パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る
第15話 戦争準備
シュユがうちに来て一週間が経った。
一応シュユの集めるべき供え物は集まっているから、今は館でいつも通りの生活をしている。
本当ならエルフの里に行ってみたい所だが、それはシュユが族長に許可を得ている最中だ。慌てることは無いだろう。
だけど……この一週間、シュユは何やらずっと難しい顔をしている。何かあったのか?
レアナもそれを感じ取ったのか、庭先で唸ってるシュユに声を掛けた。
「シュユ、どうしたの? 顔面がオークみたいになってるわよ」
「……エルフに向かって、エルフの天敵であるオークを例えにするのはどうかと思うが……これを読んでくれ」
シュユが渡してきた一枚の手紙。
……こ、これは……?
「シュユ……」
「ああ、その通りだ。これは極めてまずい状況で──」
「あ。ごめんそうじゃなくて、読めん」
「え? ……あっ」
シュユは一瞬で顔を真っ赤にして手紙を奪い取ると、コホンと咳払いをした。
「え、えーと、簡単に言えば、今里に帰るのはまずい。私の紹介ということもあり、族長本人は歓迎してくれるそうだ。だが、最近になって他族からの嫌がらせが多く続いてるそうだ」
他族からの嫌がらせ?
「それは前に言ってた、レグド族とテサーニャ族の事か?」
「ああ。神樹デルタの活性化に伴って昔から行われている事だが……今回に限って、嫌がらせの度が過ぎているらしい。人的被害は無いが、農作物を荒らされたり、破壊工作もされているんだとか。こんな事今まで無かったが、恐らくは……」
「相手もそれだけ本気ってこと、だよな?」
こくりと頷くシュユ。
度が過ぎる、と言うか、過激化してきてるようだな……戦争の為の前準備、と言ってもいいだろう。だけど、何で今回はそんな過激に……?
考えていると、リエンがシュユに問いかけた。
「それ、今は抑え込めているのですか?」
「ああ。しかし神樹デルタの本格的な活性化まで、まだ時間がある。その時までこれが続けば、我がサシェス族も同胞のリスマン族も、疲弊してしまうだろう」
「その時になって押し込まれたらおしまい……ジオウさん、どうします?」
どうするって、そりゃやる事は決まってるけど……ん?
「……そもそも、レグド族とテサーニャ族は、何で神樹デルタの実を狙ってるんだ?」
シュユ曰く、口に含んだ者の力を数百倍から数千倍にするらしいが、何でレグド族とテサーニャ族はそれを手に入れたいんだ……?
この疑問に、シュユは苦々しい顔をして俯いた。
「……奴らの狙いは、今も昔も変わらない。奴らは我らを敵視し、自分達こそが神樹デルタの恩恵を受けるに相応しいと思っているんだ」
「……どういうこと? シュユ達四種族って、みんな同じエルフ族じゃないの? それなのに相応しいとか相応しくないとか……よく分からないんだけど」
レアナの疑問は最もだ。俺も実際そう思ったし。
だがその疑問に、シュユは目をぱちくりさせる。そのあと何か納得のいったような顔をした。
「人間には知られていないだろうが、厳密に言えば我らエルフにもそれぞれ違いがあるのだ。我らサシェス族はフェアリーエルフ。リスマン族はホーリーエルフ。レグド族はハイエルフ。テサーニャ族はダークエルフ。レグド族とテサーニャ族は人里近くには近寄らないから、その存在は知られていないんだろう」
そうだったのか……確かに初めて聞いたな。
そもそもエルフの文献や情報は、人間の世界には少ない。エルフ族の中にも種別があるなんて、エルフと交流のある人間じゃないと得られない情報だ。
頭の中で色々と整理していると、シュユが話を続ける。
「ハイエルフのレグド族は、昔から全エルフ族の中でも最も優秀な種族として知られている。そしてダークエルフと言うのは、ハイエルフから転じて生まれた種族。同じ血を色濃く受け継いでいるから、種族間の結束も強い」
……ああ、そういう事か。
「神樹デルタの恩恵を受けるに相応しいってのは、自分達こそが最良の血を持つからって意味か」
「その通りだ。だがそんな奴らに神樹デルタの実を渡したら……、力をつけた奴らがどんな暴挙に出るか分からん。だからサシェス族とリスマン族は結託して奴らから実を守ってきたのだ」
