パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第38話 二人の決着

 ──リエンside──


「……ぇ、と……?」


 ……これは、何でしょうか……?


 目の前に迫るアリナの《七曜の光線セブンスレーザー》。七つの属性を掛け合わせた混合魔法で、スピードもパワーも桁違いの魔法……のはずが……。


「……めちゃめちゃ遅いですね……」


 歩いても避けられるくらい、進むスピードが遅いです。一体どういう……?


 と、とにかく、この場から離れないと。


 セラちゃんとエタちゃんを連れて、《七曜の光線セブンスレーザー》の射線から外れます。


 ……よく見ると、周囲の景色も遅くなってる……? 何これ、どういうことでしょう……?


 ……っ、エタちゃんの魔力がゴリゴリ削れてる……これ、まさかエタちゃんの魔法!?


「か、解除!」


 強制的に魔法を解除すると、世界のスピードが元に戻り、《七曜の光線セブンスレーザー》が大地を抉った。


「……あれェ? おかしい。何で。当たった。外れた。当たるはず。何で。どうして。避けた。避けられた。避けられない。避ける。避け避け避け避け避け避け避け避け避け避け避け避け避け避け避け避け避け避け避け避けけけけけけけけけ」


 っ! 《七曜の光線セブンスレーザー》の無差別連射ですか……!


 だけど今なら!


「エタちゃん! 《世界時計ワールドクロック》!」


 魔法発動。それと同時に、アリナの魔法も、ガレオンの動きも、周囲の敵軍も、全てが緩やかに遅くなる。


 時空間魔法……今まで“空間”しか使えず謎でしたが、なるほど。これが“時”の力ですか……。


 エタちゃんと、エタちゃんに繋がるアンデッド軍以外の全ての速度を遅くする魔法……ただ魔力消費がエグいから、乱用は出来ませんねっ。


 もってあと十秒。これで終わらせます!


「エタちゃん、セラちゃん!」


 猛毒龍ヒドラの巨剣を構え、ガレオンに向かうエタちゃんと、魔力を練り上げてアリナに向かうセラちゃん。あと七秒!


 エタちゃんが、暴れ狂うガレオンの攻撃を余裕をもって躱すと、脚を払ってバランスを崩す。そしてそのまま傾く体に逆らうように、逆向きから巨剣を振り抜き──!


 ザンッ──ドサッ……。


 ……首を落とせば、如何にあの男でも倒れるでしょう……。


 あと一人!


 アリナの《七曜の光線セブンスレーザー》に当たらないように気を付けながら進み、手の届く距離まで迫った。


「……おやすみ。《八寒地獄・摩訶鉢特摩マカハドマ》」


 セラちゃんがアリナの頬を撫でる。


 撫でられた場所から瞬く間に凍り付き、更に凍った場所から粉々に崩れて鮮血を散らす。まるで、凍り散っていく彼岸花のように。


 ……っ。時空間魔法も、限界みたいですね……。


 魔法を解除すると、世界が元の世界に戻っていく。エタちゃんと繋がっていた思念糸も切れ、エタちゃんの体がその場に崩れ落ちた。


 それと同時に、アリナとガレオンの時間も戻り、鮮血で大地を濡らす。


「ぁ……ぉ……?」


「じ、お……潰……」


 …………。


 ……息絶えましたか……。


「……っ。はぁっ、はぁっ……! つ、疲れました……」


 二人と同時に同調リンクするのは、強化された体でもキツすぎます……。


 でも、ここで休んではいられませんっ。早く、レアナちゃんの所に向かわないと……!


 待っていてください、レアナちゃん……!


 ──────────


 ──レアナside──


 …………えと……何が、起こってるの……?


 間違いなく、さっきまで私の目の前にリリがいた。そして背後からの魔法の気配も間違いなく感じていた。


 それなのに……私は今、二人から離れた位置にいる。そこからクロ、レイガ、リリの姿を、まるで灰色に染まった世界・・・・・・・・・から見ていた。


 ……遅い。とんでもなく、遅い。


 理屈は何となく分かる。あの頭に響いた言葉。ジオウとシュユが契約したことによって、私達に掛かってる倍率が四倍に上がった。


 その効果は、私の体だけじゃなく……この眼にも現れた。


 《鑑定眼》の能力向上。それに伴う動体視力の超強化と、思考力の超強化。これが、今のこの遅い世界を見せているんだ。


「前までは三倍の上昇量だったけど、シュユと契約して四倍になったのね。身体能力、動体視力、思考力が四倍、か」


 これなら行ける……!


