冷遇タンク 〜魔王軍に超高待遇でヘッドハンティングされた〜
第2話 スカウト
◆◆◆
その日の夜、俺は火の番と周囲の警戒をしていた。
「はぁ……甘くねぇなぁ……」
タンク職が廃れて、今年で二〇年。
今この世界でタンクの地位向上を目指してるのは、俺くらいだ。
それもそうだ。タンクってだけで罵られ、要らないと言われるご時世。誰が好き好んでタンクになるかって話だ。
だけど……俺はタンクに希望を持っている。
いつの日か、必ずタンクの地位向上を果たす。
それが俺の目的で、その為に苦渋を飲んでパーティーに所属し、世界中を渡り歩いている。
「弱音を吐くな、レト・タンカー。弱音なんて親父から習ってないだろっ」
焚き火に薪をくべて、火が消えないように見守る。
と──パキッ。魔物の気配……!?
左手に大盾を、右手に両刃剣を構えると、一体の魔物が奥から出て来た。
「グルルルルッ……!」
「フォレストウルフか……!」
てことは……!
一つ、また一つと気配が増えてくる。
フォレストウルフは、必ず群れで動く魔物だ。超雑食で食えるものなら自分達より強い魔物すら餌にする。
しまった、ここはこいつらの縄張りだったか……!
数にして、大体十八匹。
……この程度だったら、範囲スキルを使うまでもないか……。
まずは奴らの敵意を俺に向けさせる。
「《挑発》」
スキル《挑発》を発動させると、フォレストウルフは一斉に俺へと敵意を向けて来た。
次に防御力を上げる。
「《ミスリル・ガード》」
俺の防御力を八〇〇パーセント向上。
次に素早さを上げる。
「《クイック》」
俺の素早さを一〇〇パーセント向上。
最後に攻撃力を上げる。
「《エンチャント・オーバーパワー》」
俺の攻撃力を三〇〇パーセント向上。
「さあ来い、犬っころ共」
「グルルルルァッ!」
◆◆◆
「ん……ふあぁ〜……おい木偶の坊、なんも問題ねーな」
「はい、ユウさん。なんも無かったっす」
「そうか。俺達は水浴びしてくる。木偶の坊は飯の準備しとけ」
「はい」
起きてきたユウと四人の女達は、揃って近くの川へと向かっていった。
「ふぅ……」
「レトさん、大丈夫ですか?」
「え? ああ、メネットさん。ええ、寝ずの番は慣れてますから」
「そうではなく、フォレストウルフの方です」
っ……気付いてたのか。
「見てたんですか? いやいや、お恥ずかしい」
「あの発情猫達から逃げるようにテントから出たら、偶然。流石の立ち回りですね」
「お世辞はよしてください。魔法使いの彼女らからしたら、あんなものも一瞬でしょうし」
タンクの俺は、魔物を倒すのに一体一体相手にする必要がある。
唯一の範囲スキルは、下手をするとクソガキ共を巻き込む危険性があるから使えない。
魔法使いの方が飛距離、範囲の自由度は高いし、火力も出せる。優遇されるのは必然だ。
だが、それでも俺はタンクであり続ける。
親父やタンク仲間の無念を晴らし、タンクの復興を成し遂げる為に。
「……レトさんは、自分自身が弱いと思っていますか?」
「思ってます」
「そ、即答……」
それもそうだろう。確かに防御力は他より高いし、いざとなれば全ての攻撃や敵対意識を俺に向けさせることが出来る。
だが、言ってしまえばそれだけだ。
俺には、奴らのような殲滅力はないからな……。
「なるほど……なら、強くなりたいですか?」
「……何?」
強く、だと……?
「今までより、強くなりたくはないですか?」
……何が言いたいんだ、この子は?
「何故?」
「いいから、はいかいいえで答えてください」
……強くか……。
「いや、別に」
「え……強くなりたくないんですか?」
「ああ。俺が欲しいのは強さじゃない。もっと別のものだ」
「……別のもの?」
俺の目的はタンクの復興。
俺の目的はタンクの地位向上。
俺の目的はタンクを世に広めること。
その全てを成し遂げるために。
「俺は──弟子が欲しい」
「…………」
俺の答えに、メネットさんは目を見開いた。
「俺はタンクの為に生き、タンクの為に死ぬ。もしタンクが日の目を見るなら、俺はどうなっても構わない」
「……ぷっ……ふ、ふふっ……レトさんは、底なしのタンク馬鹿ですね……!」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「褒めてますよ、実際。……なるほど、分かりました」
メネットさんは手を上にかざすと、口を僅かに動かした。
「《星界》」
────は……? これ、は……?
俺とメネットさんの周囲を覆い隠す、黒い結界。その周囲は、まるで星空のように光り輝いていた。
「固有結界です。一時的に外部とこの中を遮断しました」
「固有結界……!?」
固有結界は、才能のある魔法使いが数十年の時間を掛けて作る、唯一無二の結界魔法だと聞いたことがある。
それを、このメネットさんが……!?
