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パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第5話 黒ずくめの組織

 三〇分後。


「……も、無理……す……」


 ネズヒコは力尽き、泡吹いて倒れていた。


「ここで、レアナ姐さんにご講評を賜る。姐さん、どうぞ」


「ジオウ、あんたそんなキャラだっけ?」


 気にするな、ノリだ。


「……まあ、評価としては、五段階中のニね。ただ避けるだけなのに無駄な動きも多いし、野生の本能がある割に感が鈍い。注意力散漫。あと──中略──ガードも貧弱、パワーも貧弱──貧弱──貧弱──っと、こんな所ね」


 オォウ……ズタボロ……。


「うぐっ……えぐっ……ひぐぅ……!」


 見ろ、ネズヒコ号泣じゃねーか。


「レアナちゃん、辛辣ですね……」


「流石にネズヒコ君に同情せざるを得ないわ……」


 周囲がドン引きするが、レアナは首を傾げ……。


「えっ? これでも優しい方よ?」


「うわあああああぁぁぁぁぁんっっっ!」


 ネズヒコに致命傷を負わせた。


 レアナって、パワーもそうだがこういう所も手加減出来ないよな……。


「シュユ、フォローしてやれ」


「わ、私がかっ? え、えっと、えっと……」


 シュユは腕を組んで唸り、悩み、黙り込み……。






「……ち、小さいから当てづらかったぞっ」






「びえええええええええええんっっっ!」


 お前がトドメを刺してどうすんだよ!?


「シュユの方が酷いじゃない……」


「シュユさんも中々辛辣ですね……」


「そ、そんなこと言われても、他に褒めるべき所はなかったんだぞ……!」


「酷いっスーーーーー!」


 ネズヒコ、撃沈。


 まあ、シュユのド天然辛口評価は置いといて……。


「ネズヒコ、今の評価が、お前の今の力だ。分かるか?」


「お、おっス……」


「この状態を、あと三ヶ月で獣王トラキチを倒せるまでにしなきゃならない」


「今すぐ引き返したいっス……」


「残念。俺達に捕まった以上、引き返すどころか逃げ出すことも出来ない。ずぶずぶと、沼に沈むがごとく強者への道へ引きずり込んでやるよ」


 さあ、休憩は終わりだ。


「レアナ、シュユ、俺達は中に入って、仕事をしてる。こっちは任せたぞ」


「あとどのくらい?」


「四時間」


「オッケー」


 ネズヒコのことをレアナとシュユに任せ、俺達は大洋館の中に戻った。


 後ろから聞こえてくる絶叫は無視。


「ジオウさん。ネズヒコさん、大丈夫だと思いますか?」


 執務室に戻ると、リエンが心配そうな顔で外を眺める。


「ああ。俺の見立てでは、あいつの潜在能力はかなり高いからな。三ヶ月後には、それなりに強くなってるだろうさ」


「いえ、そっちではなく、三ヶ月も持つか心配なんですが」


「脱走の心配か?」


「はい」


 何だ、そんなことか。


「あいつは逃げないよ、絶対」


「どうしてそんな事が言えるんですか?」


 んー……何て説明すればいいのか……。


 ネズヒコと出会った時、その瞳から見えた怒りや憎しみを思い出す。


「……あんな目をした男が、一度やると決めたんだ。口では何とでも言うが、あいつは絶対逃げない。男だからな」


「……はぁ、男の子って、馬鹿な生き物ですね。……コーヒーを入れます。お茶菓子はチョコレットでいいですか?」


「ああ、頼む」


 執務室からリエンが出ていくのを見送り、外を見る。


 必死になって逃げ回るネズヒコの目は、これっぽっちも諦めずていなかった。


 この状況で、あんな目が出来るんだ。三ヶ月後の成長が楽しみだな。


 と、物思いにふけっていると、扉がノックされてセツナが入って来た。


「ジオウ君、お客様よ」


「客?」


 セツナには、エルフ族とのパイプ役を頼んでいる。それが客を連れて来たってことは、エルフ族の人間だろうけど……ここに来るなんて、珍しいな。


「失礼するぞ、ジオウ」


「……アデシャ族長?」


 え、何でこの人ここにいんの? 里を離れてもいいのか?


