冷遇タンク 〜魔王軍に超高待遇でヘッドハンティングされた〜
第3話 条件
……ま、ままままままっ、魔王……!?
全ての魔を統べる、絶対王者……俺達人類の、敵……!
盾と剣を構える。
《星界》という魔法は、固有結界だと言っていた。魔王が作る固有結界……俺程度では破ることは出来ないだろう。
どうする、やれるか……?
「ああっ、待ってください待ってくださいっ! あなたと争うつもりはないんです、本当に」
「……どう信じられる、そんなこと」
「えっ……ど、どうしましょう……どうしたら信じてくれます?」
……それを俺に聞くか、普通?
「……まあいい。魔王、何のために俺に近付いた。スカウトってどういう事だ」
「はい。タンクとしての力を見込んで、あなたを我が魔王軍に迎え入れたいのです」
ぴくっ。……タンクとしての力、だと?
「詳しく聞こう」
「……今まで魔族は、力の強い個体が複数体集まってパーティーを組むことで、人間や他の敵を蹂躙していました。ちょうど、今の人間と同じやり方ですね」
……確かに、今まで会ってきた魔族達は、力や火力で押せ押せの奴らばかりだったな……。
「最近になり、それでは効率が悪く、死ぬ危険性も高いという話が持ち上がりました。そこで、防御主戦力案が出たのです」
ほう、立派な心掛けだ。
そうだよ、タンクは主戦力なんだよ。よく分かってるじゃないか。
「ですが、我ら魔族は火力重視で生きてきたため、防御に特化した者がいなかったのです。──そこで思い付きました。なら、魔族以外から防御に特化した者を引き入れようと!」
魔王メネットは、目を輝かせて、俺の手を握ってきた。
「人間界にも、防御職であるタンクはあなた一人! ですが人間界は最早タンクを必要としていない……ならば、今必要としている私達の元に来てください!」
「ま、待て待て待て! 俺は人間だ! 魔王軍の戦力強化になることを承認出来ないぞ!」
「勿論ただとは言いません!」
メネットは腕を大きく広げ、満面の笑みで言った。
「衣食住完備、完全週休二日制、初日から有給二〇日付与、月収五〇万ゴールド、賞与あり!」
ほう……魅力的だが、それだけじゃあ──。
「更に──あなたの欲している弟子をお付けします!」
「行きましょう」
◆◆◆
ユウ達が水浴びから戻ると、テント周辺は無人になっていた。
「あ? おい、木偶の坊どこ行った?」
「さあ……?」
「メネットさんもいないわよ」
テントの中も、その周りも誰もいない。
「どういうことだ……?」
「た、大変! 大変だよ! これ見て!」
首を捻ってるユウの元に、一人の魔法使いが一枚の紙を持ってきた。
『辞めます。 ──レト』
『同じく辞めます。 ──メネット』
「「「「…………はあ?」」」」
◆◆◆
勧誘に即答した俺は、メネットの転移魔法で人間界から魔界へとやって来ていた。
「おお……ここが魔界……あんまり人間界と変わらないな」
「そりゃそうですよ。大海を挟んでるだけで、同じ世界にありますから」
そんなもんか……。
「それにしても驚きました。まさか、弟子を付けると言ったら即答だったので」
「俺の目的はタンクの復興だ。タンクの魅力を理解し、タンクを愛する人が一人でも増えてくれるなら、人間界でも魔界でもどっちでもいい」
「……この一週間、ずっとレトさんを見てきましたが、タンク愛が上限突破してますね……」
「タンクに勝るものなし」
タンクの為なら何でもしてやる。
「……ふふっ」
「何だ?」
「いえ、今までずっと敬語でしたから、砕けた言葉遣いがちょっと嬉しくて」
「あいつらはタンクってだけで俺を目の敵にしてきた。そのご機嫌取りに敬語を使ってただけだ。……お前は、違うだろ?」
「勿論です」
ならいい。
ミネットの後に続いて、広大な大地を歩く。
「ミネット、魔王城には行かないのか?」
「はい。まずは、あなたの弟子候補に、あなたの力を見ていただきます」
「なにっ、もう弟子候補が決まってるのか?」
「ええ。弟子候補は今のところ二人。彼女らを鍛えていただき、その子たちがまた別の魔族を鍛える。そうして徐々に戦力を拡大していこうと考えています」
うんうん、よく考えてるな。実際俺も、同じようなことを考えてた。
……まあ、その弟子が今まで見つからなかったんだけどな……これは、思わぬ拾い物をした感じだ。
歩き続けること十分弱。
「あ、見えて来ましたよ」
「ん? ……あれか?」
見るに……小さい、子供?
俺の身長が一九五センチ。その半分くらいの子供が二人、荒野の中に佇んでいた。
「魔王様、お久しぶりでございます」
「ます」
赤髪の魔族が跪き、その隣にいた黒髪の魔族が続いて跪く。
「ムニ、エル。ご苦労様です。レトさん、紹介します。赤髪の子がムニ。黒髪の子がエルです。魔族の中でも頑丈で、一番タンクに向いているかと」
え、いや、向いてるって言われても……。
今だに跪いている二人を見下ろす。
「ムニですわ」
「エルです」
「「よろしくお願いします、レト様」」
うっ、目がキラキラ……!
え、えーっと……。
「言いづらいんだが……タンクには身長制限があるんだ。最低でも、一七〇センチ。そうじゃないと、敵の攻撃を受け切るのは……」
「「「えっ」」」
…………。空気が、死んだ。
どうしよう、この空気……。
全ての魔を統べる、絶対王者……俺達人類の、敵……!
