冷遇タンク 〜魔王軍に超高待遇でヘッドハンティングされた〜
第5話 家
「レト様、凄いです!」
「凄いです、レト様!」
ムニとエルは近付いてくると、俺の腰あたりに抱き着いてきた。
……何だか、娘が出来たみたいでこそばゆいな。
「あらあら、すっかり気に入られましたね」
「悪い気はしない。……が、お前達は俺の弟子だ。これからは俺のことは師匠と呼ぶように」
「はい、師匠!」
「師匠様!」
うむ、元気のいい返事だ。
「さて、レトさん。修行は明日からにして、今日はレトさんのお住いに案内します」
「そんなものまで用意してくれてるのか。助かる」
「ふふふ。きっと気に入りますよ」
ほう、そんないい所を用意してくれたのか。何から何まで、至れり尽くせりだな。
メネットの後に続いて荒野を歩く。
その周囲をらムニとエルは楽しそうに空中鬼ごっこをしていた。
だけど、こんな小さくてもさっきの防御力……侮れない子達だ。
「こうして考えてみると、タンクって魔族のためにある職業だよな……なんで今まで、魔族にはタンク職がいなかったんだ?」
「魔族と言うのはそもそもが頑丈ですから。今までは人間族の攻撃力が低くて、ゴリ押しのパワープレイでどうにかなっていたんですよ。でも、奴らもパワープレイになってしまい……」
「なるほど。今まで余裕で勝ててたが、パワープレイ同士がぶつかり合うことで自分達もダメージを負うようになってしまった、と」
「その通りです」
確かに……言われてみると、俺のいたパーティーは前衛にクソガキユウとタンクの俺。後衛に魔法使い四人だった。
敵の攻撃や敵意を俺に集めることで、クソガキユウが余裕を持って敵を倒せ、魔法使いも簡単に魔法を当てられていたな。
つまり、圧倒的に効率よく魔物を狩れていたんだ。
あいつらは俺のタンクとしての役割を全く理解せず、ただ突っ立って攻撃を受ける木偶の坊だと勘違いしていたみたいだが……やっぱり、タンクは必須職だったんだよ。うんうん。
「このパーティー編成に気付いた時は、人間界にもタンク職が一人だけだと聞き、焦りましたよ。だから急いで、あいつらのパーティーに加わったのです。あなたに接触するために」
「ここまで評価が高いと、今まで頑張ってきた甲斐があるな」
「ふふ。頑張るのはこれからですよ」
……ああ、そうだな。目指せ、タンクの復興!
拳を握って気を引き締めてると、ムニとエルがはしゃぎ出した。
「師匠、見えて来ました!」
「来ました!」
お? 俺の家か?
さてさて、どんな家かな?
「んー……おい、どこだよ?」
家なんてどこにもない。
見えるのは、荒野の中に佇む一つの城だけだ。
どこに俺の家があるって言うんだ? まさか、馬鹿には見えないとか言うんじゃないよな? 余計なお世話だよちくしょう。
「何言ってるんですか? 見えてるじゃないですか」
「は?」
見えてねーよ。こいつまで俺を馬鹿に……。
…………。いや、え……え?
「ま、さか……」
俺の視界には、家なんて一つも立っていない。
だが、一つだけ立っているものがある。
それは……城。
周囲を巨大な門で囲まれていて、中には距離感覚が掴めなくなるほどの巨大な城。
だだっ広い荒野の中で、それだけが異質さを醸し出しているが……。
「さあ、レトさん。あれが今日からあなたの家である──魔王城です」
…………。
ナンテコッタイ。
◆◆◆
魔王城が見えてから、歩くこと一時間。
俺達は、ようやく城の前までやって来れた。
城が見えてから一時間も歩いて着くって、どんだけばかげたデカさなんだ……マジで距離感覚が狂っちまったよ……。
それに上空には超上位生物のドラゴンの群れ。大地には、宮廷騎士団団長や、宮廷魔導師師団長レベルでないと太刀打ち出来ないほどの魔物が蠢いている。
ぶっちゃけ、世界中の高火力パーティーだけを集めても、ここは落とせないだろう。
それこそ俺レベルとは言わないまでも、タンクに人生を捧げているタンク職が数千……いや、数万もいないと、まともに戦うことも出来ないぞ。
人間界との戦力差に戦々恐々としていると、メネットが手を叩いた。
すると、固く閉じられていた金属の門が、ゆっくりと開いていく。
「あの、メネットさんや?」
「はい?」
「今更だが、人間の俺が魔王城に住むって、いいのか?」
「構いませんよ。ここ、私の家ですから。私がいいって言えば、いいんです」
何この横暴な魔王様……。
門が完全に開き切る。と……。
「「「「「お帰りなさいませ、ご主人!」」」」」
「うぉっ……!?」
と、とんでもない数の魔族……!? 数十……いや、数百体はいる……!?
