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パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第20話 これだから天才は……

 サシェス族の里に滞在して四日が経った。まあその内の半分は酒飲んでぶっ倒れた記憶しかないけど……。


 その間に、アデシャ族長が俺の考案した《神隠し》破りを更に改良し、《神包み》に探知結界と気流操作を組み込んだらしい。


 更にサシェス族とリスマン族にいるエルフ全員の魔力を《神包み》のルーンに刻み付けることで、それ以外の異物が入って来た時に捕縛魔法も自動的に発動するのだとか。何か知らない間にえげつない程改良されてるな……。


 里の周りの樹木の内側にも、探知結界+気流操作+捕縛魔法のルーン文字を刻んでいるらしい。エルフは魔法を得意にしてるらしいけど、俺の考えた物をこうも簡単に改良されると大分凹む……これだから天才は……。


 今アデシャ族長は見晴台の上に立ち、ミノムシのように宙吊りになっているレグド族とテサーニャ族を肴に、酒を飲んで爆笑している。


「くかかかかかかかかかっ! 面白い! 面白い程引っ掛かるのぅ!」


 確かにかなりの数だ。今見えてる範囲でも、四人は吊るされてるな。


 アデシャ族長の隣で眺めていると、見晴台にレアナとリエンが登ってきた。


「私達が寝てる間に、なんか凄い事になってるわね」


「うわぁ、流石に同情しますよ……あの人なんて目がウサギさんじゃないですか。解放はしないんですか?」


 リエンの問いはもっともだ。俺達人間の間には、捕まえた兵士は捕虜として身柄を確保すると国際的に決められている。


 アデシャ族長も分かっているのか、深く頷いてリエンの問いに答えた。


「勿論、後に捕虜として牢屋にぶち込むぞ。人間同士の掟と同じく、エルフ間にも捕虜の掟はあるからの。ああして吊るされている今も、その掟は適応されている」


「……じゃあ、何で降ろしてあげないの?」


 今度はレアナが聞いた。


「くかかかかっ。別に牢屋にぶち込むのも、そこで吊るしておくのも変わらないからのぅ。どうするかは妾の一声で決まる。今はああして吊るしておく事で、助けに来た仲間を更に罠にかけるか、一網打尽にしようと考えているのじゃ。ほれ、こう話している内に、また一人引っ掛かったぞい!」


 捕縛魔法でミノムシにされたエルフ族が吊される。今度は色が黒いから、ダークエルフ……テサーニャ族の男だ。


「ですが相手もエルフなら、魔法を使って救出することも出来るのでは……?」


「確かにそうじゃが、妾の配下の者達が、魔法の発動を感知すると共に魔法遮断結界を張っている。だから魔法での救出は出来ぬのじゃ」


 ……用意周到と言うか、なんと言うか……流石族長なだけあって、戦闘に関しての布陣の配置が速いな。


 だけどこうして用意したお陰なのか、この布陣を敷いて既に二日目でレグド族とテサーニャ族からの襲撃は激減したらしい。何人かはこうして捕まっているけど、嫌がらせや奇襲はされてないそうだ。


 結果に満足していると、レアナが俺の腕を引っ張った。


「ねぇジオウ、私達から向こうには仕掛けないの? やられっぱなしは性にあわないわ」


「ん? ああ、俺達からは何もしない。無駄に血を流す必要は無いからな」


 それに、俺達がこっちに付いているように、クロ率いる組織も向こうに付いていると考えた方がいい。ここで俺達が行動を起こして、レアナが危険な目に合うのは避けないといけないからな。


