パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第36話 三人目

「ぐっ……!」


 この魔力の密度……信じられないっ、人面百足を余裕で超えてるぞ……! あれをこのままにしちゃまずい……!


 だが……これ以上は近づけないっ。ローブのお陰で軽減されてるとは言え、この圧の中に入っていくのは無理だ……!


「ぐ、む……凄まじい魔力……!」


 この魔力の奔流に晒されているエンパイオも苦しそうだ……攻めるなら今!


 両手をエンパイオに向け、体に纏っていた暴風を手の平に集める。


 圧縮、圧縮……! まだ、まだだ……!


 威力はそのまま、圧縮され続ける球体の暴風。球の中で回転数が上がり続け、徐々に甲高い空気を切り裂くような音が響き渡る。


 行けっ──!


「《暴風・魔弾テンペストストライク》!」


 ゴォッッッ──!!!


 魔力の奔流に邪魔されることなく、エンパイオに向かって《暴風・魔弾テンペストストライク》が突き進む。


 これなら……!


 その場から一歩も動かないエンパイオ。


 そのエンパイオの目の前に魔弾が到達した瞬間、今まで押さえ付けられていた暴風の力が……爆ぜる。


 大気を揺らし、鋼鉄すら切り刻む乱雑な暴風がエンパイオの体を飲み込む。当然その辺の魔物ならミンチだ。


 頼む、このまま死んでくれ……!


「────」


 ぇ……? 今、何が聞こえて……っ。な、何だこの光りっ、眩しい……!


 暴風の中心。エンパイオから緋色の光が迸る。その光が、暴風を全て押し退けた。


 巨大な八つの光の柱。


 それらが光の粒子となって弾けると、そこに現れたのは……人面百足を彷彿とさせる程巨大な、八匹の蛇。ただ外皮は土塊ではなく、妖しい緋い光沢を帯びている。


 その一匹の頭の上に、エンパイオが腕を組んで仁王立ちしていた。


「《ヒヒイロカネ・八岐大蛇ヤマタノオロチ》」


 なっ……ヒヒイロカネ……!? これ全部それで覆われてるのか……!?


 金剛石より硬く、錆びない、曲がらない性質……アルケミストの大洋館にもあったが、まだ俺達には加工出来ない代物……そいつを相手にするのは骨が折れるどころじゃないっ。


「魔石を使うのは初めてだが……どれ、まずは小手調べと行こう」


 来るっ……!


「《ロック・ガトリング》」


 っ!? でかぁ!?


 一つ一つが俺と同じかそれ以上のデカさだ! それがさっきと同じ数で、しかも全部ヒヒイロカネとか反則だろ……!


 弾くのも無理、逸らすのも無理、当然受けるのも無理。全力回避一択!


「《空中歩法エア・ウォーク》!」


 加速ッ、加速ッ、加速ッ! 避けきるには更なる加速だ!


「速い──だが!」


 エンパイオが俺に向けて開いた手を向ける。


 それを、閉じる。


「がっ……!?」


 ば、爆発……ヒヒイロカネの巨岩が……!?


 爆風に晒され、一瞬スピードが落ちる。


 俺を穿とうと飛んでくる無数の巨岩。減速状態でこれを避けるのは……!


「しまっ」


 ズゴアアアアアアアアアアアア!!!!!


 ────ッ!


 …………ん……あれ……? 衝撃も……痛みも、無い……?


「ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ……ま、間に合った……!」


「え……シュユ!?」


 え、何でこいつここにいんの!? と言うか、何で俺シュユに抱き抱えられてるの!?


 ……よく見ると、俺の体に光のロープが巻き付いてるな……確か、《バインド》の魔法だったか? これで、俺を地面に引っ張ったのか……助かった……。


「じ、ジオウ殿、無事か?」


「ああ、シュユのおかげでな」


 あのまま食らってたら間違いなく潰れたカエルだった……。


「……シュユ、何でここにいるんだ? 向こうはどうなってる?」


「そ、そうだっ! 今、族長達の所にセツナが……このままでは族長達は殺され、神樹デルタの実も奪われてしまう!」


 なんだと!? くそっ、思ったより深刻そうだな……!


「そ、それに……」


「……どうした?」


「……遠目に見ただけだが、レアナ殿とリエン殿も苦戦しているみたいだ……特にレアナ殿の方には、例の燕尾服の男もいた」


 クロ……! そこまで攻め込まれているのか……!


 もう、エンパイオに時間を割いている状況じゃなさそうだな。


「……何故この場に女がいる」


「「っ!」」


 エンパイオの重い声が聞こえる。


 見上げると、憤怒に染まった顔で俺達を見下ろしていた。


「これは俺とジオウのサシの勝負だ。女、貴様は消えろ」


「ぅ……」


「……おい、エンパイオ」


 たたらを踏むシュユの前に立ち、アンサラーを構える。


「これ以上お前とやってたら、向こうで取り返しのつかない事になりそうなんでな。悪いが、俺達で相手をさせてもらう」


「……気でも狂ったか? お前に戦士としての誇りはないのか?」


「誇りを守って大切な奴らを全部失うくらいなら、その程度の誇りなんざ犬の餌にしてやるよ」


「……貴様には失望した。死ね」


 エンパイオの乗っている頭を除く七つの頭が、鞭のようにしなりながら迫ってくる。


「じ、ジオウ殿……!」


「シュユ。あいつに勝つにはお前の力が必要だ」


「わ、私の力が? しかし……」


 《縁下》発動。






 ◇◇◇◇◇


 シュユと本契約を結びます。


 契約内容:雇用契約
 契約破棄条件
 ①雇用主の契約内容の破棄
 ②雇用主の死亡
 ③被契約者の死亡
 ④被契約者の悪事発覚
 ⑤雇用主への攻撃的行動


 契約しますか?
 ・YES
 ・NO


 ◇◇◇◇◇






「こ、これは……!?」


「契約だ、シュユ!」


 YESを選択。






 ◇◇◇◇◇


 シュユと本契約を結びました。


 ◇◇◇◇◇






「《光縄・呪縛カース・バインド》!」


 俺の知る拘束系魔法の数倍……いや、数十倍の数の光のロープが一瞬で《ヒヒイロカネ・八岐大蛇ヤマタノオロチ》の頭を雁字搦めにして地面に縫い付けた。


「さあ行くぜ、シュユ!」


「うむ!」






 ◇◇◇◇◇


 異種族と本契約を結びました。


 スキル名:《縁下》Lv.3
 スキルランク:ユニーク
 発動条件:オート
 効果:発動者が所属する組織全体のステータス量を一定の倍率で増加させる。
 倍率:4倍


 ◇◇◇◇◇

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