全員、従者の格好をしているが……一人一人の戦闘力は、間違いなくバケモノ並だ……!
メネットが前を歩き、そのすぐ後ろをムニとエル。最後に俺が、その後に続く。
……き、気をしっかり持て、俺。俺はメネットに呼ばれた客だ。堂々としていればいいんだ、堂々と。
「レトさん、まずは魔王の間に来ていただき、魔王軍四天王と会っていただきます。その後お部屋へと案内しますので、今しばらく我慢してください」
「わ、分かった」
ま、魔王であるメネットの客とは言え、単身魔王城ってのは……す、少し緊張するな……。
「師匠、大丈夫です?」
「師匠様、緊張中です?」
「……大丈夫だ、問題ない」
弟子の前でカッコ悪い姿は見せられん。タンク全体が弱虫だと思われかねんからな。
「おおっ……! もしムニが同じ立場だったら、泣いてしまいますのに……!」
「もしエルが同じ立場だったら、逃げ帰ってますのに……!」
目を輝かせて、尊敬の眼差しで見つめてくる二人。妙な所で二人の好感度が上がった。
門の中の広場を抜け、魔王城に入る。
城の中は意外と言うか、やはりと言うか……豪華絢爛な禍々しさと言うべき装飾が、そこらかしこに施されていた。
「本当は緊急時以外使っちゃいけないんですが、面倒なので裏道を使っちゃいましょう」
「裏道?」
メネットが、玄関の右横にある悪魔の像を三回撫で、右腕を下に倒す。
すると、玄関の中央に謎の魔法陣が浮かび上がった。
「魔王の間、直通の転移陣です。この中は転移禁止魔法が掛けられていますが、これは唯一城の中を自由に行き来出来る転移陣なんですよ」
「…………」
勇者の自伝本や、魔王城から生きて帰った人間の執筆した本では、魔王城には様々な罠や強力な魔物がいて、それらを突破しないと魔王の間には近付けないって書いてあったんだが……。
まさか、こんな裏道が存在してたなんてな……。
「さ、行きましょう」
転移陣に、メネット、ムニ、エルの順で入り、最後に俺も脚を踏み入れる。
と、世界が暗転。
次の瞬間には景色が変わり……荘厳で煌びやかな、巨大な広間に変わった。
「ようこそ、レトさん。魔王城最奥の部屋、魔王の間へ。ここへ辿り着いた人間は、歴代勇者を合わせても五人目ですよ」
「…………」
歴代勇者の皆さん、ごめん。
俺、今めっちゃ楽してる。
「凄いです、レト様!」
ムニとエルは近付いてくると、俺の腰あたりに抱き着いてきた。
……何だか、娘が出来たみたいでこそばゆいな。
「あらあら、すっかり気に入られましたね」
「悪い気はしない。……が、お前達は俺の弟子だ。これからは俺のことは師匠と呼ぶように」
「はい、師匠!」
「師匠様!」
うむ、元気のいい返事だ。
「さて、レトさん。修行は明日からにして、今日はレトさんのお住いに案内します」
「そんなものまで用意してくれてるのか。助かる」
「ふふふ。きっと気に入りますよ」
ほう、そんないい所を用意してくれたのか。何から何まで、至れり尽くせりだな。
メネットの後に続いて荒野を歩く。
その周囲をらムニとエルは楽しそうに空中鬼ごっこをしていた。
だけど、こんな小さくてもさっきの防御力……侮れない子達だ。
「こうして考えてみると、タンクって魔族のためにある職業だよな……なんで今まで、魔族にはタンク職がいなかったんだ?」
「魔族と言うのはそもそもが頑丈ですから。今までは人間族の攻撃力が低くて、ゴリ押しのパワープレイでどうにかなっていたんですよ。でも、奴らもパワープレイになってしまい……」
「なるほど。今まで余裕で勝ててたが、パワープレイ同士がぶつかり合うことで自分達もダメージを負うようになってしまった、と」
「その通りです」
確かに……言われてみると、俺のいたパーティーは前衛にクソガキユウとタンクの俺。後衛に魔法使い四人だった。
敵の攻撃や敵意を俺に集めることで、クソガキユウが余裕を持って敵を倒せ、魔法使いも簡単に魔法を当てられていたな。
つまり、圧倒的に効率よく魔物を狩れていたんだ。
あいつらは俺のタンクとしての役割を全く理解せず、ただ突っ立って攻撃を受ける木偶の坊だと勘違いしていたみたいだが……やっぱり、タンクは必須職だったんだよ。うんうん。
「このパーティー編成に気付いた時は、人間界にもタンク職が一人だけだと聞き、焦りましたよ。だから急いで、あいつらのパーティーに加わったのです。あなたに接触するために」
「ここまで評価が高いと、今まで頑張ってきた甲斐があるな」
「ふふ。頑張るのはこれからですよ」
……ああ、そうだな。目指せ、タンクの復興!
