パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第25話 友として

「くっ……! クソ劣等種がああああ! 俺を! テメェらより優れてるこの俺を! そんな目で見下すんじゃねぇぇぇぇええええ!」


 アビスがドタバタ暴れ回るが、体の向きと頭が反対だから、俺に攻撃が当たることはない。と言うか、あまり体に力が入ってないように感じるな。


「クソッ、クソァッ! 何でだッ、何で力が入らねェ……!」


『今、アビスの力を食べてる、です。思うように力が入らなくて当然、です』


 なるほど、だからか。


「今、クゥがお前の力を食ってるらしい。それに加えてこのダメージだ。俺の力でも押さえておけるくらい、お前は弱ってる」


「……馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なァ! 俺は悪魔だ! 深淵すら覗いた、この世で最も真理に近い存在だぞ! それをっ……それなのに……!」


 頭が半分吹き飛んだ、アビスの顔を見る。


 憤怒、嫉妬、憎悪、恐怖、悲哀……その全てが混ざったような、まさに悪魔のような表情。


 だが……そんな中にも……ほんの少しだけ、レイガの面影が見える。


「……思えば、お前には散々苦労させられたよ、レイガ」


「……あ? この体の持ち主か? そんなもん、魂からとっくに消滅して──」


「うるせぇテメェは黙ってろ」


 手に力を込めると、アビスは苦しそうな顔をして黙った。


「俺は、お前が扇動し、お前達が俺にしたことを、決して忘れない」


 俺の体に刻まれた傷、痛み、恐怖。


 忘れもしない、こいつらの嘲笑う姿。


 どうして忘れられよう。


「ぐっ……がっ……!」


 アビスの口から泡が溢れる。


 俺の手が緩まることはない。


 クゥの力も合わさってるからか、異常なまでの力が発揮される。


「……だけどな、レイガ。俺は昔、お前のことを……」


 本当に、親友だと思ってたんだ。……六年前、【白虎】を設立した、あの時は……。


 笑い合っていた。


 助け合っていた。


 強い魔物にも立ち向かった。


 強過ぎる魔物からは一目散に逃げた。


 強くなるために修行もした。


 依頼をこなす為に仲間を集めた。


 喧嘩もした。


 仲直りもした。


 一緒に泣いた。


 一緒に楽しんだ。


 一緒に夢を語った。


 一緒に──冒険したんだ。


 ……これは、言葉には、しない。


 もう俺も、レイガも、昔とは違う。


 それも過去の話し。


 力に溺れ、弱者を許さず、名声と栄誉を……酒を、金を、女を、貪欲に追い求めたレイガ。


 そして今こいつは、俺への憎悪を源に力を求め、クロに縋った結果……悪魔に成り下がった。世界を滅ぼす可能性のある、悪魔に。


 なら……俺の手で、こいつを終わらせるのが筋ってもんだろ。


 残り少ない魔力を右手に集中すると……。


「ジオウ君、私の残りの魔力も使って」


「セツナ……ありがとう」


 セツナの手が、俺の肩に触れる。


 そこから流れてくる魔力を、右手に集中させた。


 セツナも、本当なら自分の手で終わらせたいのかもしれない。だが、その役目を俺に譲ってくれたのだ。


「お前はいい女だよ、セツナ」


「……それはどうも」


 セツナは、頬を朱色に染める。何だよ、そんな顔も出来るんだな。


 セツナの新しい一面を見たところで……魔力を、魔法に変換する。


 俺の使える光魔法で最大の魔法、《神聖浄光セイント・アーク》。


 それが、俺の右手を基点に発動する。


「ごっ……おっ……ぉごっ……!?」


 アビスの顔が苦しみに歪む。


 俺の魔力は残り少ない。このまま倒れろ……倒れてくれ……!


「……ぁ、がっ……ジ……オ……ウ……っ!」


 ……ぇ……?


 苦しみの感情の中、僅かに見せたこの表情は……昔、悲しみで泣いていた……あの時のレイガの表情そのものだった。


「……すま、な……かっ……た……」


 ……レイガ……。


「……だのっ、む……ごろ、じで……俺を、殺し、て……くれっ……!」


「……ああ、終わらせよう。レイガ」


 アビスの……いや、レイガの体を抱き寄せ、そして──。


「《神聖浄光セイント・アーク》」


 異界を照らすほど、一際大きな光りが、俺とレイガを包み込んだ。


「げがっ!? ぐごあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ──ぁ……」


 レイガの体から力が抜けた。


 俺の腕の中で、レイガの体がボロボロと崩れて行くのが分かる。


 悪魔となった人間の最後は、悪魔が死んだ瞬間……肉体を保てず、自壊する。


 力無く俺に身を預けるレイガは、俺の耳元で口を開いた。


「……ジオウ……」


「……何だ」


「……俺達、どこで間違えたんだろうな……」


「……さあな……」


「……なぁ、頼みがあるんだ……」


「……ん?」


「……調子のいいことを言ってるって、重々承知してる……」


「…………」


「……もし、次があったら……その時は……友として──」


 レイガの最後の言葉。


 それを最後まで聞くことなく……レイガの体は、崩れ去った。


「……ああ、レイガ。──その時は、友として」

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