冷遇タンク 〜魔王軍に超高待遇でヘッドハンティングされた〜

赤金武蔵

第6話 四天王

 魔王の間を見渡す。


 魔王の間は、思ってたよりシンプルな作りだった。


 部屋の一番奥にメネットの座るであろう巨大な椅子。それ以外の装飾品は特にない。


 床もカーペットではなく石畳だし、部屋の左右には等間隔で柱が立てられている。いつ壊れてもいいように作られてるのか、かなり殺風景な部屋だな。


「ぱたぱたー」


「ふよふよー」


 ムニとエルは、まだ部屋の中で鬼ごっこをしていた。


「おい二人共、あんまり飛び回るな」


「「はーい」」


 二人は翼を収納すると、俺の腰に抱き着いてきた。


 全く、この子達は……。


 二人の頭を撫でると、にへらと笑顔になった。何だこの子ら、可愛すぎか?


「……ロリコン?」


「断じて違う」


 おいメネット、そんな目で俺を見るな。違うから、これはどちらかと言うと父性だから。


 メネットのジトーっとした視線から目を背ける。と、背後の魔王の間の扉がゆっくりと開いた。


「あ、来たみたいですね」


 ゾッ……! な、何だ、この異様な気配……!? 今まで会ってきた魔族とは明らかに格が違う……!


 扉の先から入ってくる、四人の人影。


 一人は獣人だ。金髪の毛並みに、金色の鋭い眼光。耳の形から察するに、ライオンの獣人だろう。


 一人は異形の姿だ。スライムが、辛うじて人間の形を保っている感じ。ただ、普通のスライムは青色だが、こいつは毒々しい紫色だ。


 一人は人間の姿をしている。だが、背中から生えている漆黒の翼と、純白の髪の上にある漆黒の輪っか。恐らく、堕天使の類いなのだろう。


 最後の一人は……でかい。俺より、遥かにでかい巨人から、六本の腕が生えている。明らかにパワータイプだ。


 こいつらが、魔王軍四天王か……初めて見たな……。


 四天王が俺達の前までやって来ると、誰からともなく跪いた。


「魔王様。魔王軍四天王、ただいま参上致しました」


 この中で一番人相の極悪な獣人が、メネットに敬語で話し出す。何この違和感……。


「はい、ご苦労様です。今日は皆さんに、新しい仲間になった彼を紹介しようと思いまして」


 四天王の視線が、一斉に俺へ向けられる。


 どうしよう、怖い。逃げたい。


 だがここで逃げたら、タンク復興の道は閉ざされる。心を強く持て、俺。


「……マオウ様。コイツ、人間。ナゼ」


 スライムが、男とも女とも取れない異様な声を発する。


「言ったじゃないですか。タンクである人間を迎え入れ、こちらの戦力を強化するって」


「魔王様……まだそんな戯言を……! 我ら魔族は、力こそ全て! 力で圧倒することに意義があるのだ! こんなひ弱な人間を仲間に入れたところで、何が変わりましょうか!」


 巨人が怒声を上げる。


 カッチーン。ムッカーン。


「おいデカブツ」


「……人間、今我に話しかけたか?」


「ああ。俺がひ弱だと? 何なら、俺がお前を試してやろうか?」


「無礼な……! 魔王様、こやつとの決闘をお許しください! この俺のパワーで粉砕してご覧に入れましょう!」


 巨人が立ち上がり、憤怒に染まった表情で睨み付けてきた。


「ええ、いいですよ。彼の実力を見ていただくために、あなた達を呼んだのですし」


「感謝致します!」


 巨人が拳を握り締める。


 俺も背中に背負っていた大盾を構えた。


「それでは……始め」


 メネットの合図と共に、巨人が俺に向けて走ってくる。


「ムニ、エル。離れてなさい」


「「はいです!」」


 二人が離れたのを見送り、目の前の巨人に集中する。


《ミスリル・ガード》で防御力を上げ、《闘気》で被ダメージを下げる。


 更に《サンクチュアリ》を発動し、巨人の攻撃力を半減。


 最後に。


「《オーバー・パワー》」


 俺自身の肉体を五〇〇パーセント強化。


 大盾を構え、腰を落とす。


「《メガトン・ラッシュ》!」


 そんな俺に、巨人は拳の雨を繰り出した。


《メガトン・ラッシュ》。人間でも拳闘士が使うスキルで、その破壊力と手数は全スキルでも最強と言われる。


 それを、六本腕のこいつが使えば……その数は、計り知れない。


「おおおおおおらららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららァァァッ!!!!」


 まるで拳の暴風雨……! 流石四天王だけあって、かなりのパワーだ……!


 だが……。


「どうした、その程度か?」


「ムゥッ……! 小癪!」


 まだ、まだ止まらない。


 いい加減飽きてきた。


「おい、それが全力か?」


 拳の暴風雨の中、一歩前に踏み出す。


「な、んだと……!?」


 一歩、また一歩と足を前に出すと、巨人はズルズルと後退していく。


「……あのハフマンがパワーで押されている……?」


「情けねぇ……! おいハフマン! 遊んでねーで終わらせろ!」


「四天王の面ヨゴシ。ザコ」


 言われ放題だな、こいつ。


「ぐうぅぅ! ならば、俺の最強のスキルで貴様を滅ぼす!」


 何? 最強のスキル?


「喰らえ、我が鉄拳! 《メテオ・ラッシュ》!」


 拳が燃え盛り、さっきの《メガトン・ラッシュ》を超える拳の量が降り注いだ。


「なるほど、確かに強いな」


 だが、この程度じゃ俺に傷を付けるのは不可能だ。


「な、にっ……!?」


 おいおい、驚いてる場合か?


「どうした、最強。お前の拳は俺に届いてないぞ」

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