パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第17話 サシェス族の里

 シュユの案内で歩くこと二〇分程。何の変哲もない巨木の前で立ち止まった。


「この巨木が、我らサシェス族の里へ通じる道。サシェス族と、サシェス族の認めた者しか入れない空間となる」


 手を巨木に翳す。次の瞬間、巨木が光の粒子となって弾け、その向こう側に巨大な木製の門が現れた。その門を中心に、丸太が等間隔に並んで柵を作っている。


「凄いわね……」


「壮大な魔法ですね。これもエルフ特有の?」


「ああ。《神包み》と呼ばれる魔法で、族長のみに秘伝される魔法だ。効果は《神隠し》と同じだが、範囲が桁違いに広く、族長が生きているまで半永久的に発動するのが特徴だな」


 なるほど……この《神包み》、出来ることなら館の方にも掛けたいけど、教えてくれないかしら? 便利なものは出来るだけ覚えたいんだが……。


 シュユが門の前に立ち、門に手を翳す。


 重厚な音と共に、門が自動的に上へ吊り上がった。どうやら、サシェス族の魔力に反応して吊り上がる仕組みになってるらしいな。


 さて、門の先には何があるのや、ら……?


「お、おおおっ! すげぇ……!」


 あっちを見ても、こっちを見てもエルフ、エルフ、エルフ! たまに布の際どいエロフ!


 あの幻のエルフがこんなにいるぞ! ……何かありがたみが無くなってきたな。


「御三方。まずは族長の元へ案内する。私から離れず着いてきてくれ」


「……分かった」


 そりゃ、こんな所で人間の俺達がはぐれたら、射殺されそうだし……。


 シュユの後からついて行きながら、周囲を見渡す。


 建物は基本的に木造建てだ。地面にそのまま建てているものもあるし、木の上に建てているものもある。一つ一つが調和の取れた外観で、自然と一体になっている感じだ。


「……ん?」


 何だろ……何となくだが、好意的な視線の方が多い気がする。当然全部じゃないし、中には見下すような視線もあるが……。


「ねぇシュユ。なんか周りの視線おかしくない? 人間ってエルフの敵じゃないの?」


 レアナも同じことを思ったのか、シュユに話しかけていた。


「いや、そういう訳でもない。自然派のエルフは確かに人間を目の敵にしている奴もいるが、それも少数だ。特にここは革新派のエルフが集まっているからな。人間には好意的なエルフが大多数になる」


 なるほど。だからさっきからあのエロフ達は俺を誘惑してぐふふふ。


「「じーーーー……」」


「……レアナ、リエン。何故俺をそんな目で見る」


「「イヤらしい妄想をしてる顔をしてたから」」


 こいつら超能力者か? いや妄想なんてしてないけどねっ!


 二人からのジト目を華麗に受け流していると、シュユの足が止まった。


 他の建物と同じく木造だが、明らかに大きさが違う。いや大きさではなく、木造建ての家を木の根っこが覆うように巻き付き、その上に巨大な樹木がそびえ立っている。


 樹木からは、神秘的で暖かな光の粒子が舞い落ちる。それが地面に溶けるように消えていき、光の粒子が落ちた部分が僅かに光っている。


「……凄い……」


「神聖な感じですね……」


 二人の言う通りだ……これはずっと見てられる……。


「シュユ、まさかこの樹が、宝樹リシリアか……?」


「いや、その苗だ。数万年の悠久の時を、枯れることなく我らを見守っくれている。一説では、宝樹リシリアと交信するために植えられたらしい」


 苗……このデカさで苗って、本体はどれだけデカいんだ……。


「さあ行こう。族長がお待ちだ」


 ……何か、一気に緊張してきた……。


 深呼吸を一回、二回、三回……よし、戻った。


 シュユの後に続いて扉を潜る。


 家の中は、大洋館とはまた違った、趣のある豪華さだった。一つの木だけでなく、複数の種類の木々を合わせて造られた内部は、どこか暖かみを感じさせてくれる。


 紙の貼られた扉が左右に連なる廊下を歩き、階段を二階、三階と上がっていく。


 三階の突き当たり。これまでで一番繊細で、細密な作りの扉が現れた。


「族長、シュユです。お話させていただいたジオウ殿、レアナ殿、リエン殿をお連れ致しました」


 シュユの掛け声に、待つこと数拍。






『……入るが良い』






 …………っ。


 これ、は……何だ……? 言葉の節々から感じられる圧力は……。


 声自体は、まるで鈴を鳴らしたような……いや、小鳥の鳴き声のような、優しく耳に残る声だ……。


 脳が溶けるような……体から感覚が抜けて、痺れ……。


 …………まさかっ。


「覇ァッ!!!!!」


 咆哮一閃。


 感覚は……よし、戻ってるな。


 脳が溶ける感覚も、体が痺れる感覚も無い。


「お、落ち着きなさいジオウっ。これから族長に会うのよっ」


「何してるんですかっ、気でも狂ったんですか……!?」


 ……どうやら、二人には今のは掛かってなかったみたいだ。俺にしか掛からなかったのか?


「……まさか、ジオウ殿。今の・・を自力で解いたのか!?」


「……やっぱり族長の魔法だったのか。確かに高練度の幻惑魔法だったが、破り方を知っていれば何も問題は無い」


 声や仕草で相手の精神を惑わせる幻惑魔法。完全に掛かればアウトだが、掛かる前にそれを上回る魔力と気迫を放てば、解除は可能だ。


「え……どういう事ですか?」


「今族長は、俺に対してだけ幻惑魔法を使ったんだ。恐らく、幻惑の中でも異性に使われる、魅了の類だな」


 二人に説明していると、中から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


『くかかかかっ! まさか妾の魅了を、一度で破る男がいるとはのぉ! 面白いぞ、早う顔を見せるのじゃ!』


 ……上から目線は気になるが、ここでいつまでも立ってても仕方ない。


 シュユに目配せすると、豪勢な作りの扉を開いた。

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