パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る
第26話 慈愛
「──これでいいか」
今俺達は、霊峰クロノスの頂上で、大中小の石を縦に積み上げていた。
クロを吸収したアビスが死んだことで、異界は崩壊し、俺達は外へ弾き出された。
今ここに、レイガの遺品は何も無い。これは、せめてもの弔いだ。
俺の隣に立っているレアナが、疲れた表情でぐーっと伸びをした。
「んーっ……! 何だか、長い戦いだったわねぇ……エルフの里で戦争してたのが、随分と昔みたいに思えるわ」
「そうですね。まさかあの時は、こんな風になるとは思いませんでしたけど」
リエンが振り向き、俺達も同じ方向を向くと、セツナが沈痛な面持ちで立っていた。
「……あ、の……その……」
「姉様……」
シュユが傍に立ち、不安げな顔で俺を見つめてきた。
「どうした?」
「……ジオウ殿。レアナ殿。リエン殿。無理を承知で頼む。確かに姉様は悪事を働いた。だが、全部操られていたことなのだ。だから……」
「……セツナを許してくれ、って言いたいのか?」
「…………っ」
……セツナのやって来たことを考えれば、許す許さないの範囲では収まらない。罪を償うか、償わないかの話になってくる。
ただそうなった時、それを決めるのは俺じゃない。
「……ま、その辺の話はアデシャ族長にでもしてくれ。それで許されようが、許されまいが、俺には関係ない。俺達は元凶である悪魔を倒したし、レアナも護りきれた。それで十分だからな」
隣にいるレアナの頭に手を乗せると、驚いたような、恥ずかしがってるような、嬉しいような……口をもにゅもにゅさせて、何とも言えない顔で髪をモフモフしている。やっぱ可愛いなこいつ。
「……ハァハァ……レアナちゃん可愛い……うへへっ」
おいリエン、今その気持ち悪い笑みはやめろ、ヨダレを垂らすな。
リエンから視線を外してチラッと二人を見ると……まだ、浮かないような顔をしていた。
アデシャ族長を利用して神樹デルタの身を奪ったんだ。許されるかどうかなんて、分からないもんな。
「……ま、許されても、許されなくても、セツナはもう俺の仲間だ。安心しろ。仲間を見捨てるなんて、俺はしねーよ」
「……ジオウ君……」
里で受け入れてもらえなければ、うちに住めばいいだけの話だ。何も問題は無い。
「それに、結局俺達もアデシャ族長に謝りに行かねーといけないしなぁ……怒られるなら、一緒に怒られようぜ」
結果的に神樹デルタの実を悪用されずに済んだとは言え、奪われたことには変わりない。アデシャ族長からの依頼は失敗したと言ってもいい。拳の一つや二つ、甘んじて受け入れよう。
「ぅ……ごめんなさい……」
「あ……いや、セツナを責めてるわけじゃないんだ、マジで」
そういや、神樹デルタを奪ったのこいつだったな。……この話をこれ以上掘り下げるのはよそう。
「じゃ、早速サシェス族の里に向かおうぜ。リエン、少し魔力は回復したろ。頼めるか?」
「分かりました。ほんの少ししか保てないので、道を作ったら直ぐに入ってくださいね」
リエンの指が動き、エタが《ブラックボックス》を発動させる。
レアナ、俺、シュユ、セツナ、リエン、エタの順で飛び込むと、景色が霊峰クロノスの山頂ではなく、瓦礫の山が積み重なり、煙の燻る里へ戻ってきた。
「…………っ」
セツナが唇を噛み締めて俯いた。……これは、セツナが巻いた火種の結果だ。受け入れさせるしかない。
瓦礫の中を歩いていると、整理をしていたエルフ達がこっちに気付いた。
「おい、あれ……」
「あの人間達だ……」
「……え、おいあれ……!」
「セツナ……?」
「何であいつがここに……」
「セツナは裏切り者だろ……?」
「あの人間達が捕まえたのかもしれない……!」
「流石、族長が認めただけあるわね」
エルフ達の話し声が、風に乗って聞こえてくる。セツナも苦しそうにしているが、シュユがその手を握った。
「姉様、大丈夫だ。私達がいる」
「……ええ、ありがとう、シュユ」
……セツナは、シュユに任せればいいか。
……お、見えて来た。族長の家だ。
流石に宝樹リシリアは傷一つ付いてないな。敵部族とは言っても、神聖な樹は傷付けなかったか。
……ん? 誰か、家の前に立ってるぞ……?