拳を握って気を引き締めてると、ムニとエルがはしゃぎ出した。
「師匠、見えて来ました!」
「来ました!」
お? 俺の家か?
さてさて、どんな家かな?
「んー……おい、どこだよ?」
家なんてどこにもない。
見えるのは、荒野の中に佇む一つの城だけだ。
どこに俺の家があるって言うんだ? まさか、馬鹿には見えないとか言うんじゃないよな? 余計なお世話だよちくしょう。
「何言ってるんですか? 見えてるじゃないですか」
「は?」
見えてねーよ。こいつまで俺を馬鹿に……。
…………。いや、え……え?
「ま、さか……」
俺の視界には、家なんて一つも立っていない。
だが、一つだけ立っているものがある。
それは……城。
周囲を巨大な門で囲まれていて、中には距離感覚が掴めなくなるほどの巨大な城。
だだっ広い荒野の中で、それだけが異質さを醸し出しているが……。
「さあ、レトさん。あれが今日からあなたの家である──魔王城です」
…………。
ナンテコッタイ。
◆◆◆
魔王城が見えてから、歩くこと一時間。
俺達は、ようやく城の前までやって来れた。
城が見えてから一時間も歩いて着くって、どんだけばかげたデカさなんだ……マジで距離感覚が狂っちまったよ……。
それに上空には超上位生物のドラゴンの群れ。大地には、宮廷騎士団団長や、宮廷魔導師師団長レベルでないと太刀打ち出来ないほどの魔物が蠢いている。
ぶっちゃけ、世界中の高火力パーティーだけを集めても、ここは落とせないだろう。
それこそ俺レベルとは言わないまでも、タンクに人生を捧げているタンク職が数千……いや、数万もいないと、まともに戦うことも出来ないぞ。
人間界との戦力差に戦々恐々としていると、メネットが手を叩いた。
すると、固く閉じられていた金属の門が、ゆっくりと開いていく。
「あの、メネットさんや?」
「はい?」
「今更だが、人間の俺が魔王城に住むって、いいのか?」
「構いませんよ。ここ、私の家ですから。私がいいって言えば、いいんです」
何この横暴な魔王様……。
門が完全に開き切る。と……。
「「「「「お帰りなさいませ、ご主人!」」」」」
「うぉっ……!?」
と、とんでもない数の魔族……!? 数十……いや、数百体はいる……!?
全員、従者の格好をしているが……一人一人の戦闘力は、間違いなくバケモノ並だ……!
メネットが前を歩き、そのすぐ後ろをムニとエル。最後に俺が、その後に続く。
……き、気をしっかり持て、俺。俺はメネットに呼ばれた客だ。堂々としていればいいんだ、堂々と。
「レトさん、まずは魔王の間に来ていただき、魔王軍四天王と会っていただきます。その後お部屋へと案内しますので、今しばらく我慢してください」
「わ、分かった」
ま、魔王であるメネットの客とは言え、単身魔王城ってのは……す、少し緊張するな……。
「師匠、大丈夫です?」
「師匠様、緊張中です?」
「……大丈夫だ、問題ない」
弟子の前でカッコ悪い姿は見せられん。タンク全体が弱虫だと思われかねんからな。
「おおっ……! もしムニが同じ立場だったら、泣いてしまいますのに……!」
「もしエルが同じ立場だったら、逃げ帰ってますのに……!」
目を輝かせて、尊敬の眼差しで見つめてくる二人。妙な所で二人の好感度が上がった。
門の中の広場を抜け、魔王城に入る。
城の中は意外と言うか、やはりと言うか……豪華絢爛な禍々しさと言うべき装飾が、そこらかしこに施されていた。
「本当は緊急時以外使っちゃいけないんですが、面倒なので裏道を使っちゃいましょう」
「裏道?」
メネットが、玄関の右横にある悪魔の像を三回撫で、右腕を下に倒す。
すると、玄関の中央に謎の魔法陣が浮かび上がった。
「魔王の間、直通の転移陣です。この中は転移禁止魔法が掛けられていますが、これは唯一城の中を自由に行き来出来る転移陣なんですよ」
「…………」
勇者の自伝本や、魔王城から生きて帰った人間の執筆した本では、魔王城には様々な罠や強力な魔物がいて、それらを突破しないと魔王の間には近付けないって書いてあったんだが……。
まさか、こんな裏道が存在してたなんてな……。
「さ、行きましょう」
転移陣に、メネット、ムニ、エルの順で入り、最後に俺も脚を踏み入れる。
と、世界が暗転。
次の瞬間には景色が変わり……荘厳で煌びやかな、巨大な広間に変わった。
「ようこそ、レトさん。魔王城最奥の部屋、魔王の間へ。ここへ辿り着いた人間は、歴代勇者を合わせても五人目ですよ」
「…………」
歴代勇者の皆さん、ごめん。
俺、今めっちゃ楽してる。
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