「今、周囲にはリエンのアンデッドシノビを展開してもらってるんだ。もし何かしらの動きや怪しい点があれば、リエンが連絡してくれる手筈になってる。そうだよな?」


「はい。アンデッドシノビにも探知結界と気流操作のルーンを刻んだ石を持たせていますが、特に怪しい動きはありません」


「にゃるほどねぇ〜……でも暇ねぇ。暇暇、ひーまー」


 見晴台の柵に座り、子供のように足をプラプラさせるレアナ。ここに来て四日、依頼も何も無く里に引きこもってるから、かなりストレスが溜まってるみたいだ。


 そんなレアナに苦笑いを浮かべていると、アデシャ族長が口を開いた。


「なら、シュユに里の中を案内させようか? なんならお主達も行ってこい。これから守る里については、知っておいた方が良いじゃろ」


 そうだな……確かに里について、もっと知っておいた方がいいかも知れない。


「俺はそれでいいぞ」


「賛成賛成! 大賛成!」


「私もエルフについてもっと知りたいので、それで構いません」


 じゃ、決まりだな。


「シュユには妾から連絡しておく。お主達は妾の家の前で待っておれ」


「分かった」


 見晴台から軽く飛び降り、アデシャ族長の家に向かって歩いていった。


「……ここ、一応三〇メートルの高さがあるんじゃがのぅ……やれやれ、あ奴らの力は底が知れん」


 ──────────


 族長の家の前で待っていると、シュユがいつもの緑色のショートワンピースではなく、薄緑色のシンプルなロングワンピースで現れた。


「すまない、待たせた」


「いや、俺達も今来た所だ。……その服は私服か?」


「うむ。森の中を歩くにはこれでは邪魔だからな」


 その場で一回転する。くるぶしまであるワンピースの裾がふわっと浮かび上がり、細く、綺麗な太ももがチラ見した。


「どうだ? 似合うか?」


「大変眼福かと思います」


 もものモロだしではなく、ももチラ。うんうん、見事に男心を擽ってくる。


「ジ、オ、ウ?」


「何鼻の下伸ばしてるんですか。通報しますよ」


「ののの伸ばしてないわい!」


 見た目年齢十八歳超絶美少女の健康的な太ももをチラ見せされたら、聖人君子でも絶対目が行くに決まってる。違ってたら謝ります。全国の聖人君子の皆さんごめんなさい。


「ふふ。では早速案内するぞ。まずは昼食を食べよう。お気に入りの店がある。ついてきてくれ」


 シュユを先頭に里の中を歩く。


 流石に四日もいるからか、周囲からの好奇の視線は減っている。それでも、少なからず俺達への視線はあるが。


 リエンは気にせず歩いているが、レアナはキョロキョロと辺りを見渡す。


「へぇ。こうして見ると、エルフも顔が違ったりするのね」


「ああ、そこは人間と変わらないぞ。人間にも様々な顔があるように、我らエルフ族にも様々な顔があるんだ」


 だけどそれが全員美形とか、神様は不公平過ぎるな。


 美形で魔法得意で長寿、か……天は二物どころか三物も与えてるじゃないか。誰だそんな無責任なこと言ったやつ。訴えるぞ。


 シュユのお気に入りの店は大通りではなく、少し入り組んだ道の先にあるらしい。あっちへ曲がりこっちへ曲がりそっちへ曲がり……一軒の小洒落た建物が見えてきた。


「着いたぞ。ここが私のお気に入りのレストランだ。どんな料理でもあるが、特に野草シチューが素晴らしく美味い。毒は入ってないから安心してくれ」


「ちょっと、それ私に対する嫌味?」


「はっはっは」


「笑って誤魔化すんじゃないわよ! いや誤魔化し切れてないわよ!?」


「どうどう、レアナちゃん落ち着いて」


 いやまあ、あれは嫌味の一つも言いたくなる味だったぞ……。


 あの味を思い出して青ざめながらレストランの中に入ると、旨味を凝縮したような香りが鼻をくすぐった。


「……何ですかこれ、とっても良い匂いです……」


「お腹空く匂いね……!」


「リエン、レアナ。涎出てるぞ」


 気持ちは分からなくもないが、もっと女性として自覚を持って欲しい。


 俺達が入ってきたのに気付いたのか、カウンターの向こう側にいた少しガタイのいいエルフがこっちを向いた。


「いらっしゃ……おや、シュユ。また来たのかい?」


「ああ。女将さんの野草シチューを、この者達にも食べさせたくてな。頼めるか?」


「ん? 噂の人間達じゃないか。勿論だとも。うちは来るものは拒まない主義だからね。腹を空かせてたら全員客だよ」


 四人掛けのテーブルに座る。俺が窓際で、右にシュユ。前にレアナ。斜め右前にリエンが座った。


「あ、女将さん。もし肉があれば、俺にオススメの肉料理をくれ。あと全員分のパンも」


「はい毎度!」


 注文すると、小気味いい包丁の音と肉の焼ける音が聞こえてきた。やっぱり、料理の音はテンション上がるな。生殺しにされてる気分だけど。


 腹を空かせていると、リエンがシュユに話しかけた。


「シュユさん。サシェス族の里を案内してくれるとの事ですが、里にはどんなものがあるんですか? 名所とか、娯楽施設とか」


「そうだな……名所と言えば、春光の丘はサシェス族の里の中でも指折りの場所だ。常に春の陽射しが降り注ぐ丘で、雨どころか曇ったことすらないんだ。後は蒼碧の湖、宝の寝床と呼ばれる一枚岩、初代族長の銅像もある」


 つらつらと名所を上げていく。そこでレアナが手を挙げた。


「ちょっと待って。サシェス族と言えば宝樹リシリアでしょ? 宝樹リシリアは見れないのかしら?」


「あー……残念だが、宝樹リシリアは見ることは出来ない。それどころか、神樹デルタ、聖樹アーベラ、天樹オメガもこの世には存在しないんだ」


 ……存在しない?


「アデシャ族長の家の上にあったのは、宝樹リシリアの苗じゃなかったのか?」


「ああ。しかし前にも言ったが、あれは本体と交信するために植えられたものだ。本体はこの世ではなく、天上の世界に存在している」


 天上の世界? 何だそれ?


 レアナとリエンを見るが、二人共首を傾げている。どうやら聞いた事ないらしい。


 シュユは先に出された水を飲み、話を続けた。


「天上の世界は神々の住む世界。各部族の族長はそれぞれの苗を通じて神々への祈りと信仰を捧げ、その恩恵を実という形で受けている。神樹デルタの実はその中でも最上位に位置する恩恵なのだ」


 ……あの酒豪で怪力で初対面の相手に魅了を仕掛けてくる奴が、神々に祈りを捧げてる? ……ダメだ、全く想像出来ん。


 眉を寄せていると、シュユが「なら、」と提案してきた。


「あと一時間程で、族長の祈りの時間だ。見に行くか?」


「良いのか? 祈りって神聖なものだろ?」


「うむ。しかし族長は、我々が信仰するものを身近に感じさせるよう、常に民の見える場所で祈りを捧げている。問題ないぞ」


「……そういう事なら、見させてもらおう。アデシャ族長も、守る里のことは知っておいた方がいいと言ってたからな」


「なら決まりだ。祈りを見た後は、里の中を案内するぞ」


 そうこう話している内に、女将さんが俺らの前に料理を運んで来てくれた。


「はいお待ち! 野草シチューとパン、あと男前な兄さんには、鹿ロースのステーキだよ!」


「えっ」


 …………鹿、すか。






 結局、美味すぎる野草シチューは五杯もおかわりした。


 が……鹿ロースのステーキを食べる度にペルの事が頭に浮かび、何か悲しい気持ちになってきた……。

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