パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第15話 深淵を覗く者

 シュユはキョロキョロと周りを見渡し、後ろに倒れているセツナを見る。


「……反射的に助けてしまったが……説明を要求する」


「それは後だ。今は、あいつを止める!」


 こうしてる間にも、クロはレイガを負の感情の中に入れようとしてる。それを止めねーと……!


「う、うむ!」


 魔法は跳ね返される。なら、接近戦だ!


 力を振り絞り、俺、レアナ、シュユ、アンデッドシノビが、クロと非情魔像に向かい走る。


「一人増えただけでいい気になるなものではありませんヨ」


 ……? 何だ、奴らに向かって走ってたのに、いきなり距離が離された……!?


「チッ、時空間魔法ね……!」


 レアナが苦虫を噛み潰したような顔をする。なるほど、こういう使い方をして来たか……!


「そっちがその気なら!」


 瞬間、俺の視界がまた切り替わり、今度はクロが目の前に現れた。エタの時空間魔法で移動されたらしい。


「チッ!」


 次はクロ。今度は上空だ。


「何の!」


 次はエタ。非情魔像の真上だ。


 クロ、エタ、クロ、エタ、クロ、エタ。


 目まぐるしく変わる景色。よく見ると、レアナとシュユも同じように瞬間移動していた。


「くっ、近付けない……! ジオウ殿、どうすれば!」


「分からん! とにかくリエンを信じて走れ!」


 止まるな、走れ、走れ……!


「そ、そうだっ。リエン殿、奴を瞬間移動させれば!」


「ダメよシュユ! 今は互いに、自分に瞬間移動が掛からないよう牽制しながら、私達を瞬間移動させてるの! 今はリエンを信じて走るしかない!」


「う、うむ!」


 俺もシュユと同じことを思ったが、そういう事情があるなら仕方ない……。


「クゥ、瞬間移動の魔力を食えるか!?」


『流石に無理、です!』


 くっ、キツいな……!


「あなた方と遊んでる暇はありませン。──儀式の時間でス」


 っ! ヤバい……!


「リエン、レイガを移動させろ!」


「さ、流石にっ、そこまでっ、意識をっ、回りまっ、せん……!」


 リエンの辛そうな声が聞こえてくる。これは本格的にまずいぞ……!


「さア、レイガさン。あなたの体を依代ニ、今、あの方の復活ヲ……!」


 クロが、レイガの頭を掴みあげ、壺へ向かって投げる。


 宙に投げ出されたレイガの体は、重力に逆らわず、一直線に壺の中へ落ちていき……。






 ──ドクンッ──。






 鼓動。それが聞こえると同時に、言葉では言い表せない程の悪寒が、肌を粟立たせた。


「な、何ですかっ、この感じは……!」


「わ、分からないけど……私の眼でも鑑定しきれないわよ……!?」


 レアナの眼でも、だと……!? クロの奴、何を復活させようとしてるんだ……!


『これは……! お兄ちゃん、逃げる、です!』


「クゥ、あれを知ってるのか!?」


『今思い出した、です! あいつだけはまずい、です! 戦って勝てる相手じゃない、です!』


 ギガントデーモンのクゥがこんなことを言うなんて……何なんだよ……!


 ──ドクンッ──ドクンッ──ドクンッ──


 愕然としてると、今度は壺がガタガタと震え出した。


「リエン、皆を一箇所に集めろ!」


「はい!」


 指示通り、リエンの側に瞬間移動する俺達。その前をアンデッド軍がガードするように展開され、魔法障壁を張った。


「とてつもないな、あれは……! あんなにもおぞましい魔力は、初めて感じたぞ……!」


 シュユが生唾を飲む。今の俺達は、リエンの側で瞬間移動されないようにじっと見ているしかない……!


「仕上げでス」


 と、どこからともなく現れたあれは……神樹デルタの実……!


 クロが、その実を壺へ投げ入れる。


 そうか、神樹デルタの実を奪ったのは、宿ってるエネルギーを使って、負の力を高めるためか……!


 ──ドクンッ──ドクンッ──ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ──


 鼓動が早まり、非情魔像そのものが震え出す。


 そして──。


 ゴオォッ!!!!


 ──轟音。闇すら震わせる程の轟音が鳴り響き、非情魔像が粉々に吹き飛んだ。


 その中心に、膝を抱え込むように浮いている何か・・が一つ。


 コウモリのような翼で身を包み、球体のようになっているが……間違いなく、奴は人型をしている。


 それが、ゆっくりと翼を広げ、手足を伸ばし、姿を露わにする。


 レイガを基にしたからか、姿形は完全にレイガだ。


 銀髪は黒く染まり、白目が黒くなっている。背中からはコウモリの翼が二対四枚生え、そのせいなのか上半身の服や装備は消えている。その代わり、禍々しい黒い痣模様が、上半身を埋めつくしていた。もしかしたら下半身にまで及んでるかもしれないが、そこまでは分からない。


 頭では奴を倒さないといけないと分かってても、本能が全力で回れ右を命令してくる。クゥの言う通り、あいつはマジでヤバい……!


「おおっ、我が敬愛なる主ヨ……!」


 クロが、そいつの前に跪く。主、だと……?


「……クロムウェル……久しいな」


 ゾッ──!


 クロに話しかけた、短い言葉。それなのに、今俺は間違いなく……死を覚悟した。


 冷や汗が頬を流れるが、それを拭う余裕もない。動けば殺られる。そんな予感がした。


「あいつは、ちょっとまずいわね……」


「エタちゃんとセラちゃんの操作に専念すれば、ギリ……ですかね……」


「ステータスが四倍に上がっているのに、まるで勝ち筋が見えんが……やってやるぞっ」


 レアナ、リエン、シュユがそれぞれの得物を構える。今は、こいつらに頼るしかない、か……。


「はっ、主が滅せらレ、五〇〇〇年の月日が経っておりまス」


「……五〇〇〇年……そうか。もうそのような時間が経っていたのだな。よくやった、褒めて遣わす」


「ありがたき幸セ……!」


 ……あの口ぶりや内容からして、クロはあいつの手下で、五〇〇〇年以上生きてることになる。つまり……クロも、悪魔だったってことか……!


「クゥ、奴の正体はなんだ……!?」


『……あいつは、ギガントデーモンと同列とされてる、「深淵を覗く者」。双極の悪魔……アビス、です』


 っ! ギガントデーモンと、同列……!?


 マジ、かよ……!

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