「アデシャ族長……?」
回復魔法で既に歩けるまで回復したのか、いつもの布を纏っただけのような格好で、アデシャ族長が仁王立ちで俺達を出迎えていた。
……明らかに、怒りに満ちた表情で。
少し離れた位置で止まり、互いに沈黙する。
……まずは、俺から声をかけるか……。
「あー……アデシャ族長。今戻った」
「……うむ、ご苦労だったの、ジオウ。……よく、セツナを生かして捕まえた」
ギロッ。アデシャ族長の視線がセツナを射抜く。
「……すぅー……はぁー……」
セツナはシュユの手を離すと、一人でアデシャ族長の元へ向かっていった。
……とりあえず、今は見守るしかない、か。
「……セツナ……お主のその目、以前と違うな。……ジオウに助けられたか?」
「……ん……助けてもらった……」
「……そうか……お礼は言ったかい?」
「……ん……」
「……なるほど、な。……お主に何があったのかなんて、妾は聞かんぞ。もうジオウが解決したみたいだからのぅ」
「……ん……」
「だが、それでも……!」
アデシャ族長の腕が動き、
──スパアアアァァァンッッッ!!!!
鋭いビンタが、セツナの頬を打ち抜いた。
「操られていたか、それとも洗脳か、依存か……それは分からんが、今までどれだけの人間を苦しめ、どれだけの悪行を重ねたか……セツナ自身がよく分かってるはずじゃ」
「……分かってるわ……全部」
口を切ったのか、口元から血を流しても、アデシャ族長を見つめるセツナ。
揺るがず、真っ直ぐ。
「…………はあぁ……セツナ、しゃがめ」
「……え?」
「しゃ、が、め」
セツナはその場にしゃがむと、アデシャ族長を見上げる。
そして……。
ぎゅっ──。
「……ぇ……?」
アデシャ族長が、セツナをぎゅと抱き締めた。
「……お主はちっとも変わっておらんな。何かあってもシュユの前でお姉ちゃんぶって、仲間の前では涙を見せない。でも、本当は凄く傷付いている。本当は、今でもそうなのじゃろ?」
「……そ、そんなことない、わよ。……私は……わたし、は……」
「分かってる、分かってる」
ぽんぽんと背中を叩いて、頭を優しく撫でるアデシャ族長。
まるで、赤子をあやすように、ゆっくりと。
「──お帰り、我が同胞セツナ。妾は、お主のしたことを全て赦そう」
「……ぁぁ……あああああああああっ! うわああああああああああ! ぞくちょっ、わた、わたしっ……! もどっでごれだあああああああぁっ! うえぇぇぇぇぇんっ!」
「よしよし。よく、今まで頑張ったのじゃ」
あの時と同じように、人目をはばからず号泣するセツナ。
……これが、あいつの本当の心、なのかもな……。
「よかったわね、セツナ。赦してもらえて」
「ですね。ビンタされた時は、ヒヤヒヤしましたが」
「うえぇーんっ! ねえざま、よがっだぁ……!」
……さて、感動の再会のところ悪いが……俺らも、ビンタ覚悟で謝らなきゃなぁ。
結果、神樹デルタの身を奪われたことの罰として、俺だけ拳骨を顔面に食らった。
いや、何で俺だけ?
今俺達は、霊峰クロノスの頂上で、大中小の石を縦に積み上げていた。
クロを吸収したアビスが死んだことで、異界は崩壊し、俺達は外へ弾き出された。
今ここに、レイガの遺品は何も無い。これは、せめてもの弔いだ。
俺の隣に立っているレアナが、疲れた表情でぐーっと伸びをした。
「んーっ……! 何だか、長い戦いだったわねぇ……エルフの里で戦争してたのが、随分と昔みたいに思えるわ」
「そうですね。まさかあの時は、こんな風になるとは思いませんでしたけど」
リエンが振り向き、俺達も同じ方向を向くと、セツナが沈痛な面持ちで立っていた。
「……あ、の……その……」
「姉様……」
シュユが傍に立ち、不安げな顔で俺を見つめてきた。
「どうした?」
「……ジオウ殿。レアナ殿。リエン殿。無理を承知で頼む。確かに姉様は悪事を働いた。だが、全部操られていたことなのだ。だから……」
「……セツナを許してくれ、って言いたいのか?」
「…………っ」
……セツナのやって来たことを考えれば、許す許さないの範囲では収まらない。罪を償うか、償わないかの話になってくる。
ただそうなった時、それを決めるのは俺じゃない。
「……ま、その辺の話はアデシャ族長にでもしてくれ。それで許されようが、許されまいが、俺には関係ない。俺達は元凶である悪魔を倒したし、レアナも護りきれた。それで十分だからな」
隣にいるレアナの頭に手を乗せると、驚いたような、恥ずかしがってるような、嬉しいような……口をもにゅもにゅさせて、何とも言えない顔で髪をモフモフしている。やっぱ可愛いなこいつ。
「……ハァハァ……レアナちゃん可愛い……うへへっ」
おいリエン、今その気持ち悪い笑みはやめろ、ヨダレを垂らすな。
リエンから視線を外してチラッと二人を見ると……まだ、浮かないような顔をしていた。
アデシャ族長を利用して神樹デルタの身を奪ったんだ。許されるかどうかなんて、分からないもんな。
「……ま、許されても、許されなくても、セツナはもう俺の仲間だ。安心しろ。仲間を見捨てるなんて、俺はしねーよ」