「まあ座ってくれ。セツナ、リエンが今コーヒーを入れてるはずだ。アデシャ族長の分も頼んで来てくれ」


「分かったわ。待っててね」


 セツナが部屋を出ていき、俺はアデシャ族長の正面に座った。


「くかかかか。あの子も、随分と明るくなったのぅ」


「セツナのことか? まあ、助け出した直後に比べたらな」


 それでもたまに、辛そうな顔をする時はある。こればっかりは時間が解決してくれるのを待つしかない。


「その確認だけに来たんじゃないだろ? 何の用だ?」


「うむ。最近里の者から、妙な報告を聞いてな。情報共有としてじゃ」


 妙な報告?


 アデシャ族長は、まるで生脚を見せびらかすように脚を組み換え、腕を組む。


「最近、サシェス族の里の近くに、黒ずくめの人間が現れているらしい。黒いローブに、黒い包帯で頭を巻き、頭の上半分は白い仮面を付けているのだとか」


 ほぅ……黒いローブで、頭半分は白い仮面か……。


「……分かった、注意しておく。ま、あいつらなら、そんな不審者に負ける訳ないがな」


「くかかかかか! 違いない! ……じゃが、念の為じゃ。強すぎる力は目を曇らすからの。……ジオウなら、分かっておるじゃろ?」


 ぁ……確かに、な……こんな気持ちじゃ、【白虎】の二の舞になっちまう。こんな気持ちじゃダメだ。


「……もしかしてアデシャ族長は、この為に……?」


「はて、何のことやら? 妾は、情報の共有に来ただけじゃぞ」


 ……情報共有だけの為に、一族の長がこんな所まで来るはずないだろうに。


「……ありがとう、アデシャ族長」


「だから何のことか分からんのぅ。じゃが、そうじゃのう……礼と言うなら、体で払ってもらおうか?」


 ……ゑ?


 族長の目が妖しく光り、脳がジワジワと痺れる感覚が……こ、これっ、まさか……!


「み、魅了……!?」


「妾も女。たまには男に溺れたい日もある。じゃが、里の男に手を出すと後が面倒じゃからな。後腐れない、若いお主なら問題なかろう?」


 問題だらけだよっ!?


 アデシャ族長の、布を纏っただけのような服がずれ、肩が露出する。


 脳が沸騰するこの感覚っ、まずい……!


「さあ、共に溺れようぞ──」


「《氷下絶縛フローズン・バインド》!」


 瞬間、冷気と共に、アデシャ族長の座っていたソファーが完全に凍り付いた。


 その冷気に当てられたのか、それとも魅了が解けたのか、脳の痺れが取れたぞ。


「族長……消すわよ」


「おーおー、怖い顔じゃのうセツナ」


 アデシャ族長はあれを避けたのか、いつの間にか俺の背後に立っていた。


「冗談じゃよ、冗談。ジオウをからかっただけじゃ」


 からかうのも、限度があるだろ……。


 どっと疲れを感じてると、アデシャ族長の腕が俺の首に回され、耳元に口が近付いてきた。


「女ばかりの空間では、色々溜まるじゃろうて。──したくなったら、いつでも来い。たぁっぷり、相手をしてやるぞ。はむっ」


 ゾクッ──甘噛み……!


「アデシャああああああああああ!」


「くかかかかかか! 退散退散!」


 アデシャ族長は《神隠し》を使ったのか、全ての気配が一瞬にして消えた。


「ったく、あの色ボケは……! ジオウ君も、不用意過ぎよ!」


「あ、うん。ごめん……?」


 これ、俺のせいなの?


「全くもう……はいコーヒー」


「ああ、ありが……なあ、凍ってるんだが……」


「え? ……あっ。す、直ぐ入れ直してくるわ!」


 顔を真っ赤にして出ていくセツナ。


 ……シュユの肉親なだけあって、意外とドジだな、セツナも……。

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