「ッ、速イ……? ……そうですカ。ジオウさんの方で何かあったのですネ。面倒ナ……」


「あんたも察しが良いわね。なら、これで終わりよ!」


「いえいエ、まだまだこれからですヨ」


 クロの目がまた妖しく光る。それと同時に、二人から漏れ出す魔力の禍々しさが膨れ上がった。


「ォッ、アッ、イッ、ガッ……!?」


「ァォ、ギッ、ベッ……!?」


「くふふふフ。貴女の力が強くなるのなラ、こちらの負の感情を増大させればいイ。それだけの事なのでス」


 ……哀れね。クロに操られた負の感情が、体に影響が出始めてる。皮膚や肉が裂けて、体中から鮮血が吹き出てる。私が何かする必要もなく、いずれ息絶えるでしょうね……。


 でも……それは可哀想だし、一思いに私がやってあげるわ。


 血の涙を流しながら、隻腕で向かってくるリリ。その動きはクロの力のせいで、さっきより数段素早くなっている。


 けど……遅い。


 リリの剣戟とレイガの魔法を避ける。避ける。避ける。必要最小限の動きで、かすり傷一つ負わずに。


「……当たらない……おかしいですネ……」


 ふん。やっと顔色が変わったわね。


「あんた、私の眼が欲しい割に、私の眼ついて何も分かってないわね」


「何ですっテ……?」


「私の眼は《鑑定眼》……言い換えれば、観察が得意だって事よ!」


 相手の動きを観察し、動体視力と思考力、今までの経験を元に、相手の動きを予測する、一種の《未来予知》。


「馬鹿ナ……スピードもパワーもこちらが勝っているのに、何故当たらないのですカ……!? 理解できない……分からない……何故、何故ェ!」


「分からないのなら、所詮あんたはその程度って事よ」


 さあ、レーヴァテイン……消し炭にしなさい!


 最大火力!


 瞬間、レーヴァテインから吹き荒れる紅い炎は形を変え、色を変え……飲み込むような蒼炎に成った。


「宝舞神楽・蒼炎剣!!!」


 パワー、スピード、炎の推進力に加え、《未来予知》でガードする位置を全て見切り、吸い込まれるように連撃の全てをリリに叩き込む。


「────ッッッ!?!?」


 細切れ。からの蒼炎による炭化。リリから感じられるドス黒い魔力は消滅した。


 後はアイツら……!


 剣を振り抜こうと振り返る。と……あれ、レイガの姿がない……!?


「ふむふム。なるほどなるほド。これほ、とてもレアナさんの眼を奪える状況ではありませんネ」


「っ!?」


 いつの間に、レイガを自分の側に……!


「これは私の計算ミスでス。リリさんとレイガさんなら、眼を奪えると思いましたガ……これ以上、レイガさんの体を傷つける訳には行きませン。ここは大人しく退散するとしましょウ」


「なっ!? 逃げる気!?」


「ええ、逃げまス。最後に勝てば過程などどうでもいイ。勝者こそが正義。そして、最後に笑うのは私達でス」


 ……消えた……そう言えばジオウが言っていたわね。もしかしたらクロは、時空間魔法を使えるかも、って……。


 チッ……面倒な奴を逃がしたわね……。


「…………っ、ごふっ……!」


 ぐ……頭がガンガンする……眼も霞んで、立ってられない……これが、強すぎる力を一気に使った弊害なのかしら……。


「レアナちゃん!」


「……リエン……良かった、勝ったのね……」


「はいっ。でも、今はそんな事よりレアナちゃんを治さないと……!」


「ぇ……?」


 ……ああ、よく見ると、全身ボロッボロね。ジオウの力もあったのに、情けないわ……。


 ぁぁ……意識が、遠のく……。


「リ、エン……悪いけど……ちょっと、休む……わ……」


「……はい。お疲れ様でした、レアナちゃん──」

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