お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

ブラックベリィ

015★とにかく治療開始


 和輝が新しいバイトに思いをはせている間、桜はずぅーんと落ち込んでいた。

 嗚呼…どうしよう……
 こんな怪我をしてしまっては
 言い訳ができない………

 白夜兄ぃ様に……いや、爺やに
 迷惑をかけてとまうなぁ………
 本気で、どうしよう……

 幸い、和輝は気が良い人のようだから
 私がミスさえしなければ、大丈夫だ

 しばらく無言のまま珈琲タイムを楽しんだ2人は、同時に溜め息を吐く。

 「ありがとう……和輝…
  甘くて美味しかった」

 素直にお礼を言って、空になった珈琲カップを和輝に手渡す。

 「どういたしまして………」

 先に飲み終わった和輝は、桜の珈琲カップを受け取り台所へと運ぶ。
 そのついでに、ほぼ綺麗に飲み干していた2つのボウルも回収する。
 すぐに台所から帰って来た和輝は、裁縫箱から先程その存在を確認した裁ち鋏みを取り出して、桜に言う。

 「んじゃま、まず上着の方を
  切っちまうぞ」

 「ああ、わかった
  右側から切るのか?
  それとも、左からか?」

 桜の問いかけに、和輝は首を傾げてから、怪我の状態がより酷い左側に鋏みを入れるコトにした。

 「それじゃ、左袖から切るぞ
  こっちの方が酷いからな」

 左側は〈レイ〉を繋いでいた方だ
 もしかして…私は…左側から……
 思いっきりコケたのか?
 うぅ~……あの時の記憶が無い

 沈黙する桜を気にするコトもなく、和輝はためらうことなく裁ち鋏みを入れる。
 最初に、傷口付近のデニムを摘み上げ、傷口に付着した周辺だけを上着から切り離す。
 上着を脱がせる時、無理に傷口からデニムを引き剥がしたりしないようにする為である。

 左右のヒジの部分を切り取った和輝は、今度はジョキッジョキッと左の襟口付近から、左の袖口に向けて切り下ろした。
 乾いた血で付着している傷口周辺のデニムを残して、和輝は桜の上着を上半身からソッと取り除く。

 よし、上着のデニムはOK
 次はTシャツだな………
 ぅん? これって綿だよなぁ

 そこで桜のTシャツをさり気なく確認する。

 「とりあえず、デニムの上着は
  外せたから…次きTシャツな」

 あぁ…エジプト綿だコレ…って?
 あれ? インド綿よりも
 エジプト綿の方が高かったような……
 じゃなくてさっさとやっちまおう

 和輝は、Tシャツもデニムの上着と同様に、出血によって乾いて引っ付いているヒジの周辺を切り取り、左右の襟口から袖口まで綺麗に切り取った。
 そして、スッとどこにも引っ掛けないように、Tシャツを取り除く。

 よし、上はコレでOK
 次は…足だな
 ズボンを脱がすの大変そう

 「上着とTシャツは脱がせたから
  次はズボンだな

  先に、ズボンも同じように
  切っちまうぞ

 とりあえず、出血した血が乾いて
 傷口にくっついちまってる布は……

 水で濡らして、ソッと剥がした方が
 痛みも少ないだろう

 和輝からの確認の言葉に、裁ち鋏みで布を切られる微かな振動からの痛みに、涙を滲ませていた桜は、黙って頷く。

 「そんじゃ…桜…立ってくれ
  ズボンも同じように切るから…

  ヒジの時と同じように
  傷口周辺だけ布を残すぞ」





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