「メネットさん……あんた、何者ですか……?」
「では、改めて自己紹介を致しましょう」
メネットさんはワンピースの端を持って、優雅にお辞儀をする。
「メネット・ホフナー改め、第五代魔王メネットと申します。レト・タンカーさん、貴方をスカウトに参りました」
…………。
「ふぇ?」
その日の夜、俺は火の番と周囲の警戒をしていた。
「はぁ……甘くねぇなぁ……」
タンク職が廃れて、今年で二〇年。
今この世界でタンクの地位向上を目指してるのは、俺くらいだ。
それもそうだ。タンクってだけで罵られ、要らないと言われるご時世。誰が好き好んでタンクになるかって話だ。
だけど……俺はタンクに希望を持っている。
いつの日か、必ずタンクの地位向上を果たす。
それが俺の目的で、その為に苦渋を飲んでパーティーに所属し、世界中を渡り歩いている。
「弱音を吐くな、レト・タンカー。弱音なんて親父から習ってないだろっ」
焚き火に薪をくべて、火が消えないように見守る。
と──パキッ。魔物の気配……!?
左手に大盾を、右手に両刃剣を構えると、一体の魔物が奥から出て来た。
「グルルルルッ……!」
「フォレストウルフか……!」
てことは……!
一つ、また一つと気配が増えてくる。
フォレストウルフは、必ず群れで動く魔物だ。超雑食で食えるものなら自分達より強い魔物すら餌にする。
しまった、ここはこいつらの縄張りだったか……!
数にして、大体十八匹。
……この程度だったら、範囲スキルを使うまでもないか……。
まずは奴らの敵意を俺に向けさせる。
「《挑発》」
スキル《挑発》を発動させると、フォレストウルフは一斉に俺へと敵意を向けて来た。
次に防御力を上げる。
「《ミスリル・ガード》」
俺の防御力を八〇〇パーセント向上。
次に素早さを上げる。
「《クイック》」
俺の素早さを一〇〇パーセント向上。
最後に攻撃力を上げる。
「《エンチャント・オーバーパワー》」
俺の攻撃力を三〇〇パーセント向上。
「さあ来い、犬っころ共」
「グルルルルァッ!」
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「ん……ふあぁ〜……おい木偶の坊、なんも問題ねーな」
「はい、ユウさん。なんも無かったっす」
「そうか。俺達は水浴びしてくる。木偶の坊は飯の準備しとけ」
「はい」
起きてきたユウと四人の女達は、揃って近くの川へと向かっていった。
「ふぅ……」
「レトさん、大丈夫ですか?」
「え? ああ、メネットさん。ええ、寝ずの番は慣れてますから」
「そうではなく、フォレストウルフの方です」
っ……気付いてたのか。
「見てたんですか? いやいや、お恥ずかしい」
「あの発情猫達から逃げるようにテントから出たら、偶然。流石の立ち回りですね」
「お世辞はよしてください。魔法使いの彼女らからしたら、あんなものも一瞬でしょうし」
タンクの俺は、魔物を倒すのに一体一体相手にする必要がある。
唯一の範囲スキルは、下手をするとクソガキ共を巻き込む危険性があるから使えない。
魔法使いの方が飛距離、範囲の自由度は高いし、火力も出せる。優遇されるのは必然だ。
だが、それでも俺はタンクであり続ける。
親父やタンク仲間の無念を晴らし、タンクの復興を成し遂げる為に。
「……レトさんは、自分自身が弱いと思っていますか?」
「思ってます」
「そ、即答……」
それもそうだろう。確かに防御力は他より高いし、いざとなれば全ての攻撃や敵対意識を俺に向けさせることが出来る。
だが、言ってしまえばそれだけだ。
俺には、奴らのような殲滅力はないからな……。
「なるほど……なら、強くなりたいですか?」
「……何?」
強く、だと……?
「今までより、強くなりたくはないですか?」
……何が言いたいんだ、この子は?
「何故?」
「いいから、はいかいいえで答えてください」
……強くか……。
「いや、別に」
「え……強くなりたくないんですか?」
「ああ。俺が欲しいのは強さじゃない。もっと別のものだ」
「……別のもの?」
俺の目的はタンクの復興。
俺の目的はタンクの地位向上。
俺の目的はタンクを世に広めること。
その全てを成し遂げるために。
「俺は──弟子が欲しい」
「…………」
俺の答えに、メネットさんは目を見開いた。
「俺はタンクの為に生き、タンクの為に死ぬ。もしタンクが日の目を見るなら、俺はどうなっても構わない」
「……ぷっ……ふ、ふふっ……レトさんは、底なしのタンク馬鹿ですね……!」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「褒めてますよ、実際。……なるほど、分かりました」
メネットさんは手を上にかざすと、口を僅かに動かした。
「《星界》」
────は……? これ、は……?
俺とメネットさんの周囲を覆い隠す、黒い結界。その周囲は、まるで星空のように光り輝いていた。
「固有結界です。一時的に外部とこの中を遮断しました」
「固有結界……!?」
固有結界は、才能のある魔法使いが数十年の時間を掛けて作る、唯一無二の結界魔法だと聞いたことがある。
それを、このメネットさんが……!?
「メネットさん……あんた、何者ですか……?」
「では、改めて自己紹介を致しましょう」
メネットさんはワンピースの端を持って、優雅にお辞儀をする。
「メネット・ホフナー改め、第五代魔王メネットと申します。レト・タンカーさん、貴方をスカウトに参りました」
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