「……ジオウ君……」
里で受け入れてもらえなければ、うちに住めばいいだけの話だ。何も問題は無い。
「それに、結局俺達もアデシャ族長に謝りに行かねーといけないしなぁ……怒られるなら、一緒に怒られようぜ」
結果的に神樹デルタの実を悪用されずに済んだとは言え、奪われたことには変わりない。アデシャ族長からの依頼は失敗したと言ってもいい。拳の一つや二つ、甘んじて受け入れよう。
「ぅ……ごめんなさい……」
「あ……いや、セツナを責めてるわけじゃないんだ、マジで」
そういや、神樹デルタを奪ったのこいつだったな。……この話をこれ以上掘り下げるのはよそう。
「じゃ、早速サシェス族の里に向かおうぜ。リエン、少し魔力は回復したろ。頼めるか?」
「分かりました。ほんの少ししか保てないので、道を作ったら直ぐに入ってくださいね」
リエンの指が動き、エタが《ブラックボックス》を発動させる。
レアナ、俺、シュユ、セツナ、リエン、エタの順で飛び込むと、景色が霊峰クロノスの山頂ではなく、瓦礫の山が積み重なり、煙の燻る里へ戻ってきた。
「…………っ」
セツナが唇を噛み締めて俯いた。……これは、セツナが巻いた火種の結果だ。受け入れさせるしかない。
瓦礫の中を歩いていると、整理をしていたエルフ達がこっちに気付いた。
「おい、あれ……」
「あの人間達だ……」
「……え、おいあれ……!」
「セツナ……?」
「何であいつがここに……」
「セツナは裏切り者だろ……?」
「あの人間達が捕まえたのかもしれない……!」
「流石、族長が認めただけあるわね」
エルフ達の話し声が、風に乗って聞こえてくる。セツナも苦しそうにしているが、シュユがその手を握った。
「姉様、大丈夫だ。私達がいる」
「……ええ、ありがとう、シュユ」
……セツナは、シュユに任せればいいか。
……お、見えて来た。族長の家だ。
流石に宝樹リシリアは傷一つ付いてないな。敵部族とは言っても、神聖な樹は傷付けなかったか。
……ん? 誰か、家の前に立ってるぞ……?
「アデシャ族長……?」
回復魔法で既に歩けるまで回復したのか、いつもの布を纏っただけのような格好で、アデシャ族長が仁王立ちで俺達を出迎えていた。
……明らかに、怒りに満ちた表情で。
少し離れた位置で止まり、互いに沈黙する。
……まずは、俺から声をかけるか……。
「あー……アデシャ族長。今戻った」
「……うむ、ご苦労だったの、ジオウ。……よく、セツナを生かして捕まえた」
ギロッ。アデシャ族長の視線がセツナを射抜く。
「……すぅー……はぁー……」
セツナはシュユの手を離すと、一人でアデシャ族長の元へ向かっていった。
……とりあえず、今は見守るしかない、か。
「……セツナ……お主のその目、以前と違うな。……ジオウに助けられたか?」
「……ん……助けてもらった……」
「……そうか……お礼は言ったかい?」
「……ん……」
「……なるほど、な。……お主に何があったのかなんて、妾は聞かんぞ。もうジオウが解決したみたいだからのぅ」
「……ん……」
「だが、それでも……!」
アデシャ族長の腕が動き、
──スパアアアァァァンッッッ!!!!
鋭いビンタが、セツナの頬を打ち抜いた。
「操られていたか、それとも洗脳か、依存か……それは分からんが、今までどれだけの人間を苦しめ、どれだけの悪行を重ねたか……セツナ自身がよく分かってるはずじゃ」
「……分かってるわ……全部」
口を切ったのか、口元から血を流しても、アデシャ族長を見つめるセツナ。
揺るがず、真っ直ぐ。
「…………はあぁ……セツナ、しゃがめ」
「……え?」
「しゃ、が、め」
セツナはその場にしゃがむと、アデシャ族長を見上げる。
そして……。
ぎゅっ──。
「……ぇ……?」
アデシャ族長が、セツナをぎゅと抱き締めた。
「……お主はちっとも変わっておらんな。何かあってもシュユの前でお姉ちゃんぶって、仲間の前では涙を見せない。でも、本当は凄く傷付いている。本当は、今でもそうなのじゃろ?」
「……そ、そんなことない、わよ。……私は……わたし、は……」
「分かってる、分かってる」
ぽんぽんと背中を叩いて、頭を優しく撫でるアデシャ族長。
まるで、赤子をあやすように、ゆっくりと。
「──お帰り、我が同胞セツナ。妾は、お主のしたことを全て赦そう」
「……ぁぁ……あああああああああっ! うわああああああああああ! ぞくちょっ、わた、わたしっ……! もどっでごれだあああああああぁっ! うえぇぇぇぇぇんっ!」
「よしよし。よく、今まで頑張ったのじゃ」
あの時と同じように、人目をはばからず号泣するセツナ。
……これが、あいつの本当の心、なのかもな……。
「よかったわね、セツナ。赦してもらえて」
「ですね。ビンタされた時は、ヒヤヒヤしましたが」
「うえぇーんっ! ねえざま、よがっだぁ……!」
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