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お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

ブラックベリィ

003★取り敢えず、2頭の犬を止めよう



 2頭の大きなボルゾイに引きられた黒髪の小柄こがらな少女が、和輝かずきの側を半分すっ転びながら走り抜けようとした。

 2頭のボルゾイが眼前に迫ったまさにその時。
 和輝かずきは少女が呼んでいたいぬの名を、威圧の有る声で鋭く呼び、命令する。

「〈レイ〉…〈サラ〉…ストップ……ステイッ……」

 和輝かずきの強い命令に反応した2頭は、ピタッとその場に立ち止まった。
 そして、ハッハッハッハッと息を荒くしたまま、それでいて『すごく楽しかったの』とでも言うような姿で、和輝かずきの前に立ち止まる。

 本当は、徐々にスピード落とすようにして、止めるもんなんだよなぁ
 こんな風に、強制的にピタット止めるの良くないけど

 流石に、飼い主の少女の方が限界だろうからなぁ………
 もう、命令を叫ぶコトもできなくなっているし

 そんな風に思う和輝かずきに、2頭のボルゾイは、自分達に命令した相手である、和輝かずきへと顔を向ける。
 その視線を感じて、和輝かずきは強い意思は込めるが、柔らかい口調で命令する。

「スィットゥ」

 勿論、意思が通じやすいように、目の前で掌を下に押すジェスチャーを加えながら、お座りするコトを命令する。
 その和輝かずきの命令に、2頭のボルゾイはエヘラッと笑いながら、ストンッとお座りをして見せる。

 その2頭のボルゾイのお座り姿は、飼い主の惨状を見なければ、大きさに比してかなり愛らしい姿だった。
 そう、飼い主である少女のボロボロの姿を見なかったら………。

 和輝かずきの前にちょこんとお座りして、御満悦という表情でハッハッと荒い息をしているボルゾイの姿に、盛大に溜め息を吐く。

 どこからどう見ても、飼い主である少女の命令を盛大に無視して、2頭のボルゾイが気持ち良く走って来たと理解わかる姿に、和輝かずきは眉をひそめる。

 なまじ、走ったコトであがった、体内の熱を発散する為に、半開きの口から長い舌をベロリンと出したまま、えへらえへら笑いでもしているかのような、甘ったれた顔をして、自分を見ているからなおさらである。

 ストップの号令をかけた和輝かずきの前で、2頭のボルゾイは少し胸張りしながら、私達って良い子でしょ………とばかりに、ちょこんとお行儀良くお座りのポーズを維持する。

 遠巻きに少女が引きられている姿をていた大人達が、お座りした2頭の綺麗ないぬであるボルゾイと和輝かずきに、好奇心もあらわに、にじり寄って来る。

 が、やっとボルゾイ2頭に引っ張りまわされるという、強制マラソンから解放された少女は、ドッと来た疲労感に負けて、ぺたっと道路に座り込んでしまった。

 ゼイゼイと荒い呼吸を繰り返しながら、少女は震える自分の身体を抱き締めていた。

 そんな自分のコトで手一杯な少女は、好奇心満々の視線に気付く余裕は無かった。

 勿論、何故か教師に目をつけられ、ことごとく難癖をつけられ続けた和輝かずきも、ある意味で他人の視線に鈍い為に、そんな周辺の状況変化や好奇心に満ちた視線に気付かなかった。

 2頭のボルゾイがおとなしく座っているコトを確認した和輝かずきは、取り敢えず、ありきたりなセリフだと自分でも思いながら、少女に声を掛けた。

「よぉ……大丈夫かぁ?」

 ゼイゼイしながらも、なんとか顔を上げた少女に手を貸してやりながら、はさりげなく少女の全身を観察する。

 うわぁ~い……この子…いったい…どんだけ引きられてきたんだぁ?
 引き綱を握っていた手の甲…両手ともかなり擦り剥けてるじゃん

 うげぇ~……なんだよ、ヒジもかよ……かなり痛そうだな
 ジャケットのヒジ辺りが盛大に破けて……結構な穴が開いているぞ

 だぁぁぁ~……擦り傷からは…かなりの出血しているじゃねぇ~か

 あ~ぁ…膝が一番酷いかな?
 表皮が擦り切れてるだけじゃなく…肉まで抉れてやがる

 ズボンもジャケットも…結構丈夫なデニムだよなぁ?
 ここまで穴が開くなんて…どんな走り方…っていうか…転び方したんだ?

 結構、酷いな……表皮が綺麗な皮膚に治癒するまで……
 ん~…手の甲が全治1週間程度かな?…ヒジが2週間程度くらいかな?

 ヒザにいたっちゃ~……肉が…抉れているところあるからなぁ……
 全治3週間は、かるぅ~くかかるだろうなぁ…うぇ~痛そう……

 などと、ざっと全身を観察して、門前の小僧よろしく、少女の傷の具合を和輝かずきは無意識に確認していた。






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