、傷口が軽症の
  右ヒジから浸けるぞ」

 「理解(わか)った………
  そっとやってね」

 言葉少なくなに答える桜の右ヒジを、和輝は洗面器を持ち上げてぬるま湯に浸す。
 ぴりりと来る痛みに眉をしかめる桜をよそに、和輝は片手で洗面器を支えながら、ヒザに乗せたタオルを持ち上げて、ふやけ具合を確認する。

 乾ききった血痕は充分にふやけて、タオルに吸い取られ、張り付いていた布がズレる。

 よしよし………ヒザは大丈夫だな
 ヒジの布が取れたら…ヒザの方も
 ソッと剥がしてやろう。

 直接ぬるま湯に浸けたセイか?右ヒジの布が2枚一緒に、洗面器のぬるま湯の中へとハラリと落ちる。

 「ン…取れたな……んじゃ………
  このまま左ヒジも同じように
  ぬるま湯に浸けて剥がすぞ」

 「あぁ…頼む」

 頷く桜の左側にまわり、和輝は左ヒジを洗面器のぬるま湯に浸ける。
 が、今度は簡単に自然と剥がれ落ちなかった。

 浸けたぬるま湯の温度が
 下がり過ぎたセイかな?

 それとも、左のヒジは
 出血が多すぎたセイで
 ふやけに時間がかかるのかな?

 そう思いつつも、和輝は桜の左ヒジをぬるま湯に浸け続けた。
 しばらくすると、右ヒジの時よりも、かなり時間はかかったものの、右ヒジの時と同様に、もうぬるま湯とは呼べない洗面器の中の中に、ハラリとこちらも布が2枚一緒に落ちた。






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