……力を求めるが故、か……何だか他人事じゃない気がするな……。
昔、俺のせいで【白虎】が狂った。冒険者ギルドも驕り高ぶっていた。それは、強すぎる力を持っていたからだ。
エルフ族も今、同じような状況に陥っている。
そう考えると余計に、何とかしなきゃいけないって気持ちが強まった。
「シュユ。サシェス族族長さんは、俺達のことを歓迎してくれるんだろ?」
「勿論だ」
「なら、今すぐ里に連れて行ってくれ」
「……話を聞いていたか? 今里は、レグド族とテサーニャ族からの嫌がらせを……」
「聞いてたさ。聞いてたからこそ、今すぐ里に行きたい。もしここで奴らに実を取られたら、それはエルフ族だけの問題じゃない。恐らく世界中を巻き込む問題になる」
【白虎】は、自分達こそが最強で、それを世界中に知らしめようとしていた。
もしエルフ族も同じ考えになったら、自分達こそ世界を統べるに相応しいと考えるだろう。そうなったら、最悪の場合世界と戦争になる可能性もある。
人間とエルフの戦争なんて不毛だ。絶対に阻止しないといけない。
それに加えて──クロ率いる謎の組織。今回はあいつらも絶対介入してくるだろう。セツナを買ったのは、絶対この時のことを見越してだと、俺は考えている。
地帝のエンパイオや、それ以上の猛者が出てきた場合、サシェス族もリスマン族も間違いなく滅ぶ。それが分かっていて、見過ごすなんて出来るはずがない。
「サシェス族もリスマン族も、俺達【虚ろう者】が、全力で守る。だから安心してくれ」
「……良いのか? こう言ってはなんだが……その、よそ者の御三方に頼ってしまって……」
「ギルド【虚ろう者】のモットーは、一つ『依頼完遂』。二つ『勧善懲悪』。三つ『抑強扶弱』。自分達が正しいと思うなら、好きなだけ頼れ。頼っちまえ。頼ることは恥じゃない。恥で後悔しちゃ、明日の飯も美味く食えないぞ」
俺の言葉に、ぐっと言葉を詰まらせるが、直ぐに覚悟を決めた顔で腰を折った。
「頼む。我らを、助けて欲しい……!」
……肩が震えてる。本当だったら、自分達の力だけでどうにかしたかったんだろう。
だけど、そんな気持ちを押し殺して、恥を忍んで頭を下げてくれた。自分達だけじゃ、もしかしたら失敗するかもしれないから。
それなら、頼まれた俺らの出来ることは一つ。
「おう、頼まれた」
うちにいる全勢力を以て、依頼人達を守るだけだ。
さあ、戦争だ──。
一応シュユの集めるべき供え物は集まっているから、今は館でいつも通りの生活をしている。
本当ならエルフの里に行ってみたい所だが、それはシュユが族長に許可を得ている最中だ。慌てることは無いだろう。
だけど……この一週間、シュユは何やらずっと難しい顔をしている。何かあったのか?
レアナもそれを感じ取ったのか、庭先で唸ってるシュユに声を掛けた。
「シュユ、どうしたの? 顔面がオークみたいになってるわよ」
「……エルフに向かって、エルフの天敵であるオークを例えにするのはどうかと思うが……これを読んでくれ」
シュユが渡してきた一枚の手紙。
……こ、これは……?
「シュユ……」
「ああ、その通りだ。これは極めてまずい状況で──」
「あ。ごめんそうじゃなくて、読めん」
「え? ……あっ」
シュユは一瞬で顔を真っ赤にして手紙を奪い取ると、コホンと咳払いをした。
「え、えーと、簡単に言えば、今里に帰るのはまずい。私の紹介ということもあり、族長本人は歓迎してくれるそうだ。だが、最近になって他族からの嫌がらせが多く続いてるそうだ」
他族からの嫌がらせ?
「それは前に言ってた、レグド族とテサーニャ族の事か?」
「ああ。神樹デルタの活性化に伴って昔から行われている事だが……今回に限って、嫌がらせの度が過ぎているらしい。人的被害は無いが、農作物を荒らされたり、破壊工作もされているんだとか。こんな事今まで無かったが、恐らくは……」
「相手もそれだけ本気ってこと、だよな?」
こくりと頷くシュユ。
度が過ぎる、と言うか、過激化してきてるようだな……戦争の為の前準備、と言ってもいいだろう。だけど、何で今回はそんな過激に……?