盾と剣を構える。
《星界》という魔法は、固有結界だと言っていた。魔王が作る固有結界……俺程度では破ることは出来ないだろう。
どうする、やれるか……?
「ああっ、待ってください待ってくださいっ! あなたと争うつもりはないんです、本当に」
「……どう信じられる、そんなこと」
「えっ……ど、どうしましょう……どうしたら信じてくれます?」
……それを俺に聞くか、普通?
「……まあいい。魔王、何のために俺に近付いた。スカウトってどういう事だ」
「はい。タンクとしての力を見込んで、あなたを我が魔王軍に迎え入れたいのです」
ぴくっ。……タンクとしての力、だと?
「詳しく聞こう」
「……今まで魔族は、力の強い個体が複数体集まってパーティーを組むことで、人間や他の敵を蹂躙していました。ちょうど、今の人間と同じやり方ですね」
……確かに、今まで会ってきた魔族達は、力や火力で押せ押せの奴らばかりだったな……。
「最近になり、それでは効率が悪く、死ぬ危険性も高いという話が持ち上がりました。そこで、防御主戦力案が出たのです」
ほう、立派な心掛けだ。
そうだよ、タンクは主戦力なんだよ。よく分かってるじゃないか。
「ですが、我ら魔族は火力重視で生きてきたため、防御に特化した者がいなかったのです。──そこで思い付きました。なら、魔族以外から防御に特化した者を引き入れようと!」
魔王メネットは、目を輝かせて、俺の手を握ってきた。
「人間界にも、防御職であるタンクはあなた一人! ですが人間界は最早タンクを必要としていない……ならば、今必要としている私達の元に来てください!」
「ま、待て待て待て! 俺は人間だ! 魔王軍の戦力強化になることを承認出来ないぞ!」
「勿論ただとは言いません!」
メネットは腕を大きく広げ、満面の笑みで言った。
「衣食住完備、完全週休二日制、初日から有給二〇日付与、月収五〇万ゴールド、賞与あり!」
ほう……魅力的だが、それだけじゃあ──。
「更に──あなたの欲している弟子をお付けします!」
「行きましょう」
◆◆◆
ユウ達が水浴びから戻ると、テント周辺は無人になっていた。
「あ? おい、木偶の坊どこ行った?」
「さあ……?」
「メネットさんもいないわよ」
テントの中も、その周りも誰もいない。
「どういうことだ……?」
「た、大変! 大変だよ! これ見て!」
首を捻ってるユウの元に、一人の魔法使いが一枚の紙を持ってきた。
『辞めます。 ──レト』
『同じく辞めます。 ──メネット』
「「「「…………はあ?」」」」
◆◆◆
勧誘に即答した俺は、メネットの転移魔法で人間界から魔界へとやって来ていた。
「おお……ここが魔界……あんまり人間界と変わらないな」
「そりゃそうですよ。大海を挟んでるだけで、同じ世界にありますから」
そんなもんか……。
「それにしても驚きました。まさか、弟子を付けると言ったら即答だったので」
「俺の目的はタンクの復興だ。タンクの魅力を理解し、タンクを愛する人が一人でも増えてくれるなら、人間界でも魔界でもどっちでもいい」
「……この一週間、ずっとレトさんを見てきましたが、タンク愛が上限突破してますね……」
「タンクに勝るものなし」
タンクの為なら何でもしてやる。
「……ふふっ」
「何だ?」
「いえ、今までずっと敬語でしたから、砕けた言葉遣いがちょっと嬉しくて」
「あいつらはタンクってだけで俺を目の敵にしてきた。そのご機嫌取りに敬語を使ってただけだ。……お前は、違うだろ?」
「勿論です」
ならいい。
ミネットの後に続いて、広大な大地を歩く。
「ミネット、魔王城には行かないのか?」
「はい。まずは、あなたの弟子候補に、あなたの力を見ていただきます」
「なにっ、もう弟子候補が決まってるのか?」
「ええ。弟子候補は今のところ二人。彼女らを鍛えていただき、その子たちがまた別の魔族を鍛える。そうして徐々に戦力を拡大していこうと考えています」
うんうん、よく考えてるな。実際俺も、同じようなことを考えてた。
……まあ、その弟子が今まで見つからなかったんだけどな……これは、思わぬ拾い物をした感じだ。
歩き続けること十分弱。
「あ、見えて来ましたよ」
「ん? ……あれか?」
見るに……小さい、子供?
俺の身長が一九五センチ。その半分くらいの子供が二人、荒野の中に佇んでいた。
「魔王様、お久しぶりでございます」
「ます」
赤髪の魔族が跪き、その隣にいた黒髪の魔族が続いて跪く。
「ムニ、エル。ご苦労様です。レトさん、紹介します。赤髪の子がムニ。黒髪の子がエルです。魔族の中でも頑丈で、一番タンクに向いているかと」
え、いや、向いてるって言われても……。
今だに跪いている二人を見下ろす。
「ムニですわ」
「エルです」
「「よろしくお願いします、レト様」」
うっ、目がキラキラ……!
え、えーっと……。
「言いづらいんだが……タンクには身長制限があるんだ。最低でも、一七〇センチ。そうじゃないと、敵の攻撃を受け切るのは……」
「「「えっ」」」
…………。空気が、死んだ。
どうしよう、この空気……。
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