考えていると、リエンがシュユに問いかけた。
「それ、今は抑え込めているのですか?」
「ああ。しかし神樹デルタの本格的な活性化まで、まだ時間がある。その時までこれが続けば、我がサシェス族も同胞のリスマン族も、疲弊してしまうだろう」
「その時になって押し込まれたらおしまい……ジオウさん、どうします?」
どうするって、そりゃやる事は決まってるけど……ん?
「……そもそも、レグド族とテサーニャ族は、何で神樹デルタの実を狙ってるんだ?」
シュユ曰く、口に含んだ者の力を数百倍から数千倍にするらしいが、何でレグド族とテサーニャ族はそれを手に入れたいんだ……?
この疑問に、シュユは苦々しい顔をして俯いた。
「……奴らの狙いは、今も昔も変わらない。奴らは我らを敵視し、自分達こそが神樹デルタの恩恵を受けるに相応しいと思っているんだ」
「……どういうこと? シュユ達四種族って、みんな同じエルフ族じゃないの? それなのに相応しいとか相応しくないとか……よく分からないんだけど」
レアナの疑問は最もだ。俺も実際そう思ったし。
だがその疑問に、シュユは目をぱちくりさせる。そのあと何か納得のいったような顔をした。
「人間には知られていないだろうが、厳密に言えば我らエルフにもそれぞれ違いがあるのだ。我らサシェス族はフェアリーエルフ。リスマン族はホーリーエルフ。レグド族はハイエルフ。テサーニャ族はダークエルフ。レグド族とテサーニャ族は人里近くには近寄らないから、その存在は知られていないんだろう」
そうだったのか……確かに初めて聞いたな。
そもそもエルフの文献や情報は、人間の世界には少ない。エルフ族の中にも種別があるなんて、エルフと交流のある人間じゃないと得られない情報だ。
頭の中で色々と整理していると、シュユが話を続ける。
「ハイエルフのレグド族は、昔から全エルフ族の中でも最も優秀な種族として知られている。そしてダークエルフと言うのは、ハイエルフから転じて生まれた種族。同じ血を色濃く受け継いでいるから、種族間の結束も強い」
……ああ、そういう事か。
「神樹デルタの恩恵を受けるに相応しいってのは、自分達こそが最良の血を持つからって意味か」
「その通りだ。だがそんな奴らに神樹デルタの実を渡したら……、力をつけた奴らがどんな暴挙に出るか分からん。だからサシェス族とリスマン族は結託して奴らから実を守ってきたのだ」
……力を求めるが故、か……何だか他人事じゃない気がするな……。
昔、俺のせいで【白虎】が狂った。冒険者ギルドも驕り高ぶっていた。それは、強すぎる力を持っていたからだ。
エルフ族も今、同じような状況に陥っている。
そう考えると余計に、何とかしなきゃいけないって気持ちが強まった。
「シュユ。サシェス族族長さんは、俺達のことを歓迎してくれるんだろ?」
「勿論だ」
「なら、今すぐ里に連れて行ってくれ」
「……話を聞いていたか? 今里は、レグド族とテサーニャ族からの嫌がらせを……」
「聞いてたさ。聞いてたからこそ、今すぐ里に行きたい。もしここで奴らに実を取られたら、それはエルフ族だけの問題じゃない。恐らく世界中を巻き込む問題になる」
【白虎】は、自分達こそが最強で、それを世界中に知らしめようとしていた。
もしエルフ族も同じ考えになったら、自分達こそ世界を統べるに相応しいと考えるだろう。そうなったら、最悪の場合世界と戦争になる可能性もある。
人間とエルフの戦争なんて不毛だ。絶対に阻止しないといけない。
それに加えて──クロ率いる謎の組織。今回はあいつらも絶対介入してくるだろう。セツナを買ったのは、絶対この時のことを見越してだと、俺は考えている。
地帝のエンパイオや、それ以上の猛者が出てきた場合、サシェス族もリスマン族も間違いなく滅ぶ。それが分かっていて、見過ごすなんて出来るはずがない。
「サシェス族もリスマン族も、俺達【虚ろう者】が、全力で守る。だから安心してくれ」
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俺の言葉に、ぐっと言葉を詰まらせるが、直ぐに覚悟を決めた顔で腰を折った。
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……肩が震えてる。本当だったら、自分達の力だけでどうにかしたかったんだろう。
だけど、そんな気持ちを押し殺して、恥を忍んで頭を下げてくれた。自分達だけじゃ、もしかしたら失敗するかもしれないから。
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